第12話 互いの距離感


紗良は自室に戻り、ソファーに横になった。

 ぐったりと疲労が襲ってくる。

 

 普段使いなれない筋肉を使って、おそらく明日以降は筋肉痛になりそうな気がした。

 


 先日の結界の件が解決してから、やたらにレオナルド王子は自分に絡んでくる。

 卿から始まった地獄のレッスンを終えたが、明日もまたある。

 今のうちに見ておかねば、とかかとを見た。

 

 「ああ、やっぱり!靴擦れになってる……」

 

 皮がむけて、赤くなっている。触らずとも見ているだけで痛みが増した。

  

 「絆創膏ばんそうこうなんて、こっちの世界にはないよね……医務室ってどこにあるのかな」


どうにかしようと、立ち上がり部屋のドアに近づくと、ノックの音が響いた。

扉を開け来訪者を確認すると、レオナルド王子だった。手にはガーゼと巻かれた小さめの包帯を持っている。

声をあげる間もなく、問答無用で今度は許可を得ず押し入ってきた。

 

「え?な、なんでしょう!?」

「お前、靴擦れしてただろ」

 いわれるやいなやぐるりと体をさらわれるように、抱えられるとソファーにむりやり座らされる。

 

「足を出せ。手当してやる」

「何いってるんですか!?絶対に嫌ですよ、自分でやります!」

 

 悲鳴をあげるようなほどの声でそういうと、紗良はレオナルド王子の手元から包帯を奪い取った。

 

(なんだかよくわからないけど、心配してくれたのかな)

 

ちらりとレオナルド王子を見やると、こちらの様子をじっと見ている。

塗り薬のふたをあけ、くるくると回すように傷に塗っていく。

 

(――妙に落ち着かないな)

 

「突然何かと思ったじゃないですか。でも包帯、ありがとうございます」

そして、手際よく自分で包帯を巻いていった。


(以前は庭園で助けてもらったし、薬をもってきたり……やっぱり、なんだかんだ優しい人なんだろうな)


「礼をいわれるほどじゃないけどな、無理やりダンスの相手に指名したのも俺だし」

「……え、なぜですか」

「なんでだと思う?」


 (いやがらせ、じゃなさそう。となると……?)

 

「……こちらの生活に慣れた方がいいから、でしょうか」

「それは半分正解にしておこう。半分の正解については、じっくり考えろ」

「半分?」

「半分だ。あとは、前からずっといおうと思っていたが……そろそろ互いに敬語は外してくれないか」


いうやいなや、押し迫られるようになぜか自分の真横に座ってくる。


「な、んでですか、レオナルド王子。あの、先日からずっと思っていたんですけど、もう少し離れていただきたいです」

「お前は……、今、それ以外の感想はないのか?」

「少なくとも、今、そう思っています……。ですから、レオナルド王子」

「レオ、と呼ぶようにしたら考えよう。もう一度いうが、敬語もいらない」

 

「……でも、本当にいいんですか?」

「紗良」

 

 手をからめとられるように握られ、思わず紗良は慌てた。

「わ、わかりました!レオ」


あたふたしながら、手を引っ込め、もう勘弁して欲しい、と観念するように押しのけ首を横へ振った。

心臓の音が聴こえぬよう、紗良はやっとのことで逃げおおせた。


「本当に、互いに、適正な距離感で、お願いしますね」

「敬語になってる」

「……わかった。レオ」


心から念を押すようにそう答えると、レオは軽く微笑み、優しく頬を撫でられる。


跳ねる心臓を落ち着かせる間に、当の本人であるレオナルド王子はようやく部屋から去っていき、紗良はため息をついた。 

 

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