第11話 その探偵、斉藤佳助ー2(終)

「情報を整理しよう」


 

 神崎姉弟きょうだいが尋常の人間ではないこと、これには2つの要素がある。

 生物でなく霊体と呼ぶべき存在であることと、空良の超能力である。

 空良の能力はあの事件で初めて顕れたものではあるが、生者であっても扱えるものなのだろう。


 

「不明なことが2つになっただけだな…。海未、何か心当たりはあるか?」

 俺は1つの答えを期待して問う。

「ううん、何も。

 自分がこうなってるんだから、超能力もあって不思議じゃないけど......」

 仕方ない。俺から切り出すか。

「もしかして、君たちのお父さんは知っていたんじゃないか?

 何か言ってなかったかい?」

 顔をしかめながら、海未は渋々答える。 

「......家に逆らうにはこうするしかないって、そう言って泣いてた。

 7年前の事件は、父さんが起こしたって言いたいの?」

「いや、7年前に少し話しただけでも、お父さんは2人を大事に思っていたことは分かってるよ。

 だから、泣いてたんだ」

 一呼吸置いて続ける。俺も自分の感情を落ち着けなければ。

「でも、少なくともこうなることを知ってはいたはずだ。

 なら、空良くんを助ける方法もあるはずだ。」

 言ってから考え込む。

「…手詰まり、か…」



「おじさん、探偵なのに冴えないね…」

「言ってくれるな。自分でもどうかと思う」

 小説の名探偵が解き明かす事件ならば、すべての事柄は同じ根を持っているだろう。この事件では、怪現象が複数起きているのだ。


 

 WHAT、超能力と2人の霊化。

 WHEN、7年前。

 WHERE、あの場所。

 WHO、これは2人の父親としておこう。

 WHY、2人を守るため。

 HOWについては考えても無駄だろう。

 深堀りできるのはこのうち… 


「神崎家から守る…?

 あの商業施設には神崎家も出資していたはずだ。

 なら、まだ2人共囚われたままなんじゃないか?」

「2人共囚われてる…?

 私は逆に、あの事件現場にだけは近づけなかったんだよ?

 意識が遠のいていっちゃうんだけど、さっきはおじさんの後をつけてみたらたどり着けたんだ」

「そうか......。もしかして、君の肉体はそこにあるんじゃないか?」

「私もそう思う、というよりは感じる。それは正しいと思うよ」



 なるほど、根拠はスピリチュアルだが、存在自体がそんな彼女の言うことは信頼しても良いだろう。 

「怪しいのはあの慰霊碑だよな......」

 あれが2人を生霊と死霊にしているのだろうか。

「もしかして、超能力を持つ人間は空良だけではないんじゃないか?

 何者かによる超常現象、それもあの事件以降に発生したものによって、2人がこの状態なんじゃないか?

 だとしたら、それは事前に計画されたものか、否か。

 これは両方だ。

 この事件は、企む者が居た上で、君のお父さんにより引き起こされたイレギュラーだろう」

「む......」

 海未は難しい顔をする。当然だ。俺も分からん。

「イレギュラーは2人が自由意志によって行動していることだ。

 これは付け入る隙だ。

 そして、君が近づけなかったあの場所、近づけなかったことにも意味がある」

 案外、君は肉体に簡単に戻れるかもしれないぞ、と言おうとして口をつぐむ。

 半死体に戻るというのは、命の保証は出来ない。

 生まれた不自然な

 その間に、海未が口を開く。

「分かってるよ、佳助さん。

 分かってた。

 本当はさっき終わらせられたんだ。

 なにもかも」

 俺ははたと海未の目を見る。決意、だろうか。強い眼差し。

「佳助さんの言う事前の計画、それに必要だったのは空良なんだよ。

 だって、私には特別な力なんて無いから。

 でも、イレギュラーのせいで、私を肉体から追い出した。

 だから、私が肉体に戻れば計画は崩れる。

 当然、空良は幽霊じゃ居られなくなる。そうでしょ?」

「......それで良いのか?2人共助からないぞ」

 無言で頷く海未。

 訊く内容に意味はなかったが、訊くこと自体には意味があっただろう。

 ......残酷なことだ。7年越しに2人を看取らなければならないのか。


  

 ......方針は決まった。次は手段だ。あの殺人的な能力を持つ空良の抵抗はあるだろう。

「そういえば、俺は傷一つ負ってないな。」

 死ぬほど痛かったが。

「空良くんの能力は幻覚......なわけないな。7年前に俺の右腕をミンチにしているからな」

「じゃあ、空良が霊だから?」

「いや、彼には殺意があった。

 殺せる確信があったんだろう。

 俺でなければ死んでいた理由がある」

 カチリと歯車が噛み合う音がした。

「俺の右腕にだけは干渉出来ない…?」

 そうだ、超重力を食らったときも、右腕だけは辛うじて動いた。

「分の良い賭けだな......」

「良くないよ!」

 耳を刺す声。

「全然良くない。

 さっき手酷くやられたじゃない。

 右腕で防ぎきれなければ、外傷にならなくてもダメージは受けるんでしょ?」

「そうだ。分かれば対応できる」

 言い返そうとした海未を、今度は俺が見つめる。言葉で足りないなら、この目を見て信じて欲しい。

 海未は、口を閉ざした。伝わってくれただろうか。

 海未はため息の後、呟く。

「女の子にとっておじさんは恐怖の対象って分からないかな......」



 おいこら。傷つくぞ。



「俺が空良くんを慰霊塔から引き離す。

 君はその隙に慰霊塔の中にある肉体に戻る。簡単だ」



 こうして、俺たちは命を燃やす。

 このセリフを言うまでにひとしきりおじさん扱いされたことは思い出したくもない。

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