第7話 ネウラ・デューサ
避難民達全員に食事が行き渡り、食べているなかでセティヤは到着する。
ほんの少し息が上がっていて、服には僅かながらに返り血がついていた。
ゴブリンの地上部隊を始末してきたのだろう。
避難民達がゆっくりと食事が出来るように、音を立てずに倒したのだ。
「お疲れさん」
空人は労いの言葉を掛ける。
「はい」
セティヤは軽く息を吐き、笑顔で答えた。
「みなさん、ご無事そうでなによりです」
避難民達はセティヤの顔を見て、安堵の表情を浮かべた。
「セティヤさま。ご無事でしたか」
「ああっ、姫さまが生きていた! やったぁ!」
「姫さまがご無事でなによりです。ありがたや、ありがたや」
避難民のなかには涙を流す者もいる。
「逃げることしか出来ない私たちに、王様はこう仰っていました。民が残れば、国は滅びない。民こそが国なのだと。未来を担う子供達がいれば、この国は滅びることはないと」
避難民のひとりが、涙を流しながら語った。
「お父様がそんな言葉を……」
セティヤが悲しそうに呟き、ほんのひとしずくの涙を流す。
すぐその涙を拭い、セティヤは力強く避難民ひとりひとりを見回す。
「皆さんが生きていてほんとうによかった。あなたたちがいれば、フィウーネ王国はまた立ち上がることが出来ます。森林同盟六州は手厚い保護を約束してくれています。大変だと思いますが、頑張って生きてください」
避難民達は一斉に頷く。
その言葉に違和感を覚えている者もいそうだが、敢えて無視したように思う。
「姫さま、デマルカシオンがこの攻撃は、姫さまのご先祖さまが原因だってほんとう?」
幼い子供が声をあげた。
母親が子供の頭を抑えて「姫さま、ご無礼をお許しください! キツくいっておきますので」と注意する。
セティヤは苦笑した。
避難民達も口にはしないが、一抹の不信感を抱いているのだろう。
本当のことなのだから、否定しても嘘になる。
この場は適当に流すのが正解かもしれない。
「空人さま。彼女たちを森林同盟六州に無事に送り届けたいと思います。よろしいでしょうか?」
「もちろんさ」
ざっと見渡した限り、避難民と護衛の騎士を合わせて500人ほど。
セティヤにとっては大事な民だ。しかも自分の父親が命を賭けて守ったとなれば、是が非でも送り届けたいだろう。
「姫さま、ご無事なようで。安心しました」
ひとりの女騎士が現れた。
握りこぶしを胸に当て、頭を下げる。
「ネウラ、顔を上げてください。戦場で敬礼は危険だからやめるようにと習っているはずです」
「はっ、失礼しました」
戦場での敬礼は隠れているスナイパーに、指揮官だと判断させてしまうから禁止だと映画で見たことがある。
この世界にもスナイパーがいるのだろう。
しかしスナイパーがいたとしても、意識しているということは、セティヤは平和ボケはしていない。戦闘力は高いし、平和ボケしていないとなれば、頼りになると改めて思った。
空人はネウラを改めてみた。
セティヤにも劣らない美しい女性だった。
全身を純白の鎧で包まれているが、モデルのような肢体なのは鎧を着けてもわかる。
鎧はあちこちに傷や汚れが目立ち、激戦をくぐり抜けてきたのだろう。他の騎士たちはネイビーの鎧を着ていることから、特別な地位にいるのは間違いない。
整った顔立ちに強い意志を感じさせる左目。
右目は眼帯で覆われているのが印象深い。
肩に揃えた銀色の髪はセティヤと同じだ。
凛とした雰囲気を漂わせた魅力的な大人の女性といった感じで、セティヤが成長したら彼女のような感じになるのだろう。
「ネウラ、無事なようでホッとしました」
「召喚の儀式は成功したようですね。ただ、その勇者さましかいないということは、護衛の者は……」
「残念ですが、デマルカシオンの儀式が成功したときに襲撃を受けて全滅しました」
「そうですか」
ネウラと呼ばれた女騎士は唇を咬んだ。
「王都を脱出できたのは、どれだけいますか?」
「数万人は脱出したはずですが、現状はまったく把握できていません。通信魔法を使うとデマルカシオンに探知されて攻撃を受けるため、状況は不明です」
「そうですか。状況は厳しいままですね」
セティヤの顔が曇る。
「無事に森林同盟六州にたどり着けるといいのですが」
「森林同盟六州に援軍を要請しています。手練れの彼らが援軍としてきてくれれば、多くの民は助かるはずです」
ネウラはセティヤを元気づけるようにいった。
「それに姫さまは儀式を完了されたではありませんか。先ほどの戦いを見て、我らは希望を与えられました! あの力があれば、デマルカシオンを倒せると!」
ネウラはやや興奮気味にいう。
そこまで期待されると嬉しい反面、プレッシャーだ。
デマルカシオンの物量は相当なようだからだ。
アパッチや戦車が相手でもある程度は戦えるだろう。
だが、圧倒的な物量を前にどれだけ戦えるかは疑問が浮かぶ。
「予断は許しませんけどね」
セティヤは深く息を吐いた。
「彼女はネウラ・デューサ。私の専属護衛を務めている騎士のまとめ役です」
セティヤが簡単に紹介してくれた。
「召喚された勇者様、ご挨拶が遅れたことをお詫びします。わたくしはネウラ・デューサ。デューサ公爵家に連なるものです」
ネウラは恭しく頭を下げてくる。
「仙石空人だ。誤解があるといけないから先に言っておくけど、俺の国では苗字の次に名前をいう。それと勇者というが、報酬をもらう約束をしているからな」
「報酬ですか?」
ネウラが眉をひそめる。
セティヤが「こちらで話しましょう」と、ネウラを少し離れたところに連れていく。
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