第23話 不思議な婚約話
「なあ、紗良、俺は――」
そうディレックがいい終わる前に紗良の視界は遮られた。
「悪いけど、紗良は俺の婚約者だから」
低めの声が聞こえてきた次の瞬間には、その声の主――レオが、ディレックと紗良の間に割り込むように入っていたのだ。
そのまま紗良の視界を自身の腕で深く覆いこみ、ディレックの姿は紗良からは一切見えなくなった。
「「ええっ!?」」
思わず、紗良とディレックの声が重なった。
突飛な行動に思わず紗良は「ちょっとレオ?」と抗議するものの、どこ吹く風といった様子でレオは強く抱きしめ笑みを浮かべた。
もがくたびに自身に腰に回された手がより強くなり、振りほどくことができずその胸に顔をうずめてしまう。
自身よりも遥かに固い胸筋を意識し、紗良は思わず身を固くした。
自分の体温がみるみるうちに、高くなっていくような感覚に息を呑み、言葉を詰まらせる。
顔をあげれば、息がかかってしまうほど近くにレオの顔があるだろうことが想定される。このままでは紗良の心臓がいよいよ破裂しそうだ。
「……こ、んやくって?本当か……紗良……」
「え?な……」
何それ、知らないけど、という言葉はレオに抱きしめられ、かき消される。
ディレックの言葉に思わず、紗良は何のことかと本気で考えた。
「ああ、本当だ。だからダメだ、無理だ。絶対に行けないし、お前の所へは行かさない。わかったな?ディレック」
いつも冷静沈着なレオがやけに子供っぽいことをいっているな……?らしくない、と紗良は感じた。
「なんだあ、そっか……」
と、ディレックは心底残念そうにため息をついた。
「まあ、いいや。俺は大丈夫だ、全然気にしないし。でもレオが嫌になったら、ちゃんと俺にいえよな?」
紗良の手を今一度掴もうとし、レオナルド王子によって絶対にそれは許さない――とばかりに叩き落とされた。
「俺はまだお前が結婚するまでは諦めないからな、紗良。またな」
と言い残し、ディレックは颯爽と去っていった。
完全にいなくなったことを見計らって、レオナルド王子はようやく腕を緩めた。
「ぷはぁ!息が苦しかった、じゃなくて!」
紗良は何もかもが疑問だらけで、色々といいたいことがあった。
「いったい、何がどういうことなの?」
婚約者ってなんのことなのか。
そもそも、飲み物をとりにいったのでは、矢継ぎ早に質問をするとレオは、困った表情を浮かべた。
「……ディレックがこっち向かったのを遠目でみて、思わず追いかけたんだ。婚約の件は――」
レオナルド王子は言いよどむ。
「もしかしたら――、と不安になった。ディレックに奪われるんじゃないか、って――」
ひどく、らしくない余裕のない表情を一瞬だけ、浮かべた。
心配になり思わず、見上げ袖を掴んだ。
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