三十二人の罪人達
鹿目 執和
序章 -1
プロローグ
私も罪人だ。
菜穂は徐々に薄れていく意識の中、そんな事を思っていた。
後悔しても、もう遅い。神様なんていなかったんだ…。
たった一人の親友ですら私は…。暗く真っ黒な世界が菜穂を包み込んだ。
序章
ザァァァーー、外からは雨の音がしていた。まだ、二月なのに梅雨じゃないかと錯覚するくらい連日、雨が続いていた。昼下がりだというのに、雨のせいで、部屋全体が薄暗くなっていた。「雨、強くなってきてるね。」美咲が窓の方を見ながら呟いた。「…そうだね。」菜穂が返事をする。カーテンの隙間から薄明かりが部屋の中に射し込んでいた。江華女子高等学校に通う、古崎菜穂と宮城美咲はお互い肩を寄せ合いながら座っている。菜穂はぎゅっと、美咲の服の袖を掴んで、堪えていた涙をこぼした。声を出さず、静かに啜り泣く菜穂。エアコンの音とそして雨音だけが部屋にこだましていた。
今日は休日とあって、朝から美咲は菜穂の家に訪れていた。菜穂の家は住宅街に並ぶ一般的な二階建ての一軒家だ。外観は白がベースで所々に黒のラインが入って、右側に車が二台停められるスペースがある。両親は出掛けているみたいだった。いつものことだな、と美咲は思った。菜穂の両親はどちらも仕事で忙しく、早朝から家を空けることが多いことを昔、菜穂が教えてくれたからだ。家の前に着き、インターホンを鳴らすと菜穂が出迎えてくれた。お互い挨拶は交わさなかった。美咲は玄関で靴を脱ぎ、傘立てに持ってきた傘を入れる。そして、用意されていたスリッパに履き替え、端にある右側の階段から菜穂と一緒に二階に上がる。二階には三つの部屋があり、手前に物置部屋と父親の書斎の部屋が向かい合わせになってある。菜穂の部屋は物置部屋の隣だ。部屋に入るといつもの匂いがした。ほんわりと少し甘い香り。菜穂の部屋はいつきても、整理整頓されていて綺麗な状態が保たれていた。部屋の真ん中に薄ピンクのローテーブルと丸いふかふかの薄ピンクの座布団が一つ。ローテーブルの上にはリモコンが3種類あった。テレビ、エアコン、部屋の電気のリモコンが、それぞれ綺麗に並べられていた。その前には液晶テレビとテレビ台ある。床はフローリングの上に白いカーペットが轢いてあった。右側は勉強机と本棚、左側には物置棚があり、その上には高校の入学式の時に撮った菜穂との写真が飾られていた。菜穂はぬいぐるみだとか女の子が好きそうな物を置くタイプではなかった。美咲は殺風景な部屋だなと昔から思っていた。小学生の頃、菜穂にぬいぐるみを渡そうとして、「いらない。」と断れたことがあり、喧嘩してしばらく口を聞かなかったことがあったなと、美咲は思い返していた。時間が過ぎていく。菜穂は美咲の温かさを感じていた。菜穂にとって、美咲とのこの時間だけが、心が休まる唯一の時間だった。
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