第11話 チョコレート

あれからちょっと時が過ぎ。

2月14日。

サカナの町ではチョコレートと愛が語られる日。

クロネコの僕は森の中で、

いつものように暮らしている。


サカナは、あれからたびたび森に来るようになった。

僕はそれをとても楽しみにしている。

僕らは愛をきれいに語るには、

まだ愛がよくわかっていない。

サカナが言うところの、

「愛がチョコレートなんて嘘かもしれない」

続けて言うのには、

「愛がチョコレートって言うのも、本当だと思うの」

僕もなんとなくそう思う。

チョコレート。

甘いお菓子。

甘いだけじゃないのだろうけど。

僕はまだそれを知らない。


僕はヒカリムシを見る。

光で愛を語る虫たち。

僕にはわからない言葉で、愛を語っている。

特別な日だろうが、

特別でない日だろうが、

愛を語ってよくない日は、どうも少ないように思う。

いつチョコレート食べたっていいじゃないか。

いつ、チョコレートを贈ったっていいものじゃないか。

それを以前サカナに言ったら、

「町ではそれはよくないの」

と、言われた。

「ついでに言うと、多分、やぼなのよ」

「やぼ?」

僕は鸚鵡返しに。

「あたしもよくわかんない。けど、難しいのよ」

難しいといいながら、

サカナがきらきら笑っていた。

僕は、難しいならそうなんだろうと、

根拠薄く納得した。


走る足音が聞こえる。

森の草を踏んで、楽しそうに走っている足音。

僕は自然と笑みになる。


「クロネコ!」

「やぁ、サカナ」

「チョコレート持って来たよ!」

サカナの無邪気な笑顔。

チョコレートよりもそっちが楽しみです。


サカナは包みからチョコレートを取り出す。

甘いにおいがする。


特別な日と。特別な人。

そうか、僕にとってサカナはとっくに特別な人だったんだ。

愛をうまく語れない僕ではありますけれど、

あきれないでいてくれるといいなぁと僕は思う。

僕の指がチョコレートで汚れる。

サカナが指をじっと見ている。


なるほど、愛を語るのに言葉だけでもないらしい。

みんなに見せる物語は、ここでおしまい。

またどこかで。

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クロネコとサカナの物語 七海トモマル @nejisystem

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