第23話 悪逆無道の裁判長


まるで日本の裁判所のような空間が、一瞬にして作りあげられる。恐らくこれが閻魔ウロボスのユニークスキル、ウロボスが閻魔と呼ばれる所以なのだろう。


『まずはそこのガキ、貴様の罪を暴いてやろうぞ。』


ウロボスは俺の方を指さしながら、豪華に装飾された椅子に座り、大きな黒い本のようなもの

を取り出しパラパラめくる。


(事前に聞いてはいた。閻魔ウロボスのユニークスキル【審判】、対称の犯した罪に応じて自身にバフをかけたり、対称にデバフをかけたり、特殊な武器を召喚したりする能力。だがその凶悪性はそこにはない。)


『殺人221件、窃盗235件、器物破損25695件、わいせつ罪58件。15のガキにしては、随分な罪を犯しているようだなぁ?』


そう、このユニークスキルの凶悪性は奴にとって都合の良いように事実が改変されることだ。俺がクエストで殺した盗賊やら魔族やらもこの殺人に含まれるし、盗賊の根城から奪った金銀財宝も窃盗に含まれる。そして、スキルによって破壊される自然などを建造物群換算することで器物破損も増える、あ、わいせつは恐らくリリィへのラッキースケベっすねはい。


(最低に趣味の悪い能力だな、閻魔がこんなんだったら前世で聞いたことのある地獄の沙汰も金次第ってのもあながち間違いじゃない気がしてきたわ。)


『極悪人め、我が貴様に適切な処置を下してやろう。』


ウロボスはほんっっっとうにムカつく表情でそう告げる。あ〜、ぶん殴りてぇ。


でもそれが出来ないのだ、少なくともこの瞬間は。なぜならばこの審判の間では容疑者、つまり俺達の身動きは封じられる。審判中はウロボスも攻撃出来ないという制限を受けるが、それて審判中我々は身動きを一切取ることが出来なくなるのだ。


『【判決】』


ウロボスがそう告げると、黒い本は勢いよく閉じられ、俺の全身から黒色の煙が、奴からは金色のオーラと右手に真っ赤な剣が出現した。


『貴様のステータスは50%ダウン、我はステータス50%アップ。そして血を吸わせることで我に魔力を還元する魔剣ブラッディアを召喚することで、今回の裁判を終了する!!』


ウロボスのそんな発言が終わると同時、裁判所の空間は解除され沈黙の平野へと戻る。これが閻魔ウロボスが一対一において最強と呼ばれる理由、実質ステータスは2倍ほどの差をつけられるという圧倒的不利を背負うことになる理不尽なスキル。


「カイラ君!俺達で抑える!サポートに回ってくれ!!」


「《短距離転移》」


オルスロッドが一言叫び、俺に指示を下す瞬間にディアベルは短距離転移でウロボスの頭上に魔刀を振りかぶりながらテレポートする。


『フン、少しはやるじゃないか。』


「魔力を吸い取れない、、、強力なレジストスキルか。」


魔刀ララフラスト、ディアベルが扱う日本刀のような武器で、触れた魔力を一瞬で吸い取る能力を持つ武器。それとぶつかりあった魔剣ブラッディアに込められた魔力は吸い取られるはずなのだが、それは吸い取れなかった。


(なるほど、基礎的な耐性なんかもクソ強いのか。)


Sランク認定をされた大魔族なだけあってか、やつは恐らく吸収耐性の上位スキルを保有しているのだろう。だから吸い取れない。


「おいおい、僕を無視するなんて酷いじゃないか。」


『すまない、あまりにも空気が薄かったものでな。』


ディアベルは短距離転移で退避する瞬間、オルスロッドはウロボスの背後に忍び寄っており、その神剣を首に向かって振り抜く。


だが、それすらも容易に受け止めるウロボス。やはりステータス1.5倍されているからかオルスロッドですらゴリ押すことはできない。だがアレはさすがのウロボスでも警戒しているようだ。


『チッ!』


神剣エクスカリバーに聖霊闘気が巡った瞬間、ウロボスは鍔迫り合いを中止して後方に飛ぶ。だがそれは、予想できてる。


「《ホーリカオスネクトプリズン》」


『邪魔だァ!』


後方に飛んだウロボスの着地地点に、俺は天光魔法ホーリープリズンと暗黒魔法カオスプリズンの融合魔法。聖級天黒魔法ホーリーカオスネクトプリズンを発動。魔力を無効化+魔族特攻を兼ね備えた無数の鎖がウロボスを一瞬だが拘束して見せる。


「ナイスだ!カイラ君!!」


ほんの一瞬、時間にして0.01秒程度だがそれで充分だった。オルスロッドはすでにその神剣を振り下ろしており、咄嗟にブラッディアを構えることも許されずに神剣がウロボスの肩から腰までをざっくり切り裂く。


(ハハッ、なるほど。そりゃ再生能力くらいあるよな。)


