第35話 散りゆく者たちー2

 時子さんと橋本千里が主に喋る1時間のうちに集まった『協会』メンバーは、『モンキー』『ホーク』『ウサギ』『ライオン』『カメ』『ジャガー』『ハクチョウ』だった。

 彼らはかつてVR仮想現実空間サーバーで名乗っていたコードネームで呼び合う。

 彼らはネット上で交流していた『異能者』集団で、社会との関わり方などの悩みを共有するサークルだった。

 『異能』を積極的に社会のために使わないことが許せなかった僕は、サーバーをハッキングした。

 その事件で、先生と出会った。

 僕は彼らを知っているけれど、彼らはそうじゃない。

 


 言わなくちゃ。

 あなたたちを攻撃した人物は僕だって。

 


 自己紹介が進む。


 

 『トナカイ』橋本千里、『千里眼』での透視と遠視

 『モンキー』烏山からすやま健児、『超速再生』で即死以外の致命傷をも無視できる

 『ホーク』大岡大地、『風神甲冑』で透明化と飛行が可能

 『ウサギ』神奈川千尋、『浸透感知』で影響下にある物体に働くチカラを感知する

 『ライオン』志村大志、『認識阻害』で任意の生物を他者から感知できないようにする

 『カメ』石井正樹、『超集中』で自身の体感時間を100倍に引き伸ばす

 『ジャガー』田中悠斗、『超加速』で瞬間的に骨格筋の一部位を加速できる

 『ハクチョウ』中村瞳、『感情操作』で自他の感情を自在に操る


 

「僕は、山口悟。

 佳助さんの助手です。

 『異能』は『情報転写』、光や音から、電子データまで、蜃気楼のような虚像を投影出来ます」

 『ライオン』志村、『カメ』石井が息を呑む。

「言いにくいことは、言わなくていい」

 石井が噛みしめるように言う。でも、言わなくちゃ。

「そして、かつて『協会』を攻撃した『異能者』でもあります。

 その節は、本当に、ごめんなさい」

「あれだけのチカラ、扱いに困っただろう。俺のは単純で扱いやすいから、そう悩むこともないと思うかもしれないけど」

 『ジャガー』田中が肩を叩いてくる。

「俺、元ラグビー選手なんだ。子供のころから、自分の『異能チカラ』を知ってた。普通の人間は俺より弱い、そう思ってた。

 でも、クラブチームから大学、プロへと進むたび、そんな考えは薄れていったね。

 俺より速いやつは居なくても、俺より上手いやつはゴロゴロいたんだ。

 『異能』を使った上でトライを取られたことも何度もある。

 強くても、神でもあるまいし、人間の得手不得手の範囲なんだ。

 だから、俺たちは力を貸すんだ」

「えー?

 私たちに攻撃してきたんでしょー?

 千里さんが言うから来ただけなんですけどー」

 けだるげに口を挟むのは、『ウサギ』神奈川だ。以前直接顔を合わせたことがある......と思う。僕のことを頼りないだのと言ってくれたんだった。

「それは、そう」

 そうとしか答えられない。ただ、頭を下げる。

「いや、頭を下げて欲しいんじゃなくてー。

 ......後で探偵さんと一緒にちゃんと話してくれるなら、今は仲間っていうかー」

「可愛い『ウサギ』ちゃんに感謝しなくちゃね?助手くん?」

 顔を上げると、みんな笑ってる。

「じゃあ......」

「勝手して捕まったドジな探偵さんを助けに行こうってことさ」

 志村の声に、頷く『協会』の8人。そこに、時子さんが遠慮がちに手を挙げる。

「私には『異能』がありません。

 ですが、神崎の流れをくむ者として、この事件は見届けたいと思いますの。

 内情に詳しいものとして、同行させていただけますでしょうか?」

「俺の『異能』、『超速再生』は、俺しか守れねえ。

 他のみんなもそうだ。

 あるいは、他人しか守れない『異能』もある。

 それぞれの力、『異能』も、知識も、全部使って助け合う。恨みっこも、自分を責めるのも無し。

 そういう覚悟、あるんだよな」

 『モンキー』烏山が問う。当然、答えは。

「もちろんですわ。

 佳助さんが私たちを助けたのです。

 今度は、私が、みなさんと助け合って、助けるだけですわ!」

 10人、神崎女学園へと向かう。

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