第22話 電脳森林ー1
そのサーバーを見つけたとき、僕は心底イラついた。
なんの仕掛けもなく、無防備にチャットサービス内で立ち上げられたワールド。
僕の『異能』ならば、中を覗き見るだけならばトラフィックの経由サーバーの1つでも特定できれば十分だった。
『異能』の存在を明かして会話する『異能者』たち。彼らはなんてことない世間話をするためにこのワールドを使っている。
なんてくだらない。持つ者は持つ者の責任があるんじゃないのか。力を持って、することが仲良しサークルでのんびりだらりだなんて、許されて良いのか。
そんなことを思うところで、『トナカイ』が『ライオン』に話す内容が耳に届く。
「私の知り合いに1人、『異能』の存在に気付いたやつがいるんだけど、誘っても良い?」
「随分と迂遠な言い回しじゃないか、『トナカイ』。私の『異能』で彼だか彼女だかを試そうということだね?」
「話が早くて助かるわー。明日の朝6時15分に招待リンクメールを送るから、その10分後にはここに全員集合で良い?」
「む……急だが、深夜よりは良いかもしれないな」
「うん!決まりだね!」
これはチャンスだ。奴らのぬいぐるみみたいな仮面を取っ払って、僕が奴らの力を有効利用してやる。
そう思ったから、僕は早起きしてメンバーの端末を1つずつ、確実に支配していった。
そこで彼と出会った。
『非常識探偵』、斉藤佳助に。
彼は僕と唯一対等だ。
誰も僕の『異能』には逆らえない。そのはずだけれど、彼は圧倒的強者である僕にタンカを切った。
『名探偵の名推理』。彼は確かにそう言った。
探偵は好きだ。でも、僕が憧れたのは、その探偵すら相打ちにしか出来なかった悪のカリスマだった。
手を下すことなく裏社会を支配するチカラ。それは僕が持つ『異能』そのものだ。
僕は大義のために、このチカラを使って見せる。
僕は、アイツらとは違う。
あの探偵だけは、僕と同じ高みにたどり着ける。
見せてみろ、『非常識探偵』。
僕は使い古したVRゴーグルを付ける。
時刻は午前10時58分。
あの探偵が使うネットワークの糸を掴み、情報の河を堂々と進む。光の速さでたどり着いた「斉藤探偵事務所」の内部には、10個以上の携帯電話と13個のARグラス、その他プリンターなどのOA機器。
ARグラスの視点を覗き見て、最初に支配する端末を選ぶ。あの『探偵』が映っていない1つを選び、僕の『姿』を浮かばせる。
「こんにちは、探偵。
いや、斉藤佳助。聞かせてもらおうか。名推理とやらを」
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