第21話 崩壊、オフ会ー4(終)

 翌朝、午前10時20分。

『探偵』こと俺、斉藤佳助は応接室と事務室のパーティションを撤去した部屋、本来のLDリビングダイニングに立っていた。

 座る場所がなかった。

『ライオン』こと志村大志、『トナカイ』橋本千里は『協会』のリーダー格の2人だったらしく、VR仮想現実空間では男女に分かれていたメンバー達は、それぞれの派閥で固まっていた。

 互いに慣れた姿である動物のモチーフのアクセサリを身に付けているため、自己紹介も無く会話している。

 『ライオン』の傍には『フェニックス』の少年、『ユニコーン』の細身の女性、『ハクチョウ』の小柄な女性、『ドルフィン』の日焼けした男性、『カメ』の若い男性が輪を作っている。『フェニックス』のお手玉遊びは見事なものだ。技を披露するたびに小さく拍手する『カメ』。

 指笛を吹く『ドルフィン』を筆頭とした成人組の賞賛の声に飲み込まれるようだが、『ライオン』があたたかな拍手で加勢する。

 『トナカイ』は『ウサギ』の少女にすり寄られるのを躱して、『モンキー』と『ホーク』のスポーツマン風コンビに押し付ける。『バタフライ』の女性、『ジャガー』の大柄の男性は、起こった衝突事故に腹を抱えている。

 

 

 カオスに見えて、その実中心にあるのは2人だ。

 正直に言う。

 きな臭い集まりだ。

 男女で分かれているわけでもないのが厄介だ。

 つまりは、2人のカリスマ性に惹かれる2つの派閥、属人性の高い集団なのだ。『協会』の名、志村の語った寄り添える場、それは彼らの素質故に虚しく響く。志村は穏やかさで人を癒やし、千里さんは奔放さで人を惹きつける。リーダー2人にだけは、この集団は必要ない。

 志村はまだ分かる。

 俺と同じで、職業と『異能』が交差した事情があるのだろう。

 だが、千里さんは分からない。

 あの人は自分のアイデンティティーに悩むような人ではないし、人助けを積極的にするタイプでもない。

 ただ自由で、誰とでも打ち解けられるはずなのに気まぐれに人と関わる。

 例外は、亡夫である剛先輩くらいだ。

 2人は同い年の幼馴染で、中学時代に一度剛さんの引っ越しで離れたあと、大学で再会したらしい。剛さんがあまりそういうことを語らなかったので、これ以上は知らない。2人のことは、もう千里さんしか知らない。



 さあ、頃合いだ。



「皆さま、ご足労いただきましてありがとうございます。」

 ホントだよーと野次を飛ばすのは当然千里さんだ。

「トナカ……もういいか、千里さんにはお手伝いいただいております。

 私がこの場で行うのは推理ではありません。

 反撃です」

 場がざわめく。

「敵、と言いましょう。敵は電子機器に対して非常に強力な影響力を持ちます。

 そして、敵はこれからこの場にネットワークを経由して現れます。

 相手の土俵で戦うことになります」

 『モンキー』が言いたいことありげに背を預けていた壁から身を起こすが、これまで口を閉ざしていた『カメ』が鮮やかな『緑』を頭部に纏い、制する。

「言いたいことは......『探偵』、が話し終わってから......」

「ありがとう、えーっと、「『カメ』で良い。」

 ありがとう。『カメ』」

『異能』を使用する人間を『視た』のは初めてだ。

 これは中々……恐ろしいものだ。

 常識を超えた何かを、『カメ』はたった今行った。

 固唾かたづを呑み、恐怖を悟られないようにと呼吸をしようと意識する。

 不随意運動を意識した時点で、それは大きな矛盾だ。俺の様子を察したのは、志村だった。

「斉藤くん、続きを頼めるかい?君が一番話したかったのはここからなんだろう?」

 フォローが入り、なんとか気を落ち着ける。

「ありがとうございます、志村さん。

 ここからが本題なのです。

 相手の土俵で、相手の苦手な戦術を取ります」



 俺は作戦を伝えた。

 それぞれ、電源を切っていたであろう携帯電話を取り出す。

 時刻は10時45分、『敵』が予告した15分前だった。

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