240204_西日


千綾ちあやは十二月三十一日と一月一日、どっちが好き?」

「なんです、その質問は。どちらも単なる日付でしょう。好きも嫌いもありませんよ」

「いいからいいから! テキトーに答えてよ」

「……強いていうなら、一月一日でしょうか」

「へえ、なんで?」

「適当に答えていいと言ったのは小麦こむぎでしょう」

「そうなんだけどさー。千綾だったら、なんかちゃんとした理由ありそうじゃん」

「確かにあるにはありますが」

「やっぱり!」

「別に大したことではありませんよ。新年は自然と気持ちが引き締まるでしょう。だからどちらかといえば好きかもしれない、ただそれだけです」

「いいじゃん。なんか千綾らしいや」

「この答えで何かわかることはありましたか? どうせあなたの好きな心理テストか何かなのでしょう」

「ごめん。これただの質問なんだ。Xでアンケートやってて票が割れてるみたいでさ。なんとなく千綾はどっち派なんだろうって思っただけ」

「………」

「あ、答え損って表情かおしてる」

「あなたもようやく他人の心の機微がわかるようになりましたね」

「えへへ、ありがとー」

「………。それであなたは?」

「何が?」

「十二月三十一日と一月一日、どちらがお好きなんですか。私だけ答えたのでは落ち着きません」

「んー。十二月三十一日」

「少々、意外です。理由を訊いても?」

「終わりが見えると安心するから」


 小麦は淀みなく答えた。ちょうど教室に西日が差し込み、小麦の端正な顔に陰影を付ける。私はそれをこの世で一番美しいと思った。


 小麦が病に侵されていると知ったのはちょうどその一か月後のことだった。なんでも病はすでにかなり進行していたらしく、驚く時間もなく、あれよあれよという間に小麦はこの世から去ってしまった。いまだに彼女が亡くなったという現実味がわかない。ただなんとも言えない空虚感だけが胸にある。

 彼女のいない世界で、今日もまた日が落ちる。西日を浴びながら彼女のあっけらかんとした笑顔を今もまた思い出している。



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ショートケーキ(短編集) 伊勢 @sakura_ise

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