第24話 天理を司る焔眼
「聖霊闘気、久々に見たがやはり凄まじいな。」
ディアベルはそう呟き、ただオルスロッドとウロボスの戦闘を見守る。その瞳は嘆賞に埋め尽くされており、ひたすらに褒めるしかないと言いたげだった。
(聖霊闘気、勇者オルスロッドが最高神から授かりしアルティメットスキル。その効果はモンスターや魔族、悪魔などの邪悪属性を持つ存在に対して無敵の特攻を持つ【神聖属性】を保有する聖霊闘気を操るというもの。聖霊闘気で全身を覆ったオルスロッドはモンスターや魔族の攻撃では一切の傷が付かない。)
そして、神聖属性を増幅する神剣を組み合わせることにより防御不可の剣撃をオルスロッドの馬鹿げたステータスで繰り出すというまさに人類の希望、魔王に対する切り札らしい戦闘スタイルである。
『忌々しい聖霊の力めッ!!』
「だろう?お前を殺すために練り上げたんだから当然さ!!」
オルスロッドは聖霊闘気による鎧、聖霊鎧でウロボスのブラッディアによる剣撃を受ける。それはダメージを受けるどころかブラッディアが弾き返され、返しに放たれる神剣での一撃はうろボスの腹部を大きく切り裂く。
「それにしても、相変わらず気味が悪いほどの再生速度だね。」
だが、ウロボスはその傷を一瞬にして完治させる。これこそがウロボスが暁九天である真骨頂で、魔族の中でも飛び抜けた再生能力は手のひらサイズの肉塊になっても再生する。そしてウロボス自身の戦闘能力も非常に高く、審判による強制的なデバフのせいで合計30万人の兵士が殺されてきた。
「まぁ、再生できなくなるまで斬るだけだ。」
オルスロッドは冷徹に呟き、再度走り出す。その速度はもはや俺では捉えることが出来ない。これこそが人類の希望、最強の勇者なのだ。
斬る、再生する。斬る、再生する。斬る、再生する。斬る、再生する。
オルスロッドは何千回という回数、ウロボスは切り刻んだ。首も撥ねたし心臓も貫いた。四肢は大量に切断したし脳髄もぶち撒けた。しかし、倒れない。オルスロッドが過去に対峙したときより成長しているように、ウロボスも成長しているのだ。
そうして、10分が経つ。そのときには、この均衡が崩れ去っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。しぶといな、君。」
『それが取り柄なのでな、そういう貴様は随分と苦しそうじゃないか。』
オルスロッドは無傷だ。しかし失った魔力と体力は相当なもので、ほぼ万全と言って差し支えないウロボスはそんなオルスロッドを見てニヤニヤと笑ってみせた。
(オルスロッドは最善の選択をした。ウロボスが再生出来なくなるまで斬る、俺とディアベルでは満足に奴の相手を出来ない以上オルスロッドがけずるしかない、故の選択だった。でもそれが裏目に出てしまった。)
『さて、ここからはさっきまでと同じだとは思うなよ?』
「上等だよ、外道。」
ウロボスはブラッディアを構え、瞬間移動に近しい速度でオルスロッドの前に移動し剣を振り下ろす。オルスロッドは間一髪で神剣で受け止めるが、それは強引に押し込まれ頬が少し斬れ、かすり傷を負う。
「ぐぅぅぅぅ!!、、、」
『ほらほらどうした、このままだと死んでしまうぞ?』
「それは、御免だね!!」
オルスロッドは最後の力を振り絞り、神剣を振り抜く。それは眼前まで迫っていたウロボスの両目を切り裂き、強引に退かしてみせる。
だが、オルスロッドは既に限界が来ていた。恐らく聖霊闘気の使用制限なのだろう、あれだけ強力な力を行使する以上何かしらのデメリットがあるのだろうが、それが体力の消耗だとしたら辻褄が合う。
(ならば、俺がやるべきは一つだな。)
「オルスロッド、下がって体力を回復しろ。それまでは俺が受け持つ。」
「駄目だ!それではカイラ君が死んでしまう!」
「お前が死んだら全員死ぬ、ならば俺が受け持つほうが良いだろう?」
「ぐ、、、」
嘘だ。俺は身を粉にしてまで時間稼ぎをするつもりなんて毛頭ない、当たり前だろう?人に美味しいところだけ譲る馬鹿がどこにいるってんだ。
(10分間、じっくり見た。この《眼》で。)
俺の眼は赤い、焔色に光り輝く。その紋様はまるで羅針盤のようで、機械的な眼をしているがこれこそが俺の奥義である天理眼だ。
『フン、勇者ですらないガキが相手などつまらんな。それに貴様は弱体化している。』
「ごちゃごちゃうるさいなぁ。なに?負けるのが怖いから日和ってんの?」
『そんな訳無いだろうクソガキィ!!!』
俺の短絡的な煽りに激昂するウロボス。ブラッディアを構え再び豪速で突っ込んでくるが、それはもう《見えている》。
「遅い。」
『なっ!?』
