第22話 北魔聖戦、勃発
煌々と辺りを照らしていた太陽はすっかり沈み、闇だけがターレンダール領を支配する。そんな中、9人の戦士たちが闘志渦巻く息を吐く。
「皆、気分はどうかな?」
「無論、良好だ。」
「問題ないわ。」
「自分も元気っす!」
「体調、良好である。」
勇者オルスロッドが、皆を気遣って話しかけるとそれぞれが返答する。やはり彼は、何処まで言っても勇者なのだろう。いや、勇者にしかなれないと言うべきだろうか?
(これだけの実力者が集まっているというのに、一切の圧を感じない。全員が自分の魔力、気配を全て隠蔽してるのか。)
それは、とんでもないことである。姿が見えなければ、音が聞こえなければ彼ら彼女らを認識することは叶わない。魔力と気配、そしてオルスロッドとレイリアとリヒドは、自身の存在感すら消して見せている。どうやっとんねんそれ。
「カイラ君、君はどうだい?」
「すこぶる快調ですよ、オルスロッド。」
「そりゃ良かった、今回の作戦は割と君を頼っているところがあるからね。」
本当に、それがプレッシャーなのだがな。というかそこまで俺重要じゃないだろ、倒せるのならディアベルとオルスロッドで閻魔ウロボスを撃破して、逃げられそうになったり、負けそうになった場合に備えて俺が天理眼で奴の能力をコピー、または見破って弱点を看破するだけなのだから。
(でも、オルスロッドは過去に閻魔ウロボスと2回も対峙して、全て逃げられている。しかもそのたびにリヒドとレイリア以外の仲間を失いながら。それがトラウマだからここまで徹底的にやっているのだろう。)
仲間の死、それは到底耐えられるものではない。俺もリリィやテスラが死んだら俺は俺で居られなくなる気がする。それこそ、復讐の鬼となる可能性すらある。
「皆、そろそろ時間だ。行くよ。」
オルスロッドの号令が鳴ると、全員の空気がピリつく。雰囲気は殺戮のそれへと変化して、おのが武器を握る。
(ムラサメ、頼んだぞ。)
返事を寄越すはずもないムラサメに向かって、心の中で話しかける。そうするとムラサメは、少し振動して返答を返してくれる。さっすが、Sランクモンスターの最期の怨念ってだけあるね。
俺達は走り出す。目的地はターレンダール北門のさらに北、聖大陸北端に位置する魔王軍第三部隊の根城となっている巨大な城へと走って向かう。我々レベルになると、馬車や竜車を使うよりこちらのほうが早い、っとオルスロッドが自信満々に言っていたからだ。
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魔力濃度30%以上、超危険魔力濃度地域に当る聖大陸北端に到着する。一般的な街の魔力濃度は10%以下、30%となるとそこにいるだけで魂が変形して魔人化するレベルの魔力濃度である。まぁ、魔力ガードを張り巡らせていれば何ら問題はない。
「皆、準備は良いか?」
オルスロッドが緊張した面持ちで、そう問いかける。すると全員が首を縦に振り、自身の勇猛をあらわにする。そして、オルスロッドは呟いた。
「一狩り行こうぜ!」
「ぐふっ!?」
俺は思わず吹き出した、いやだってしょうがないじゃんまさか異世界で某モンスターハントゲームの決まり文句を聞くことになるとは思わないじゃん!
