第7章 天からの襲撃
「――では聖女のために、お前は死ねるのか?」
その言葉に、紗良は戸惑った。
その言葉に、紗良は戸惑った。即答はできない。そもそも、この質問の意図がわかりかねた。
いきなり友のために死ねるかと問われて、死ねるといえるものがどれだけいるだろうか。
「……どういう、ことかわかりませんが……」
「嫌な質問をして悪かった。ひとまず部屋まで送る」
レオナルド王子は手短にいうと立ち上がり、紗良に手のひらを差し出した。
「なんです?」
「……いや、お前たちはそう、だったな。何でもない、気にするな。俺についてこい」
紗良は部屋をでてレオナルド王子と一緒に歩き出すと、さきほどの行動がなにかを思い返した。
(あ、そっか。もしかして、手をとるべきだった……のかしら)
そういったものが慣れていなかったので、一瞬何かわからなかったが、エスコートがこちらの世界、いやこの人たちの中では当たり前なのかもしれない。
確かに最初にきたとき、エドワード王子は葵の手を颯爽と取ったことを思い出した。
――今更手を繋ぎます?なんていえないし、まあ、このまま気づかないふりをしておこうと紗良は一人納得する。
部屋まで向かう途中、再びの庭園を歩き出す。
会話は互いに特になく、気まずさすらある。
(でも、むしろ、送ってもらわなくてもよかったかな)
なんだったら断るべきだったか、と少しの後悔が紗良を襲う。
「あの、……レオナルド王子。ここまでで、いいです」
「この庭園は特に一人では危ないかもしれんからな、部屋まで送ろう」
「どういう意味でしょう?」
庭園の中央まできて、そう紗良が声をかけたときに、辺りの空気が変わった。
レオナルド王子のその緊張した様子に、紗良は何事かと辺りを見渡した。
一瞬だけ頭上を見上げ、紗良の腕をすぐさま強く掴むと、自分側へと引き寄せた。
「……え!?」
わけがわからず、混乱していると今しがた紗良がいた近辺に、ドン、と響くように何かが落ちてきた。
「な、なに――なんなの!?なにが――?」
叫び後ろをみると、こぶし大の石が地面へめり込んでいた。
(なに、これ……?)
どういうことかと、レオナルド王子の方を向きやると、その固い胸に顔をうずめていたことに気づいた。
「あ、あの!?」
混乱しながら、紗良はレオナルド王子から押しやるように離れようとした。
「待て、まだだ」
そういわれ、また腕を引かれた。
なおも逃げようとすると今度は腰に手を回され、逃げられぬようにしっかりと固められる。
「少し待てといってるだろ、お前は死にたいのか」
そう淡々といわれ、恥ずかしさをこらえじっと耐えていると、次々と頭上から小さな石が降ってきた。
不思議なことにレオナルド王子の周りには、弧を描くように石が避けて落ちていく。
目を凝らしてみると、薄く白い円の結界が張られていた。
「なんです、これ……どういうことですか……?」
「説明をするより、わかりやすいかもしれんな。今、この落ちてくる石によって――この世界は死にかけているということだ」
(――石が、落ちる?)
じんわりと脳に染みてきて、今度は恐怖が先に出る。
(――怖い)
そもそも、この天から降り注ぐ石はなんなのだろう。
無数に落ちる複数の石が庭園を荒らしていく。
こんなものが一つでも当たったら、大けがどころか――即死するかもしれない。
紗良はそしてレオナルド王子の腕の隙間から、思わず覗き込むように頭上をみた。
その先の空は、ところどころに割れている。
それは、まるで――蒼くひび割れたステンドグラスのようにもみえ、世界が崩れ去る一瞬を写実的に表したようなその視界は――実に奇妙な光景であった。
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