第37話 散りゆく者たちー4
まるで、病院か、葬儀場か。静謐な空間。
大きく螺旋を描く通路のその先、網膜に『投影』を試みるも、何も視えない。何かはあるが、認識できない、みたいに。
「あの、お二人は見えますか?」
感知系の橋本と神奈川に問う。
「ううん。光の奔流......いいえ、光ではない何かで何も」
「同じくですー。何かがあって、『異能』が絡んでることまではー」
時子さんが身震いする。
「ここは......。神崎本家と同じですわ」
「嬢ちゃん、知ってるのかい?」
「神崎家は、『異能』の秘匿を担う旧い一族なのです。
ここに満ちるのは、『異能者』を人為的に生み出す、神崎本家の社殿と同じ空気です」
「ぞっとするねェ」
「でも、どこか温かい気がします。懐かしいような......」
見えなかった、開けた空間に出る。30 mほど先に黒い台が2つ。片方には、先生が横たわっている!
「先生!」
「っ!駄目だ!来るな!」
先生の右腕から、閃光が奔る!あまりの眩しさに目が眩む。
気付けば、田中が僕と時子さんを両脇に抱えていた。大岡は橋本と神奈川を掴んで5 mほど浮遊している。
目の前の白い床が赤熱している。
熱気だけで目が焼けそうだ。
「伯母様......いえ、
これは、7年前と先日の事件と同じ、空良兄さまの『異能』ですね!?」
時子さんが叫ぶ。
その視線の先には、白装束の女性が、もう1つの台に右手を置いている。
「貴女は用済みですよ、時子さん。
本家でもない、『異能』も持たない貴方はこの聖域に立ち入るべきではありませんでした」
先生から閃光が放たれる。
それは、高温によりプラズマ化した空気だ。
いや、科学的にそうであるだけで、『異能』による現象は常識では計れない。
田中の高速移動により躱すも、距離はさらに開いてしまった。およそ、50 m。
先生が苦悶の声を漏らす。右半身から煙が立っている。
「仮の器では長くは保ちませんね。
儀式の前に焼き切れては困ります。失せなさい。人間」
「『ジャガー』!後ろ!」
橋本の声に身を翻す田中。
だが、衝撃で僕と時子さん諸とも吹き飛ばされる!
その一瞬、世界が回る。
田中が空中で僕たちを掴み、着地する。
が、膝を付く。
「いたた......。
悪いね、お2人さん。ジャガータクシーはここまでだな」
その大きな背には、袈裟に断ち切られた赤い割れ目。
空間の入り口に、虚ろな目をした女生徒が立って......糸が切れたかのように崩れ落ちた。
田中は、ごぼりと血を吐く。
「田中さん!しっかり!」
時子さんがその体を支える。
田中は首を横に振ると、僕の目を見た。目が離せない。
田中は、頷き、血の混じった息を吐く。
右手の親指を立てるも、その腕はだらりと垂れていた。
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