「ハハッ、良い反応するじゃないか。まぁ気を取り直して。」
オルスロッドは息を潜めていた体制から勢いよく立ち上がり、勇者のみが扱うことの出来る神によって齎された恩寵、《神剣エクスカリバー》を上に掲げた。
その瞬間、魔力濃度が跳ね上がる。
『《聖光の恩寵、神の愛。我が受け取るは最高神の慈悲。》』
感じ取れる範囲で、ここら周辺の魔力濃度は50%を突破した。辺りに僅かに生えていた草木は紫色に変化し、ありえないほど硬い沈黙の平野の地面は、ヒビをいれる。
『《振り落とすは神の鉄槌、裁かれるは大罪の邪悪。暴虐の権化たる魔の象徴。》』
オルスロッドが青光が漏れ出る。神剣エクスカリバーは直視出来ないほどに光り輝き、その膨大すぎる魔力で目の前にある巨大城をぐらぐら揺れる。
『《我が宿すは破邪の聖気、浅ましき邪悪を滅する聖霊の闘気。》』
三節詠唱、スキルの威力を向上させる手段の中では最も強力な手札。デメリットは時間がかかり、漏れ出す魔力で敵に居場所がバレることだが、今から奴等と真っ向から戦争なのだ。そんなのは関係ない。
オルスロッドは三節詠唱を完了させ、その膨大すぎる魔力を解き放つ。神剣は掲げられた状態から巨大城の方へと翳され、オルスロッドは破滅のスキル名を呟いた。
『《聖霊闘気・破邪恩光砲》!!!』
刹那。
神剣から放たれるのは、まさに大砲と言わんばかりの極光砲。その範囲はまさに山をも飲み込むサイズと近くに居るだけで全身が酷い火傷に襲われるほどの火力。だが、その真価はそこにはない。
『ぐあぁ゙ァァァァァァァァァァ!!!!??』
『なんだッ!?』
『ギシャアァァァァァァァァァ!!!???』
『やめろぉぉぉぉ!!!????』
阿鼻叫喚、地獄絵図。巨大城に打ち込まれた極光砲は中にいる魔族数万体と強化モンスター30万体を一気に葬り去る。
(事前に聞いてはいたが、恐ろしい威力だな。)
アルティメットスキル《聖霊闘気》。邪悪特攻の完全上位互換であり、モンスターや魔族などの邪悪属性を持つものに対して無敵の力を誇る《神聖属性》を保有する《聖霊闘気》と呼ばれるオーラを自由に操るスキル。聖霊闘気によって作られた魔法は、例えただ魔力を放出しただけでSランクモンスターに致命傷を与えるほどの威力を誇る。
そして、城があったはずの場所はただの更地と化し、そこには3人の魔族が立っていた。
『ウロボス様、また勇者です。』
『お逃げください、ここは我が。』
『いや、良い。今度ばかりは決着をつけようじゃないか。』
1番左に立ち、ハルバードを肩に担いでいる金髪の少女がウロボス側近の一人、斜陽エレドラ。1番右に立ち、ウロボスを守るように立ち塞がるのが海王ホープス。そして、真ん中で禍々しい杖を持ちこちらを見つめる2メートルほどの身長と、2本の大きな角を携える男、奴が閻魔ウロボスだ。
「久しいじゃないか、ウロボス。僕からみっともなく逃げて楽しいか?人生。」
『貴様こそ、あの出来損ないの仲間は外して強者に縋ったのか?惨めだなぁ。あぁ、違うか。俺がお前の仲間を殺したんだった!!あっはっはっ!!!!!』
ウロボスの邪悪な笑い声が、平野に響き渡る。だがそんな挑発に、勇者は動じなかった。
「それがどうした。守れなかったのは僕だ。でもな、今度ばかりはお前を殺す!」
『、、、っふ、つまらんな。エレドラ、ホープス。やるぞ。』
オルスロッドは神剣を構え、そう言い放つ。すると閻魔ウロボスは不機嫌そうな顔になり、側近二人に呟き、その禍々しい杖をこちらに向けた。
「カイラ君!ディアベル!来い!」
オルスロッドは指示を出しながら、ウロボスに突貫する。俺とディアベルは即座に着いていくが、それと同時にウロボスは術を展開した。
『【審判の間】』
その瞬間、俺とディアベルとオルスロッドは、まるで日本の裁判所のような場所に転移した。いや違う、この空間を、奴がここに作り上げたのだ。
『さぁ、審判の時間だ。貴様らの悪行、暴いてやろうぞ。』
後に、北魔聖戦と呼ばれ語り継がれる伝説の一戦が、幕を開けたのだった。
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