第15話 亡命のお姫様


「え〜と、今は落ち着いたかな?」


「はい、、、さっきは失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。命の恩人だというのに、、、」


「あぁいや、気にしなくていいよ。取り敢えずご飯でも食べながら話そうか。」


あの後全裸のこの子をリリィが担ぎながら街に戻り、一回宿屋で着替えさせて眠らせていたのだが、先程起きたので取り敢えずお風呂に入れてきた。返り血やらなんやらで汚れてたからね。


そんでもって、彼女が気絶している間に少し身辺を調べてみた。どうやらこの子が頭につけている髪留めはデルタ王国の隣に位置する武力最強の大国ラインハルト帝国でのみ生産されている強力な加護を持つ髪留めらしい。つまり、この子は帝国出身の可能性が高い。


「流石に食堂に行くのは気が引けるからね、店員さんにお願いして部屋にご飯持ってきてもらったよ。」


「ありがとう、ございます。」


やはり完全には信じ切れていないみたいだ。だが、差し出された食事の前に彼女の腹の音が鳴り恥ずかしそうな顔をする。


「ハハ、良いよ食べて。話はそれからだね。」


俺が食事の許可を出すと、彼女は速攻でフォークを取って前世でいうトンカツらしき食べ物に食らいつく。継はサラダを一気に口の中へと運んで水を勢いよく飲んで流し込む。


そんな彼女のこの目からは、涙が溢れていた。こんな俺達と同じくらいの歳の女の子が、ご飯食べるだけで号泣とかどんな生活を行ってきたんだ?


「ん゙ん゙、すいません。本当に、久し振りの食事だったので。」


「いやいや、あれだけ勢いよく食べてくれる方が料理人たちも気持ちが良いと思うよ。それじゃ、君の事、教えてくれるかな?」


「はい。」


ご飯を速攻で食べ終わった彼女は、喉に詰まりかけたトンカツを気にしながら話し始める。リリィは気配を消してドアの前から話を聞いている。なんで隠れるん?


「まずは自己紹介させていただきます。私はラインハルト帝国第二皇女テスラ・フォン・ラインハルト、今は皇位争いに敗れ帝国から亡命してきた、敗北者です。」


テスラは堂に入った挨拶をする。てかおいおいマジか、本物のお姫様じゃん。しかも第二ってなるとかなりの権力を持つはずなんだが?


(皇位争い、、、確か、ラインハルト帝国の皇帝が1年前倒れたと聞いたがそれのせいか。)


「ちなみに、聞きづらいんだけど盗賊に襲われてた騎士は、、、」


「はい、私の御付きです。幼年期からお世話をしてくれた恩人で、私が亡命すると言っても付いてきてくれた大切な仲間ですっ、、、」


テスラは再び泣き出してしまう。それほどまでに大事な部下だったのだろう、本人が部下ではなく仲間と呼んでいるのが良い証拠だ。


「単刀直入に、申し上げます。とてつもなく失礼なのですが、聞いてくれますか?」


「うん、とりあえず話してみて?」


「私の、師匠になってください。もう二度と、大切なものを失いたくないんです。もう自分の無力で大事な人が死ぬのは、嫌なんです、、、」


告げられる願い、吐かれる想い。そこにはあまりにも沢山失いすぎたテスラの本音があった。正直、共感は出来る。


(きっと、血みどろの皇位争いを数年間続けて、負けたから亡命しようとしたら、皇位争いで争った皇女か皇子にマフィアを差し向けられ、家族同然の部下を目の前で殺され、自分の身も犯されそうになった。)


ここまでやられて、心が折れるのではなく反発するのは才能だ。普通なら諦めて自死を選ぶか無気力に生きるかの二択になるのだが、彼女は前に進むことを選んだ。


「ごめんね、少し覗かせてもらうよ。」


俺はそう告げ、最近取得した超有能スキル

《鑑定》をテスラに発動する。そこで見れる才能で、彼女を育てるかは考慮しよう。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




テスラ・フォン・ラインハルト レベル35


筋力 B

俊敏 B

魔力 SSS

器用 A

耐久 C

幸運 B


《スキル》


魔力強化 レベル8

精霊魔法 レベルMax

強化魔法 レベル5

治療魔法 レベル6


《ユニークスキル》


【精霊の守護者】


《称号》


精霊王の慈愛

精霊に愛されし者

精霊使い

英雄の種子



◆◆◆◆◆◆



どうやら、とてつもないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。いやさ、皇族だから何かしら才能あるだろって思ってたらえ?なに?英雄の種子?精霊に愛されし者?しかもユニークスキル持ちやん。


「ようし分かった、テスラ。君は俺達が責任を持って鍛え上げる。だが、一つ条件を付けてもいいか?」


「感謝いたします。そのためならば、どんな条件でも飲みましょう。」


「俺が求める条件はただ一つ、俺とパーティーを組んで魔王軍との戦争に参加して欲しい。情けないところだが、俺とリリィの二人だけじゃいずれ限界が来ると思ったんだ。」


こればっかりは真実だ、俺達はAランクには割と圧勝することが出来るが、SランクのモンスターやSSSやXの冒険者には負ける。それこそ、魔王軍の幹部暁九天や魔王には勝てないだろう。


戦力増強のためにも、テスラの精霊王の力は魅力的だ。だがそのためにはやらなきゃいけないことがある。


「分かりました、条件をのみまs」


「ちょっと待ってね。」


条件を飲もうとしたテスラの肩に手を置いて、キスしそうなくらいの距離まで顔を近づけて瞳を覗く。そして、この至近距離で魔力を解放する。


「精霊王さんよぉ、見えてんだろ?ちょっとお話しようぜ?」


なんかちょっとナンパみたいになってるけど、これはまぁ仕方ないだろう。それに、お出ましのようだ。


部屋の魔力濃度が、一瞬にして極限まで上昇する。中にいるだけで吐き気がしてくるほどの魔力が部屋中に充満して、とてつもなくそれっぽい雰囲気が流れる。奴さんも準備万端のようだ。


『初めましてなのに、随分な挨拶じゃないか。《転生者》君?』


「お前ッ!!??」


テスラの背中から魔力の霞のようなものが溢れ、形を為していく。そこに居たのは、紫色の長髪を靡かせる妖しいほどに美しい女性だった。その身から放たれるのは、咄嗟に精神防御スキルを発動しなければ洗脳されていたであろう究極の美貌。彼女こそが、精霊王だ。


しかし、聞き捨てならないセリフがあった。こいつ、なんで俺が転生者だと知っている?


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