超常走狗
第27話 神崎女学園7不思議ー1
「神崎女学園!?あのお嬢様学校で仕事ですか!?」
「説明が省けて助かるよ。
以前、記者を名乗って教職員の他には生徒会に世話になったんだ。
『非常識探偵』の話が依頼主の一人のOGから流れたらしく、以前の取材が悪だくみだとバレたってところだろう」
「女子校で何やってるんですか!?
訴えられたら負けますよ!?」
「記者なのは本当だぞ?
ネット記事しか書いたことないが、名刺ならある」
「うわぁ......そっちのが引きます。
職業倫理はどうなってるんですか?」
「ちゃんと記事にはしたぞ?
没になったが」
顔をしわくちゃにして俺を睨むのは、斉藤探偵事務所の助手、経理、事務(電子データに限る)、情報システムを担う青年、山口
とある事件で出会った色白長身やせ型の青年にこれだけ頼っているのは、彼の才能......『異能』によるところがある。
彼の『異能』は『情報転写』。
媒体さえあれば、情報を投影できる。
視覚、聴覚といった光と空気を媒介とする情報はもちろん、電子データすらも彼の思うままだ。
いうなれば蜃気楼。
電子の世界と現実世界を行き来することで、彼は現代社会において『無敵』だ。
その『無敵』故に彼は社会に馴染むことを諦めていたのだが、ひと悶着を経て、同じく『異能者』であり探偵である俺の下に転がり込むこととなった。
「詫びを入れましょう!
心証が大事です!」
「君がそんなこと言えるようになったのは、喜ぶべきかな......」
「そんな場合じゃありません!
訴訟は僕の『異能』の弱点なんです!」
「まあ落ち着いて。
まず、メールは生徒会メンバーが書いたものを顧問がメールしてきた。
つまりはまだ訴訟にはなってない」
「まだ!?」
「これは、生徒主導、そして教員公認ということだ。
訴訟ではないよ」
「まだ!?」
「まあ、まだ」
「せんせえ......良いお菓子選びましょうねぇ......」
お菓子で解決はしないだろうが、手土産は必要だろう。
「それじゃあ行こうか」
「どこに?」
「和菓子屋に」
「いーやー!もうだめだー!」
俺の『異能視』はあまねく生命に宿る力を『視る』。
思うに、『異能』とは、使いこなすことが難しいだけの普遍的な力だ。
いずれは科学の手で解明されるだろう。
『異能』の有無は使いこなすために体の一部位に『色彩』が集中しているか否かで分かり、そのポテンシャルは『濃さ』で分かる。
俺が『視る』ことには条件が1つある。
それは、肉眼で、直視することだ。望遠鏡、カメラ、液晶画面、鏡。そういったモノを経由してしまうと『視えない』。
最近は『視える』頻度が上がったため、伊達メガネをかけるようにしている。さて、これで俺の印象は柔和になるか、胡散臭くなるか……。
悟君はノーコメントと言って逃げてしまい、偶然会った
せめて言葉で伝えて欲しい。
千里さんは、警察時代の先輩の奥さんだ。
その先輩、橋本
剛さんが殉職した事件には『異能』が関わっていたため、千里さんが『異能者』であることを『視た』ときは動揺したものだ。
千里さんは『協会』と呼ばれる『異能者』のコミュニティで中心的な人物の1人であり、派閥を率いてしまっていることを除けば、不穏な要素はない。
彼女は人と関わることを続けている。
個人的には、精神の健康を証明するのが交友関係だと思っている。
だが、組織運営の面では、トップが2人いるのはいかがなものかと思う。
もう1人は、髭面で恰幅が良い威厳たっぷりの心理士、驚くことに俺と同い年であった
彼が『協会』の創始者で、リーダーである。
かつての『協会』は、VR空間での匿名グループであった。
適度な相互干渉によって、リテラシーを守り、現代社会の秩序を維持し、『異能者』個々人も人間として健康であれるように。
まあ、それを強制顔バレ攻撃で壊したのが悟君なのだが。
駅前商店街の端に和菓子屋はある。
いつも事務所で来客用に羊羹を仕入れているのはこの昔ながらの店だ。
「こんにちは。
今日は手土産にちょうど良いものを探しているのですが……」
「個包装の羊羹はいかがです?日持ちもしますよ?」
差し出されたサンプルとにらめっこ。
悟君は俺の肩越しに覗き込む。
1セット内で味もいくつか種類があるようだ。
案外、女生徒は抹茶味を好むことがあるらしい。
信頼性のない噂だが。
「それじゃあ、12個入りを包んでもらえますか?
簡易なラッピングで、袋は念の為予備も下さい」
かしこまりました、と答えるや否や、早業で箱が紙に包まれ、再び箱の形状になった。
こういう細かい仕事でも、職人技だと俺は思い、尊敬する。
俺にはとても出来ない。
店を出ると、悟君がひょこひょこと着いてくる。
俺より10歳近く若い彼は、『異能』を自覚してから引きこもって軍事国家への破壊工作に没頭していたという。
なんとまあ……大変な青年期を過ごしてきたものだ。
すっかり社会に疎くなってしまった彼は、こういった用事についてきては少年さながらに眼を輝かせている。
「和菓子、女子校生にウケますかね?」
「和菓子には煎茶だからな。生徒会で紅茶はないだろう。和菓子が良いんだ」
どうですかねー、と言う悟君。
これはハッタリだからその反応は間違いじゃないぞ。
そんな会話をして、事務所に戻る。
明日、俺達は神崎女学園に向かう。
そう、かの神崎
前回は集中した『色彩』を『視る』ことはなかったが、今回もそうとは限らない。
気を引き締めようと、頬を叩く。悟君がビクリと身をすくめた。
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