第2話 裸の女

 モミモミ……モミモミ……モミモミ……。


 いつまでも触っていたい柔かな感触に、掴んた手が離れようとしない。


 おいっ、エロ航平! いつまで触っているんだ?


 少し位いいじゃないか〜、まだ寝てるんだし!


 頭の中で天使と悪魔が葛藤する。


 それよりもだ、この裸の女性は一体誰なんだ?


 確かに昨日は一人で布団へ入った。まぁチャコもいたのだけれど……。

 そう言えば、チャコの姿が見えないが、ベッドの下にでも隠れているのかな?


 もしかすると、昨晩は酔って女性を連れ込んだんじゃないだろうか?


 いやいや、昨日はお酒を飲んではいない。それに、今まで女性と付き合った事など無い。

 そんな僕が女性を連れ込めるはずも無く、ましてや童貞のヘタれが、一夜限りのチョメチョメなど出来ようはずも無い。


「お主、いつまで妾のチチを触っておるのじゃ?」


 突然の声に、胸から顔に視線を移すと、全裸の女性が冷めた目で僕を見ている。


「えええっ! いつの間にぃ〜!?」


 急いでおっぱいから手を離し、平謝りをしながら言い訳をする。


「ごめんなさい。ごめんなさい。偶然です。わざとじゃありません!」


 女性はニヤリと、ひじを付いて言う。


「ほほ〜う、チチを何度も揉むのを偶然というのか? 地上は変わった所じゃのう〜!」


「えっ、地上って、まさかっ!?」


「お主、どこを見て言うとる?」


 僕は言葉とは裏腹に、隠そうともしない大きなおっぱいに、目が釘付けになっていた。


「ああっ〜、ごめんなさい! だけど……いや、その前に、そのおっぱいを布団で隠して下さいっ!」


「妾は気にせぬが、本当に隠しても良いのか? もう見れぬかもしれんぞぉ〜?」


 何なんだ、この人はっ!?


 見せたいのかぁ〜? 大きいから、自慢したいのかぁ〜? 


 いやいや、そんな訳あるかいっ!?


 始めて目の当たりにした女性の裸に、僕は気が動転して一人突っ込みを始める。


「もう、一人漫才は終わったかのう?」


 女性の声で我に返ると、いつの間にか布団で彼女の胸は隠されていた。


 なんだか残念な気持ちを抑え、僕は気を取り直して、先程の疑問を彼女にぶつける。


「も、もしかして、あなたは昨日のエルフさんですか?」


「やっと気付いたかっ! 鈍いヤツじゃのう!」


 彼女の顔をよく見ると、髪が銀色ではなく薄茶色で、雰囲気が随分違って見えるが確かに似ている。

 だけど、いつの間にベッドに潜り込んだのだろうか?

 ああ、そう言えば、昨日も目の前に突然現れたんだっけ!

 よりにもよって、変なエルフに絡まれたものだ。


「ところでエルフさん、チャコを見なかった?」


「ここじゃ!」


 エルフさんが親指で自分を指差す。


「えっ、どこ? どこぉ〜?」


「だからぁ、ここじゃと言うておろうっ!」


「またまたぁ、こんな時に冗談はやめて下さいよ〜」


 僕はベッドの下を覗き込む。そこは、チャコのお気に入りの場所。ベッドの上にいない時は大概ベッドの下にいる。


「チャコちゃ〜ん、どこでちゅかぁ〜?」


 しかし、ベッドの下にチャコの姿は無かった。


「あれぇ〜、おっかしいなぁ〜?」


 本棚、クローゼット、机の下、隠れる場所をくまなく探すが、どこにもいない。


「エルフさん、冗談抜きで正直に答えて下さい。チャコはどこにいるんですか?」


「やれやれ、お主の頭は本当に硬いのう! チャコはまだ眠っておるが、まぁいいじゃろう。チャコ、起きるのじゃ!」


 すると、エルフさんの大人びた表情が、突然、無垢な女子高生の表情に変わった。そして、いきなり僕めがけてダイブしてきた。


「おはようっ、ご主人さまぁ〜!!」


 全身ダイブの反動で、ベッドに押し倒された僕の顔を、エルフさんがペロペロと舐め始める。


 ペロペロ、ペロペロッ!


「ちょっ、エルフさんッ!?」


 すると、エルフさんの動きが止まり、じぃ〜っと僕を見つめる。


「ご主人様、エルフさんはお眠りになったわん!」


「わん?」


 エルフさんの口調が突然変わった。それに、僕の事をご主人様と言う。

 それにそれに、髪の毛と思っていた部分が耳の様にピクピク動き出し、おまけにしっぽがブンブン左右に揺れている。


 まさかっ!?


