番外編《テスラ先生による講義とリリィのチョコレート作り》


「はぁ、、、つまんないな〜。」


銀髪ロングに白銀の目を持つ美少女、リリィは宿屋でそんな事を呟く。


そう、今日はバレンタインデー。世の中の恋する乙女が愛する男に愛という名のチョコを渡す1年に一度のイベント。リリィは正直、このイベントに対して毎年困っていた。


(私、料理苦手なんだよな〜、、、)


リリィは幼い頃から毎日一緒にいるカイラの事が好きである。それも、大好きといっても差し支えないほどに。当然バレンタインデーにはカイラにチョコを渡したいのだが、一つ問題があったのだ。


リリィは生粋の料理音痴である。というか、戦闘という分野に振り切ったせいでその他の料理や裁縫などの技術がからっきしだ。それこそ、チョコを作ったらダークマターが出来上がるほどには。


「去年まではお母さんが手伝ってくれたけど、どうしようかな〜。」


そんなリリィとは逆に、リリィの母親セラは料理が得意である。村一番の料理の腕を誇っており、時々大きな街に出かけては料理の腕をいかして大金を稼いでくるほどに。


だが今年は頼みの綱である母親がいない、故に今年のバレンタインをどうしようかと恋する乙女リリィは悩んでいた。もういっそのことカイラに手伝ってもらえばいいのでは?とも考えたが、流石に嫌なので辞めたが。


そんな四面楚歌、万事休すな現状に一筋の光が差し込む。


「どうしたの、リリィ?」


「テスラ〜、バレンタインカイラに渡したいのに料理できないの〜。」


「じゃあ私が教えようか?」


「神様ッ!?」


そんなこんなで、最近仲間に加入したテスラによって救いの手が差し伸べられる。なにを隠そう、テスラは帝国でも自分の御付きの料理長よりも料理の腕が高く、二つ名に魔性の料理人があるほどだ。


「はいそれではリリィ、貴方はカイラ君にどんなチョコを上げたいですか?」


「美味しい奴!!」


「それは当然です。普通のチョコレートなのか、ブラウニーやガトーショコラ、ワッフルなど選択肢は無数にあります」


「ぐぬぬ、どれも知らない、、、」


聞いたことのない単語がポンポン出てくるせいで、リリィはパンク寸前になる。魔性の料理人の名は伊達じゃないようだ。


「オススメはガトーショコラですね、ここらへんでは高級品種ですし、カイラ君はどこか極東の食べ物を好む傾向にあります。ガトーショコラは極東の《ライラ共和国》発症の食べ物ですし、カイラ君の舌に合うと思います。」


「それでお願いします!!」


テスラ先生による講義の結果、リリィが作るチョコレートはガトーショコラに決まった。だがリリィはまだ知らなかった、これから始まる地獄のチョコ作りの事を。




―――――――――――――――――――――




「ねぇ゙ぇ゙〜、なんで美味しくならないの!!」


「むむむ、、、手順は間違ってないんですが、、、」


宿屋のキッチンを特別に借りさせていただいてチョコ作りを開始してから、総勢2時間。ひたすらにチョコを作っていたのだがリリィのメシマズはここにも発揮されてしまった。


特に最初は酷かった、本当に口に入れた瞬間不味いと思ってしまう程の出来だった。それに比べれば今のガトーショコラはまあ食べれない事はないレベルに成長した。


「どうしよう、、、バレンタイン明日なのに、、、」


「あきらめないでリリィ、確実に成長してるから。」


とんでもない分量の材料を無駄にしているが、アースバジリスクを売ったお金で余裕で買えるので問題はなし。カイラも自分のためだと言われたら許してくれるはず。


それでも、リリィの心には確かなダメージが入っていた。これだけの材料を無駄にしたことと、テスラをここまで付き合わせちゃっていることに上手く作れないことへのいらだち。リリィは諦めかけていた。


(私、、、戦闘以外なんにも出来ないや、、、しかも、アースバジリスクには最後まで戦えなかったし。)


リリィはアースバジリスク相手に、意識を失ってしまったことを引き摺っていた。戦うことしか出来ない自分が戦闘で足を引っ張ってしまったことに、とてつもない苛立ちを覚えていた。


そして今回のバレンタインでの失態、ハッキリ言ってリリィは泣きそうになっている。そんな時、テスラは笑顔で慰めてくれる。その優しさすらも今のリリィにとっては苦しかった。


「取り敢えず、時間いっぱいまで粘ろう?大丈夫、カイラ君はリリィが作ったものならなんでも嬉しそうに食べてくれるよ。」


「そんなのわかってるよ、でもカイラにそんな我慢をさせたくないの、、、心の底から美味しいって思ってほしいの、、、」


幼少期まったく女性らしくなかったリリィが、ここまで乙女になったのをカイラが知れば驚きで目が飛び出すであろう発言。リリィは涙が溢れかけていた。まだまだ、ガトーショコラづくりは続く、、、





―――――――――――――――――――――




「ねぇねぇテスラ、、、カイラは喜ぶかなぁ?」


「大丈夫だって、安心して渡してきなさい」


すっかり教授らしさが板についているテスラは、グッドを指で作ってそう答えた。現在は2月14日の夜9時、冒険者のクエストも終了、ご飯も食べてお風呂も入った自由時間でリリィはもじもじしていた。


そんな時カイラは、宿屋の庭で剣を振っていた。カイラの強さはそういういかなる時も強くなるために努力するという性質にあり、リリィがカイラに焦がれたのもそれが理由である。


(もう、、、覚悟、決めなきゃだよね。)


リリィは昨日の深夜ギリギリまで粘って作り上げたガトーショコラの入った箱を持って宿屋を出る。箱は可愛らしくラッピングされている。


庭に出ると、目をギラつかせて剣聖術の型の練習をするカイラがいた。その目は腐海集中に入っており、こちらの姿は見えていないだろう。


「か、カイラ!」


「ん?どうしたの、リリィ。こんな時間に。」


剣を一通り振り終わって、一息ついたカイラにリリィは意を決して話しかける。その声は、今までに無いくらい震えていた。


(言うんだ言うんだ言うんだ!!)


「あの、バレンタイン、これ、、、」


「ん?リリィチョコ作ってくれたの?ありがとう!」


リリィはもうめちゃくちゃ緊張しながらチョコを受け渡す。自分の心の中で何やってんだ私!と怒鳴りつけながら。


カイラはそれを優しく受け取って、笑顔でお礼を告げる。そして、リリィの緊張を悟ったのかこんなことを口走った。


「食べてみていい?」


「い、良いよ、、、」


カイラはちゃんと許可をとって庭に置いてあるカフェの椅子と机みたいなところに腰掛けて箱を開ける。そこには、とても美味しそうなガトーショコラと、その上にマーガレットの花びらが佇んでいた。


「ガトーショコラ、、、懐かしいなぁ、、、」


カイラはそうつぶやいてガトーショコラを口に運ぶ。その瞬間、とても嬉しそうな顔をして少し大きな声を上げる。


「ん!凄く美味しい!」


「本当!?」


「うん!凄く美味しいよ!ありがとう!」


「あ、ありがとう、、、」


カイラは大満足という表情で、リリィに感謝を告げる。リリィは顔を真っ赤にしながら涙を流す。その目は、カイラを観ることはもう出来なかった。


「ど、どうしたのリリィ?」


「〜!!もう寝る!」


リリィは恥ずかしすぎてすぐその場を去る。でも、その表情はとてもとても嬉しそうだった。


マーガレットの花言葉は《心に秘めた愛》。カイラはそれに気付くことなく、ガトーショコラを満足そうに完食するのだった。












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