第13話 再びお菓子作り開始!

 「さて、いらっしゃる王子様とやらに出すお菓子は、どんなものがいいのかしら……?」

 

 相談相手はシア姫だ。

 今日は一緒ににお菓子作りを予定していた。

 

 「珍しいお菓子と、おいしいお菓子だと思うよ?」

 「それは確かに、間違ってないとは思いますが……どちらかといえば、シア姫の希望ではないですかね……?」


 やんわりとツッコミながらホットケーキとパフェ、シフォンケーキの材料を確認して紗良は頷く。

 笑顔であふれたシア姫の頭を優しく撫で、それはもう可愛すぎるとばかりに紗良は口元を緩ませた。

 厨房には異世界のお菓子に興味津々なシェフたちが何人かいる。

 なんでも材料を自前で用意し、紗良と一緒に作りたいということだ。

 

 ただ紗良も詳しいが、完璧ではない。

 これが偶然にも通学バッグの中に入っていた料理本や教科書が、今まさに役に立っているのだ。

 当然ながら、こちら側の人間には読めないので、紗良が先生のように懇切丁寧に一つ一つ解説することになる。

 

(なんだか、年齢こそ違うけれども……料理部を思い出すわ)

 

 あまり日は経過していないはずなのに、もう遠い日に感じられる。

 そのなつかしさに、胸がわずかに痛んだ。

 考えないように少しだけ頭を振ると、シア姫に向き合う。


「でも、シア姫。どうして、お菓子を作る気になったの?」

「ふふふ、もうすぐ舞踏会もあるでしょう?そこでね、素敵な殿方がいたら、どうぞ、って渡そうと思って」

「あ、なるほど……?」


とはいうものの、そのイメージが思い浮かばない。


「ほら、賢者や聖女召喚にあたって、各国の”てきれいき”の王子王女の婚約者の席は、いままでずっと空けてたでしょ?それが、聖女さんの婚約によって、全員が好きに相手を決めれるようになったのよ?まあ、政略結婚という制約もあるかもしれないけど。だから、今度の舞踏会はね……きっと各国の王子王女、相手探しの婚約ラッシュよ!」


 意気揚々と片手を天に伸ばし、シア姫は紗良に向き合った。

 

(あ、そういえば確かに以前、レオがそんなこといっていたような……?)


「と、いったものの、こっそりいうと私ね、実はちょっと前から気になる人がいるの。その人に渡したくて」

 とシア姫は紗良に耳打ちした。

 「そうなの!?」

 「ふふふ、誰かは内緒だけどね!」


――ひときわ、輝いている。その笑顔が一段と眩しく感じた。

 この年頃の子ならば尚更、『恋バナ』なんてものが好きな頃かもしれない。

  

「でも、私よりも――どちらかといえば、問題はレオナルド兄様よ。すぐにでも婚約者を決めないと、いけないくらいだわ」

「レオが?私たちの世界ではまだ早いと思うけど、こちらの世界では、そのくらいの年齢で当たり前なのね……」

 

ちょっと近寄り辛いところはあれど、彼は本当に、いい人だ。

まぁ本音と最近の自分への行動がよくわからないところが――本当に難点だが――、と紗良は卵をかきまぜながら、しみじみと思い返した。

 

「ずいぶんと呑気な反応だけれども……でも、紗良さんも……ぼうっとしてられないわ」

「なんで?」

「……兄様から何も聞いてないのね……」

「何を?」

「レオナルド兄さまの婚約者の候補に、紗良さんはあがってたのよ?」 

「へぇ――……え?」

 

 あやうく、手元のボウルが落ちて大変なことになるところだった。

 

「婚約者候補?」

「そう、候補にあがってたの」


口を開けて、閉じてを繰り返し、言われた内容を咀嚼そしゃくする。

やがて回ってきた頭で、紗良はやっと我に返り声を出した。

 

「でも、『あがってた』――って過去形、ってことは今は違うのよね?」

「ええ。結局、互いの合意が必要だし、ってことで結局、その話は流れちゃったの」

「そういうことね、びっくりしたわ……」

 

 互いの合意、という部分でやたらと胸がざわつく。

 話がでた時に、「あり得ない」とかなんとかで、拒否されたのだろうか。


(――うーん、だよねえ。レオってなんとなくだけど、理想高そうだしなあ……っと、そんなこと考えてる場合じゃなかった)

 

 「今日のお菓子はね、ホットケーキっていうんだけれども――」

 

 *****


紗良はどうでしょう、とばかりにレオナルド王子に、完成品のスイーツセットを差し出した。


「これだけ作れば、かの隣国王子様とやらも満足ではないでしょうか?」

 

 自信をもって、紗良は胸を叩いた。料理長も、一口食べて大絶賛でご満悦の様子だ。

 

 「不満はほとんどない、が」

 「ほとんど?」

 「せっかくなんだ。見た目が素晴らしいものをあと数点作れないか?それか、インパクトがある大きなものだとか」


なるほど確かに、と紗良は思い自室へと戻り、考案することにした。

 

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