「も、もしかして、お前はチャコなのか?」


「そうだわん! ご主人様と会話が出来るなんて夢のようだわん!」


「エルフさん、いや、今はチャコか! どうして、人間の言葉を話せる様になったんだ?」


 チャコは可愛く首をかしげて答える。


「分かんない!」


 そうだよなあ〜。昨日まで犬だったチャコに説明を求めても無駄だよなあ〜!


 詳しい事は、エルフさんが起きてから聞くとして、これからどうしよう?

 僕は訳の分からない事態に平静を装った。


「チャコ、とりあえず朝ごはんにしようか?」


 すると、チャコはお座りをして、しっぽをパタパタ振り回す。


 えええっ〜〜〜!!??


 こ、これは凄くマズくないかぁッ!?


 何がマズいかってぇ〜?


 裸の人間がお座りをすると……これ以上は恥ずかしくて言えませんッ!


 早く服を着せなければっ!


 幸い、妹は東京の大学へ行っており、妹の部屋には女物の服があるはず。

 それに、背丈は妹より少し高めだが問題ないと思う。


 チャコを部屋に留め、僕はこっそり2階の部屋から出ると、隣の妹の部屋に忍び込んだ。


 ガチャリ。


 無事に忍び込んだ僕は妹の部屋の物色を始める。

 最初にクローゼットを開けると、いくつもの服がハンガーに掛けられていた。しかし、女物の服といっても、どれが良いのだろうか?

 全く分からないので、適当なシャツとスカートを選ぶ。


 次は問題の下着。


 タンスの一段目を開けると、多数のパンティが並んでいる。その中には、赤パン、黒パン、紐パン、それに透け透けパンティを発見。


 ゴクリッ!


 す、凄いッ! パンティって、こんなに種類があるんだなぁ〜!? 


 いやいや、妹の下着に興奮してる場合じゃない!


 適当に一つを手に取り、両手で伸ばしてサイズを確認する。


 端から見ると変態兄貴だ。


 最後は最難関のブラジャー!


 パンティは伸び縮みするが、ブラジャーはそうはいかない。

 スポーツブラなら、多少は何とかなりそうだが、僕が見る限り妹の一ランク、いや二ランクは上のサイズだと思う。


 入るのあるかなぁ〜?


 とりあえず、スポーツブラと普通のブラを確保する。


 両手には服とスカート、それにパンティとブラ数着。


 こんな姿、親には絶対に見せられない。


 僕は再び妹のドアノブを回した。


 ガチャリ。


 妹の部屋から廊下を覗くと……な、なんと、僕の部屋の前に母親が立っていた。


 コン、コン……。


 「航平、起きてるの〜?」


 「…………」


 マズい! 今、妹の部屋から出たら、変態兄貴と思われてしまう。このまま隠れていようか?

 まてまて、僕の部屋にはチャコが、いや裸の女がいるじゃないかぁ〜!

 母親が僕の部屋へ入るのだけは、何としても阻止せねばッ!


 僕が数秒、迷っていたのがマズかった。


「航平、入るわよぉ〜」


 ガチャリ。


「うわぁぁぁ~!!」


 僕は戦利品を妹の部屋に投げ捨て、廊下に飛び出したが時すでに遅し。

 母親は僕の部屋の中へ入った後であった。


 うわあああ〜、母さんにチャコを見られてしまううう〜ッ!!!


 僕は急いで自分の部屋に戻ると……そ、そこには、母に抱っこされた犬のチャコが待っていた。


「あらぁ〜チャコちゃん、今日可愛いわねぇ〜!」


 ワン、ワン!


 母は腕の中にいる犬のチャコを撫でている。


 あれぇっ? 人間のチャコはぁ〜!?


 一体どうなったのか、人間のチャコは犬の姿に戻っていた。


「あらっ、航平、トイレでも行ってたの?」


「う、うん」


「もう九時よ。下に降りて来なさい。朝食出来てるから、チャコと一緒に食べるのよ!」


「う、うん」


 母親は部屋から出て行った。


 ふぅぅ〜、危ない所だった。それにしても、チャコは自由に姿を変えられるのかな?


 僕はチャコをじぃ〜っと見つめる。


 ハッハッハッ!


 チャコも僕を見て尻尾を振っている。


 どう見ても、いつものチャコだ。僕は幻覚でも見ていたのだろうか?


「チャコ、朝ごはんにしようか!」


 ワン!


 僕たちは朝食を食べに一階の食卓へ向かった。



【第2話 裸の女 完】

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