第18話 崩壊、オフ会ー1

「それにしても、何故動物のアバターなんだ?

 俺が人型で招待されたのを考えると理由があるのか?」

 円卓の向こう側でピンクのウサギがぴょんと跳ねる。

「ここでは自分じゃない自分になれるのー。

 最初は無難な人型で招待されるのはみんな同じですよー」

 円卓は俺、『ライオン』『カメ』『ジャガー』『トナカイ』『ウサギ』『ハクチョウ』『バタフライ』『ユニコーン』『ドルフィン』『フェニックス』『モンキー』『ホーク』、俺の順だ。

 声からして男性陣と女性陣はそれぞれ固まっているようだ。

 まあ、どんなコミュニティも自由席ならばそうなるだろう。

 ......こんなデジタルの仮面を被っても肉体に縛られるのは技術が途上故か、倫理が未熟故か。

「そして、自分の姿を選ぶんだ!

 俺は『ホーク』、鷹のように自由な男を志している!よろしくな、『探偵』!」

「ああ。『ウサギ』、『ホーク』。よろしく頼む」

 『異能』についてアバターだけで察しがつく者もいる。『ホーク』は空に関する『異能』なのかもしれないが、問題は彼ではない。

「『フェニックス』は、直接的過ぎないか?

 自ら明かすのもルール違反なのではないか?」

 『フェニックス』は声の調子から少年のようだが......。

「うむ。

 ワシは不器用じゃけん。

 この場では本当のワシでありたいんじゃ」

 西日本の言葉、それもキツイ訛りだ。ライオンがフォローに回る。

「『フェニックス』の『異能』は『転生』なのだ。

 死すると、記憶だけを保持して赤子として生まれる。

 赤子の脳では記憶を正確に読み込むことが出来ないため、記憶の欠片を引き継いだ子供として成長するのだ」

「それでは、転生前の人格は......?」

「残らん。倫理観、常識、価値観は今のおかんとおとんから学んだもんじゃ。

 前世のわしは物語のようなものなのじゃ。理解も共感も出来るが、別人なんじゃ。

 そんなん、寂しいんじゃ」

 ......かつての『自分』はもう存在しない。現実世界にも知る者はいない。だから、ここで演じているのだろう。

「『探偵』さん、これだけの説明で分かった?」

 『ハクチョウ』が首を傾ける。

「大体は。『フェニックス』さんは皆さんにとって大切な仲間ですよね?」

「そりゃあね。話は面白いし」

「それ、彼が一番聞きたかった言葉ですよ」

「やめい!照れるんじゃ!」

 『フェニックス』が燃え上がる。......その炎から、少年が姿を現す。

「おろ?」

 


「これ、こういう仕様?」

 『フェニックス』だった少年、あまりの事態に口調が年相応のものになっている。

「いや、サーバーにカメラ映像は上がってこないし、明らかに処理能力を超えた描画だ。

 それに反して負荷はかかっていない」

 『ライオン』は鬣に前足を添えて状況を述べる。

 彼も動揺しているようだ、と思えば、恰幅の良い中年男が顎髭を撫でていた。

「なんと、これは......」

 今度は見逃さなかった。黒いブロックノイズに似た『色彩』。それがわずかに画面を走っている。

「おそらく、『異能』による攻撃です!対象はサーバーではなく、各端末です!」

 俺はマイクに向かって叫ぶ。それも虚しく、VR仮想現実空間に俺のリアル等身アバターが誕生した。

「大して変わらないじゃねーの!ずりぃぞ!」

 『モンキー』が引き締まった肉体の若年男性に変わる。

 まずい。これは効果的にこの『協会』を壊す攻撃だ。

 被害は不可避、反撃は不可能......いや!違う!

「みなさん、ログアウト前にひとつ言います」

「なにかね、『探偵』くん!」

「斉藤探偵事務所にお越しください!犯人を追い詰めてみせましょう!」

 


 俺はログアウトして、ブラウザアプリも閉じる。

 身バレ攻撃は攻撃差があった。1人ずつ、丸裸にしていた。ならば......!

 黒いノイズがPCを覆う。

 やはり来た!

「大きく出たな、斉藤佳助」

 加工音声が響く。

「当然だ。俺にとってお前は敵じゃない」

「面白いことを言うじゃないか、探偵さん」

 こいつはガキだ。安い挑発に乗ってきた。もう少し踊ってやるか。

「お前の企みはお見通しだ!」

「ハハハッ!聞かせてもらおうか!名探偵の名推理をな!」

「その前に、観客を招かせてもらおう。名推理を探偵と犯人とで独占するのは世界の損失だ」

「良いだろう!明日11時にまた来てやる!」

 高笑いを響かせて、ノイズは消えた。

 やっぱりガキでバカだ。いや、俺も楽しんでしまったが。


 

 机から携帯電話を取り、千里さんに電話をかける。

 ワンコールで繋がる。開口一番は、爆笑だった。

「見事な一本釣りじゃない!漁師になれるわよ!」

「勘弁してください。インターネットの海には煮ても焼いても食えないやつサメしかいませんから」

「違いないわ。臭くて食えたものじゃない」

「今、チャットにはあの現象は起きていませんね?」

「まあ、ね。ご丁寧にマップ付招待状が送られてきたけど」

「手間が省けました。全員が来ますかね?」

「それは、そうね。恐ろしい『異能』であることに違いはないから」

「では、明日事務所までお越しください。最高の推理をお見せしましょう!」

 通話を切る。

 おそらく情報端末に干渉する『異能』だ。聞かせて有利になるものだけ聞かせれば良い。

 


 予定は空いている。

 WEBページに連絡不可の告知を出し、金庫に電子機器を放り込む。

 明日が楽しみだ......。



 いや、そんなことはない!いや、あるのか?俺も名探偵に憧れるとは、結構ガキだったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る