天理眼の特殊能力、攻撃の軌道線が見えるのと自身以外の時間を遅らせるアビリティのお陰で俺よりも確実に速いウロボスの攻撃をムラサメで簡単に受け流せる。それにブラッディアはムラサメより格下の武器だ、ならば打ち合えば全切の効果で叩き折れる。
「《スパイラルドライブ》!」
完全に攻撃を受け流されたことにより、ブラッディアは沈黙の平野の硬い地面に突き刺さる。それにより生まれたウロボスの僅かな隙を俺は逃さず、俺はムラサメを叩き込む。
スパイラルドライブ。風の上位聖霊セイレーンをぶっ殺したことで手に入れた風属性聖級魔法セイレーンスパイラルと、剣技イニチェインドライブを組み合わせた魔剣術。それは極限まで濃縮された風が触れるあらゆる物を断ち切る刃となる一撃である。
『ぐはぁっ!?』
そんな一撃により左腕が分断されるウロボス、だがこのままではオルスロッドと同じ未来を辿るだろう。だが、ムラサメには全切という強力なアビリティがある。
『再生、、、できん!?』
「ハハ!!良い反応するじゃねえか!」
《全切》、呪剣ムラサメの持つ3つの特殊アビリティの一つであり再生能力を持つ魔族相手にとても相性が良いアビリティ。
その性能はあらゆる魔法障壁、物理装甲、さらには肉体も貫通し魂を直接切り裂くというもの。流石の暁九天でも、魂のダメージは再生出来ないようだな。
「おいおい、どうした来ないのか?もしかしてビビってんのか?」
『あ゙?』
俺のにやりと口角を上げた煽りに、ドスの効いた睨みを返すウロボス。まったく、魔族はどいつもこいつも気が短い。でも今回はそれを利用させてもらうぜ?
「情けねえなぁ!!こんな数百歳年下のガキ相手にビビるなんて!あ、もしかしてまた逃げる?逃げちゃうのぉ?」
『死ねクソガキィィィィィィ!!!!!!』
俺の今考えた短絡的な煽りに激昂するウロボス、ようし。これでアイツが逃げることはもう無いな。
ブチギレたウロボスは先程よりも一段階上の速さで剣を振り下ろす。だがな?お前の攻撃の軌道が見える以上、何をしても無駄なんだよ。
「《雷轟閃剣》」
『ぐうっ!?』
振り下ろされる剣撃は、軌道線を先に見たことで容易に回避する。そして剣を未だ振り下ろしてる姿勢のウロボス。
雷による速度強化と感電効果を追加する上級雷鳴魔法、雷轟となにかと使い勝手の良いフォビアの目にも止まらぬ早業剣技、閃剣を組み合わせて放つ。それはウロボスの太もも、腹、肩を深く切り裂く。
「《漆喰滅撃》」
姿勢を崩したウロボスに向けて放つのは、魔力を大量に消費する2ndハイブリッドである。それは漆黒を剣に纏い、ウロボスに襲い掛かる。
漆喰滅撃、攻撃で切り裂いたダメージ分魔力を回復する聖級暗黒魔法、漆喰跳梁と攻撃によって得た血液を魔力に変換する上級暗黒魔法、マジックコンバートと、純粋な強力な一撃を繰り出す剣聖撃を組み合わせた一撃である。
それは、ウロボスの残った右腕と左足を無慈悲に切断し、大量の出血を起こす。もちろん、再生は出来ない。そして俺は魔力が4割ほど回復する。
「さぁ、おしまいにしようか。」
左足を失ったことで移動することが困難になったウロボスに、冷徹に話しかける。その右腕は既に振り上げられており、次の瞬間には奴の命は途絶えるだろう。
この光景を見た勇者は後に、こう語った。
『カイラ、彼の強みは尋常ではない魔力量でもスキルの数でもない。彼の強みはその適応能力だ、あの特殊な眼と彼自身の適応能力の才能があらゆる敵へ適応させ、それが行われたらもう勝つことは不可能。』
しかし、勇者はさらにこう語った。
『でも、レベルの違う強さへと変貌を遂げたのなら、その限りではない。』
ウロボスはニヤリと笑う。その瞳は先程までの絶望を感じさせないものであり、俺が剣を振り下ろすのに十分な気味悪さだった。
その時、大地が揺れた。
『【魔能解】』
―――――――バゴォォォォン!!!!!
そんな音と共に、ウロボスの全身から黒い煙が一瞬にして放たれ、辺りを囲む。周辺の魔力濃度はすでに検知出来ないところまで上がっており、ウロボスからは超威圧的なオーラが感じられる。
大気が、空が、大地が、まるでウロボスに恐怖を抱いたかのように揺れる。そして、その黒い煙が晴れるころに、その理由は明らかになる。
『さぁ、第二ラウンドの始まりだ。』
全身からあり得ない量の魔力を迸らせ、生えていた二本の角はさらに禍々しく、大きくなっている。そして、受けていた傷は無傷になっており先程のウロボスとは別人ということがわかるに価する光景だ。
【魔能解】、魔王に認められた二つ名持ちの魔族にだけ扱える覚醒手段。先ほどとは比べ物にもならない圧を放つウロボスはニヤリと笑い、ブラッディアを構える。
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