第52話 『時間の外』

「やれやれ、時間の外側というのは退屈な空間だな、『俺』」

「そうだな、『俺』」

「記憶の引継ぎまでされてしまっては、話すこともないからな」

「『未来』の俺よ、あんたに押し付けられた記憶の先、違う結果を知っている俺の方が退屈しなかったのか、あるいは逆か?」

「それは言わない方が良さそうだ......『俺』」

「俺たちの夢に出てきた謎の声、あれのまねごとをして遊び始めたあんたにしては良い判断だな」

「それもそうだな......」

 沈黙。

 俺、斎藤佳助、いや、『異能閉鎖都市東京』から飛んできた方の俺は、無限に感じるような時間で、預言者ごっこをして遊んでいたのだ。そうでもなければ、気が狂っていただろう。

 滑らかで、温かく、冷たく、硬く、柔らかい。そんな地面が無限に続いている。地平線も見えない辺り、本当に無限の平面か、球面の内部のような地面だ。

 そんな中で現れたもう1人の『俺』。

 『時渡り』で俺の記憶と『異能』を引き継いで、また自身も『時渡り』でバトンを渡した、ほぼ同一人物同士である。

 何を考えているか分かってしまう問答も詰まらないことで、長続きしない。

 あえて反対意見を主張するディベートごっこからしりとりまで、身1つ、いや2つでできる遊びは全てやりつくしたのだ。



「寝るか」「そうだな」

 もう、どちらの『俺』が言い出すかも重要ではないのである。

 戦いのために命を張った気がするのだが、気の遠くなる時間で、感情は薄れつつあった。

 だが、呑気に寝て、呑気に起きる、意外な頑強さを『俺たち』は発揮していた。

 と、その時、俺を『黄金』の奔流が包む。

「これは......!」

 もう1人の俺には変化は無い。

「『どこか』の『時渡り』の持ち主が助けに来たんじゃないか?3人目の『俺』だったりしてな」

 寝そべるもう1人の俺。俺はもちろん飛び起きていた。

「呑気に言うじゃないか......ここから出られるのは俺だけかもしれないのに!」

「飲まず食わずなのに肉体はおろか精神にさえ影響が無い。

 この空間が整えてくれるバイオリズムはそこまで配慮が行き届いている。

 行って来いよ。

 ここよりは厳しい世界が待ってるぞ?」

「そうか......そうだな!待っていてくれ!『俺』!」

 


 『未来』の、いや、『俺の前の俺』が『黄金』の粒子になるのを見送った直後に、俺の体も『黄金』に包まれる。

「かっこつけ損だな、俺も、『俺』も。

 時間の概念が無いのに前後があるのは、人間の脳の認知によるものだろうか......物理学か、哲学か、どちらにせよ、専門外だが。

 じゃあな、案外悪くない体験だったぞ、『時間の外』ってのは」

 ついに、視界が『黄金』に染まった。

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