第32話 神崎女学園7不思議ー6
眼には見えない、しかし俺には『視える』巨大な手が俺たち3人を再び体育倉庫へと放り込む。俺たちが地面に下ろされると、扉がピシャリと閉められ『碧い』錠前と鎖がかけられる。
振り出しに戻る、か。
「せんせぇ……。どうしましょう!?」
携帯電話を見ると、当然のように圏外である。
「うーむ、詰み、だな」
「先生ーーー!」
悟君は元気なようだ。放っておいても良いだろう。
心配なのは……。
「神崎さん、その……大丈夫ですか?」
「正直に申し上げますわ。何が何やら……!」
「落ち着く時間はあります。
彼女たちは我々を殺すつもりはありません。
少なくともすぐには。
些細なことですが、これを活かして、情報の整理をしましょう」
「申し訳有りませんが、その時間、感情の整理に使わせていただけませんか?」
とても冷静ではいられませんから、と時子は声を震わせる。
「はい。では、おせっかいを1つ。我々は探偵です。依頼主の秘密は守ります。ここで何を聞いても、外に漏れることはありませんから」
時子は頷き、そのまま俯いた。沈黙が場を支配する。
「どうするんですか、先生......」
「詰み、と言ったが、王手と言ったほうが近い。
監禁としては50点に『異能』を足して100点というところだ」
「100点満点の監禁状態なら、逃げられないじゃないですか!」
「いいや、こと俺たちを捕らえるならば、満点は200点だ。
物理的、『異能』的側面でそれぞれ100点満点。
得点率50%ならお粗末なものだ。
俺たちが70点の脱出プランに30点の『異能』を使えば超えられる」
「じゃあ、策があるんですか!?」
「それはこれから考えよう。
答えがあるということは断言するよ。
まず、俺たちはここがどこで、どうやってここまで来たかを知っている。
妨害さえなければ5分で敷地外まで逃げられるだろう。
一般生徒や教職員に手が及んでなければ、正式に退出手続きも済ませられるくらい、堂々と。
最悪のケースでも、不良生徒が使う抜け道や乗り越えやすい塀は手薄なはずだ」
「そんなのあるんですか?女子校ですよ?」
「......ありますわ」
時子の声。
手にハンカチを握りしめて少し震えているが、視線は力強い。
「南門から東に塀沿いに進みますと、入学記念植樹のための盛土があります。
今月は業者が入っていますので、赤外線センサーが切られていますの」
やんちゃ盛りの生徒が門限破りを誤魔化すために使うのだと、時子は呆れる。
「南門と言いますと、体育館がある北西から敷地を横断することになりますね」
「ええ。逆に言えば、追手を……いえ、『敵』を分散させることが出来ますわ」
敵、と語る瞬間、眉をひそめる時子。
この年齢の少女が慣れているはずもない覚悟。俺は哀しみを覚える自分自身を押さえつける。
今は、彼女の言うように敵と相対すべきなのだ。
「では、土地勘のある神崎さんが本命の南門へ、囮の俺は北門、悟君は虚像を出しながら神崎さんについて行く、これでどうでしょう?」
「「それはダメ」ですわ!」
猛反対の青年と少女。だが、仕方がないのだ。
「良いですか。
まず、神崎さんは巻き込まれただけ、悟君は俺のついででほぼ同じ、そして、俺は年長者で成人です。
2人を守る義務がある。
次に、その義務がありながらも、作戦に2人を組み見込んでいるのです。
当然、一番危険な役割は引き受けます。
最後に、逃げ切った者が取り残された者を助けることを期待しての役割分担です。
学園内部の人間である神崎さんが逃げ延びるのは、この場3人のためになるのです」
......沈黙する。ここで沈黙を破るのは......。
「分かりました!助手として、探偵をサポートするのが僕の仕事ですから!」
「ああ。任せる!」
時子がそろりと手を挙げる。
「逃走経路については決まりましたが、肝心の脱出方法はどうするのです?」
「先生お決まりのハッタリですよね!?」
人聞きが悪いな......。俺が詐欺師のようではないか。
「今日は3人で演劇、だな」
時子が俺たちを見る目がみるみる間に冷えていった。
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