#3

「散々だったね、ジュード」

 ダリルと今朝立ち寄った公園のベンチに腰掛けて、公園で遊ぶ子ども達を眺めていた。小学生くらいの歳の子供達が楽しそうに追いかけっこをしている。悩みなんてこれっぽっちも無いんだから、子供は気楽で良いなと思う。実際、僕が小学生の時には何も考えていなかったし、強いて言うならテレビゲームとスナック菓子の事くらいしか頭に無かった。

「はぁ、僕が奴に一体何をしたって言うんだよ。あんな大人になりたくないね。馬鹿のくせに何時までもくどくどと説教垂れちゃってさ。どうして、あんな奴が教師をやれるんだか。ある意味、反面教師はやれてるか。今日は本当に最悪だ。だから、ぶっ殺した…妄想の中でだけど」

 スティーブの愚痴ばかりでダリルに申し訳ないと思ったが、今日は我慢できなかった。それでも、ダリルはうんうん頷きながら聞いてくれたし、共感してくれた。僕に友達が一人もいないって?馬鹿にしやがって。

 ダリルの、「君の妄想でスティーブは何回殺されているんだい?」という質問に、僕が間髪を入れずに、「千回は殺してるね」と答えると、ダリルは、あははと笑った。ダリルと話していると、さっきまでの怒りは落ち着いて、僕の心は平穏を取り戻していた。人は一人で生きていけないと言うけど、確かにそうだと思う。持つべきものは友達だ。

「なあ、ダリル、今朝、君が”この町を出て遠くに行きたい”って言ってた意味、僕、分かった気がするよ」

「そうだろうね。一人で生活をするのは、それはそれで大変なんだろうけど。この町よりはきっとマシさ」

 僕は、静かに本を読んだり、自由に映画を観る事ができれば、それで良かった。高校を卒業しても、この町じゃ、それが叶うとは到底思えなかった。それこそ、ハンバーガー屋でアルバイトでも始めたら、スティーブが客として来るかもしれない。奴は、僕を見つけた途端、馴れ馴れしく話しかけてきたり、僕の仕事に難癖をつけるに決まっている。考えただけでも不愉快だった。それでは、せっかく高校を卒業した意味がない。僕はこの町から抜け出す必要があった。


「そうだ、ひとつ君に提案があるんだけど」

 ダリルは思い立った様にそう言うと、ベンチから立ち上がって僕の前に立った。僕が「なんだよ提案って」と言うと、ダリルは説明を始めた。

「キミ、普段から刃物とか…まあ凶器なら何でもいいんだけど。そういった類の物を持ち歩きなよ。凶器を持つとね、不思議と心に余裕を持つ事ができるんだよ。なぜなら、その凶器で君はいつでも人を殺める事ができるからね。仮にスティーブに何か言われたとしても、奴の生き死にを握っているのは君になるんだ。わかるかい?」

 ダリルは、そう説明した後、「もちろん本当に刺すのは駄目だけどさ」と言って笑った。僕は少し考えてから、なるほどなと思った。昔読んだ本で、筋力トレーニングで体を大きくするメリットの一つに、ダリルの説明と同じような事が書いてあったのを思い出した。筋力トレーニングに即効性は無いが、凶器なら持つだけでその効果が得られる可能性がある。

「でも、そんな物持ってて本当に大丈夫なのかな」

 ダリルの話はなんとなく理解できたけど、かなり危険だと思った。小型の折りたたみナイフだとしても、持っている事が知られたら大事になる。それこそ警察に職務質問でも受けたら、僕は咄嗟に言い訳を思い付く自信が無かった。そんな僕の心情を察してか、ダリルは、「大丈夫、良い方法がある」と言った。

「良い方法?」

「カッターナイフだよ。工作で使うって言い訳がつくだろう」

「ああ…それなら家にもあるはず」

 ダリルは、「せっかくだから、新しいのを買いに行こうよ」と言いながら笑った。正直あまり気乗りしなかったが、僕はダリルに着いて行く事にした。ダリルと一緒に居る事ができたら、僕はそれでよかった。

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