第20話 聖大陸奪還作戦会議
「テスラ、緊張してる?」
「は、はい。あの勇者様方に加えて空間の支配者ディアベル様に会えるのですから、緊張もします。」
ターレンダール公爵領の領主、ベルトハイム・フォン・ターレンダールが有する超豪邸に向かって歩いている中、そんな会話をする。リリィはいつもどおりのほほんとした表情だがテスラはメッチャ緊張しているようだ。
どうやら、勇者オルスロッドはもちろんのことディアベルはそれなりに知名度がある冒険者らしい。まぁたしかに、国家戦力とも言えるSSSランクなのだから、デルタ王国だけでなく他国も知っていて当然か。
「アスフィー、一応警戒はしておいてくれ。これから行く場所は俺達より遥かに強い化け物がたくさん居るんだ。」
『了解だよ〜、攻撃に自動反応して発動する防御スキルを発動しておくね。』
敵意はないし、むしろ歓迎されている様子だが何かしら襲撃される可能性も考えてアスフィーに結界の発動をお願いする。さぁ、気張っていこうか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おぉ、、、さすが公爵家、広いし綺羅びやかだな。」
公爵邸に入った感想はそれだった。この都市の建物は大体大きいが、その中でも一際目立つ外見をしており、中は綺羅びやかな宝石や装飾で美しく飾られている。まさに大貴族の屋敷といった感じだ。
しかし、この屋敷の中からはアスフィーですら簡単に声を漏らすほどの化け物が複数人いる。正直、戦ったら勝ち目はないだろう英傑たちが緊張の糸を張り詰めてここに来ている。それだけで、俺達が気を引き締めるのには充分だった。
(この部屋だな。さて、一仕事しますか。)
「失礼します。」
俺達はそんな言葉を告げて、厳格な雰囲気を放つ部屋に入る。そこには飄々とした面持ちの勇者オルスロッドの他に、賢者レイリア、剣神リヒド、空間の支配者ディアベル、光魔ホーシン、護刀カラストといった王国の実力者が集結していた。
カラストがSランク、ホーシンがSSランク、ディアベルとレイリアとリヒドがSSSランクで勇者オルスロッドがXランク。そんでもってSランクの俺とリリィとテスラが参加する。
「さて、全員揃ったようだし始めようか。」
俺達が用意されている椅子に座ると、オルスロッドが口を開いた。その態度は飄々としたものではなく、昨日も見た勇者らしい緊張感のあるオーラへと変わる。
「ひとまず、知らない顔も多いはずだ。まずは自己紹介をしよう。僕はオルスロッド、Xランクで勇者をやっている。」
「レイリアよ、賢者レイリア。SSSランクの魔法使い。」
「剣神リヒド、SSSランクだ。」
「この街の冒険者ギルドのマスターをやらせてもらっているディアベルだ、二つ名は空間の支配者。SSSランクだ。」
「自分はホーシンって言います、SSランクの魔法使いで光と闇属性が得意っす。」
「カラストだ、護刀カラスト。神刀クサナギを使うSランクの剣士だ。」
そんな感じで自己紹介が行われていく。賢者レイリアは身長が160ほどで全身を紫色のローブで包み、何故かパープルのランドセルを背負っている。リヒドはスキンヘッドと髭がよく似合うゴリゴリマッチョ。ホーシンは身長が150ほどの小柄で、金髪と黒髪が半々ずつのボブのような髪型で喋り方に特徴がある。カラストはなんか、、、日本人みたいな感じだ。恐らく旭東の生まれなのだろう。
「え〜と、カイラです。二つ名はありませんが一応Sランクです。お願いします。」
「リリィ、カイラのパーティーメンバーでSランクよ。」
「テスラです。カイラ君のパーティーメンバーでSランクの冒険者をやらせてもらっています。」
テスラの自己紹介が終わると、全員の自己紹介が終わる。中々に個性豊かなメンバーだが、この現状をどうにかするべく集まったという点だけは同じなので、協力できると信じたい。
「まず、現状の魔王軍との戦争状況を説明する。」
オルスロッドがそう切り出すと、全員の空気感がピリつく。やはり、ここにいるみんなが魔族に何かしら恨みがあるのだろう。
「まず我我デルタ王国は、魔王軍第三部隊との戦争の最前線にある。既にフィルムバレン辺境伯領、もとい王国領土の六分の一が魔族によって侵攻されている。そして南の大国、ハイノルド共和国は魔王軍第二部隊による侵攻で壊滅。東の大国バスラック王国は領土の四分の一を奪われ、西の大国ラインハルト帝国は帝位争いで戦争に加担できる状況ではない。」
オルスロッドの口から告げられる現状は、お世辞にも人類が優勢とは言い難い状況であった。魔王軍は第七部隊まで存在するのだが、そのたった一つの部隊に戦闘向きではないとはいえ大国であるハイノルド共和国が壊滅させられた。それは聖大陸に激震を走らせると共に、魔族の方が人類より聖大陸の支配面積が多くなってしまったことの現れでもある。
「この状況を突破するべく、我々王国の実力者が手を取り合いまずは、このデルタ王国に攻め込んできている魔王軍第三部隊、総勢30万を撃破する必要がある。」
「質問よろしいか?勇者殿。」
説明を続けるオルスロッドに、ディアベルが口を挟む。さらに議論は加速する。
「なんだい?ディアベル。」
「我々が相手をする魔王軍第三部隊には暁九天の一人、閻魔ウロボスがいる。そしてその側近である斜陽エレドラに海王ホープス、さらにウロボスによって強化された数万体のモンスター、少々、戦力が足りないように感じます。」
暁九天、閻魔ウロボス。その階級はSランクで詳しくは分からないがモンスターを強化して従える謎の能力を扱う大魔族、その影響でウロボスはアースバジリスクのような強化モンスターを数万体と保有する。それをここの9人だけで崩すのは不可能では?とディアベルは言っている。
「確かに、それは最もな意見だね。でも心配は要らないよ。」
「なぜです?」
「それをどうにかする策が、僕にはあるからだよ。僕もさすがに、今回ばかりはアレを使う。」
「オル!?それ本気!?」
オルスロッドは覚悟を決めたかのような口振りを見せると、賢者レイリアが反応する。オルスロッドはそれに明確に答えてみせた。
「あぁ、《アルティメットスキル》を使う。300万体のモンスターを葬ったスキルを使うんだ。今更数万体なんて訳ないさ。」
(アルティメットスキル、また知らない単語だな。あとでアスフィーに聞くか。)
しかし、300万か。とんでもない数を葬ったスキルを使うと答えられたディアベルは、もう言い返すことはできなくなってしまった。
「詳しい作戦を話す。聞いてくれるかな?」
全員が首を縦にふる。聖大陸奪還作戦会議はまだまだ続くのであった。
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