神剣によって致命傷を負わされたウロボスは、ざっくり切り裂かれた状態で上空数百メートルまで飛び上がる。次に降りてきた時には全ての傷が癒えており、大魔族特有の自己再生能力の高さを強制認識させられる。


「カイラ君、僕は過去2回。コイツの耐久力と継戦能力に苦しまされ、仲間を失ってきた。この戦闘を、数時間繰り広げる覚悟はあるかい?」


「無論、問題なし。体力には自信があるもんでね。それに数時間もあれば奴の魔力性質から体術、剣術の癖から動きの癖まで読み切ってみせる。」


「はは!頼もしいね!!」


俺がドヤ顔をかましながらそう答えると、オルスロッドは笑顔を向けて再び走り出す。その時、ディアベルはウロボスの背後に転移していた。


「《次元斬》」


『甘い!!戦技――――血剣乱舞!』


振り抜かれる次元を切断する斬撃。それは喰らえばたとえ魔剣であるブラッディアでも空間ごと破壊される一撃だが、そんな一撃は血剣によって容易く弾き返される。


「甘いのは君だよ、ウロボス。」


だが、それを見計らったかのようにオルスロッドは迫っていた。すでに頭上から神剣を振り下ろしており回避は間に合わない。ウロボスは繰り出される斬撃を受けて再び肩から腰にかけてを深く切り裂かれ、今度は左腕も切断される。しかし、それでは終わらなかった。


『戦技――――血猛断撃』


「ぐっ!?」


痛覚など存在しないと言わんばかりに、ウロボスは攻撃を受けた直後にオルスロッドに向けて血剣を振り抜く。それはオルスロッドの腹部を護る聖霊闘気によって軽減されるが、確かに切り裂かれる。


(俺の天理眼の精度が上がっている。以前はオルスロッドの行動はまったく見えなかったのに、今は普通に捉えられる。)


「《ジャッジメントライトニング!!》」


ウロボスの斬撃によって吹き飛ばされたオルスロッド。しかし攻撃の手は緩めない。俺はウロボスに向けて邪悪特攻の聖属性と雷鳴属性を組み合わせた魔法を発動する。それは落雷、上空から邪悪を焼き尽くす雷を落としウロボスを焼き尽くす。


『痒いな、ガキ。』


「あぁはい無傷ですかそうですか。」


ステータスがダウンしてるからか、威力も落ちてるのだろう。土煙は激しいほどに上がるが奴の無傷の姿はハッキリと見える。正直、ここまで硬いのは想定外だ。やはりオルスロッドでしかダメージは通らなさそうだな。


『それに目障りだ。』


「ぐはっぁ!?」


奴の呟きが聞こえた瞬間、ウロボスのムキムキすぎる脚が俺の腹部を蹴り飛ばし、100メートル以上後方にふっ飛ばされる。


(恐らく今ので肋が数本逝った!回復しなければ戦力にならない!)


「ぐふっ!?」


しかし、次に飛んできたのは強烈すぎるパンチ。それは俺の顔面を容赦なく抉り地面へと肉体を叩きつける。いってぇなこんちくしょくめ。


「離れろッ!!」


俺はムラサメを勢いよく振り抜き、ウロボスを強制的に退かせる。しかし流石ムラサメ、ウロボスですらムラサメの斬撃は喰らいたくないようだな。


「それに、ステータス半舷されても魔力はまだまだ有り余ってるんだ。」


現在の魔力は半減された結果、5割ほど。だが10時間は戦闘できる。それだけの時間があれば天理眼でお前の解析など容易だ。


『羽虫共ガァ、、、』


ウロボスは確かなもの苛立ちを見せる。どれだけ潰しても潰しても立ち上がり、己の肉体に傷をつける羽虫がムカついてしょうがないのだ。だが、それ以上に羽虫を殺せない自分がムカついて仕方ないといった様子だ。


「カイラ君、ディアベル。僕は少し本気を出す。少し動きにくくなる可能性があるが対応してくれ。」


「「了解」」


オルスロッドは神剣を構え、両目を閉じながらそう告げる。俺は全身の魔力ガードを強化してオルスロッドの巻き添えに備え、ディアベルは転移の準備を万端にする。


その時、全身に悪寒が走った。


『忌々しい聖霊の力、久々に見たな。』


「君を殺すために鍛え上げたんだ、よく見てから死んでくれよ。」


オルスロッドの全身を、煌々と輝く白銀のオーラが包み込む。そのオーラは神剣エクスカリバーにも及び、辺りの魔力濃度が50%を再び越える。


大気が、空が、大地が、まるでオルスロッドに気圧されたかのように揺れる。辺りの雰囲気は血みどろの戦場から神聖な空間へと変化し、ウロボスの顔が険しくなる。


(確かに、この魔力濃度の中動き回るのはちょっとしんどいな。でもそれ以上に神聖属性のオーラでウロボスの動きも鈍るから戦いやすくなる。)


勇者。人類史上二人目のXランクであり、たった一人で世界を揺るがせると人類が認定した正真正銘の化け物。その真髄が今ここで、明らかになる。




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