第16話 Contact『協会』ー1

 朝6時、起床。さらりとした綿の白シャツに黒のスキニーで身を包む。

 温水で顔を洗って身支度を整えて、朝食の用意に取り掛かる。今日は少し多めに食べようか。

 

 

 今日は和食にしよう。冷蔵庫と冷凍室から食材を次々に取り出す。

 タッパーに入った一膳半合分の冷凍ご飯、同じく冷凍の塩鮭に小松菜のお浸し。

 インスタントみそ汁の具はガッツリ系の油揚げ。

 レンジに冷凍食材を放り込み、電気ケトルで湯を沸かす。

 湧いた湯で緑茶のティーバッグを躍らせる頃には、電子レンジが鳴る。


 

 素晴らしい。

 今朝の朝食は淀みなく、効率的に、そしてゴキゲンに摂れそうだ。

 味噌汁を啜ろうとしたところで、仕事用メールの受信音が響く。

 


 早朝のビジネスメール。後回しにしても問題は無い。

 だが、ここは住居兼探偵事務所、それも応接室なのだ。

 俺は携帯電話の画面に顔を向ける。



『非常識探偵 斉藤佳助様への招待状』



 イタズラそのものタイトル、しかし、俺はそうは思わなかった。

 そのメールには『色彩』があった。

 『異能』の存在を示す『色彩』、淡い『紫色』の光がぼんやりと浮かぶ。

 

 

『斉藤佳助様


 ご活躍の程、かねがね拝見しております。

 『異能』と呼ばれる人間に由来する怪現象を扱うオンラインコミュニティへのご案内を申し上げます。

 私たちは『協会』と名乗っており、『異能者』同士で交流を行い、社会との共生を目指して日々活動を行っております。

 つきましては、『異能者』であらせられます貴殿に『協会』への招待状をお送りいたします。

 末尾のリンクからお越しくださいませ。

 

 推奨スペック: ○○○

 最低スペック: ×××

 リンク: www.△△△...... 』



 簡素だがハイコンテクスト。

 「かねがね拝見」、ときた。

 俺が『異能者』であることまで把握している。

 この圧倒的優位性をちらつかせる姿勢、気に入らない。

 気に入らないからと言って無視することは危険だ。

 ......と思ったところで、新着メールを知らせる通知音。


 

『追記: 和風の朝食をごゆっくりお楽しみくださいませ』

 


 これは参った。明らかな脅しだ。

 ごゆっくりも何も、塩鮭などはもう冷めきっているのだが。

 今日は最低な一日になりそうだ。

 

 

 文字通り重く冷たい食事を終えて、ノートPCでリンクを開く。

 携帯電話ではスペック不足だったのだ。


 

 これは......!VR仮想現実SNS......!

 スーツ姿のアバターが既に作成され、ニックネームが『探偵detective』とされたアカウント登録画面にワンクリックで辿り着いていた。

 いや、用意が良すぎて怖いぞ、これは。

 覚悟を決めて、飛び込む......!



 そこには、円卓に座る12人の......12体の......なんだ、ファンシーなぬいぐるみのような物体が。

 黄色いライオン......のぬいぐるみが重厚なバリトンボイスを発する。


 

「ようこそ、『探偵』。我ら『協会』へ」

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