第12話 階級選定試験


「なぁなぁ、機嫌直してくれよリリィ〜。」


「ふんっ!カイラなんて知らない!」


朝6時45分、冒険者ギルドに向かって歩いているのだがリリィが機嫌を直してくれない。いやさ、リリィの着替え中に部屋に入ったのは反省してるから許してくれ。


(というか、村だったら普通に一緒に水浴びも着替えもしてた気がするんだが。)


まぁそこはお年頃って言葉で片付けておこう。リリィだって15歳の女の子だもんな、着替え見られたら普通に恥ずかしいよね。


「そうだリリィ、この後美味しいスイーツでも食べに行こう!もちろん俺の奢りで好きなだけ食べて良いよ!」


「本当!?なら早く行こう!」


よしよし、計画通り。リリィは甘いものに目が無いからな、その代わりリリィはありえないくらい食べるから財布が心配になるけどまぁ冒険者になればたくさん稼げるだろうから問題なし。


「まぁ、取り敢えず着いたよ。」


「よし!さっさと試験なんて終わらせて食べに行こ!」


リリィの機嫌も治ったところで、約束の5分前に冒険者ギルドに着いたので中に入る。すると、そこにはゴリゴリの筋肉マッチョが受付に立っていた。


「すいません、シリカさんに呼ばれたものです。階級選定試験を受けに来ました。」


「む、小僧達があの床を破壊したってガキか。ならば着いてくるがいい。試験を執り行う。」


2メートルは超えているであろう身長に、ゴリラかよって言いたくなるレベルの筋肉。そしてメッチャスキンヘッドが似合う深みのある顔がこちらを見つめる。


(この人、強いな。)


試験会場に連れて行くと言われたので着いていく中で、俺はそれを感じ取っていた。少なくとも準Aランク、もしかしたらフォビアと同レベルのAランクもありえる圧だ。感じる魔力の波がただものじゃない。


「着いたぞ、ここが試験会場だ。」


5分ほどギルドの奥へと歩いていくと、謎の鏡を指さされ、中へ入れと指示される。大人しく言うことを聞いて鏡に入ると、そこはドーム上の草原のような場所だった。


(うおすご、今の転移術式が刻まれた鏡か?鑑定に加えて転移とか、習得したい奴がたくさん出てきたな。)


「改めて、今回お前達の選定試験を担当するディアベルだ。ここターレンダール冒険者ギルドのギルドマスターをやらせてもらっている。」


「ギルドマスター!?」


おいおい、そんなの聞いてないって。だからこんなに強そうなのか。てかリリィさん?メッチャ笑顔になってますよ?


「試験内容は簡単だ。10分間俺と戦闘してもらう。その中でお前たちの実力を判断する。」


「へぇ、オジサン。そんなに強いの?」


「オジサンじゃなくてディアベルさんかギルマスと呼びなさい。それと、遠慮しなくていい。殺す気で来い。」


ギルマスが少しキレ気味でそう答えると、ギルマスはなにもない空中に紫色の歪を出現させてなんか凄くかっこいい赤紫の日本刀らしきものを取り出す。それは、妖しいまでに不気味な魔力を放っていた。


(空間操作系のスキルか、つくづくとんでもない魔法を使いやがるな。)


ちなみに、空間魔法はスキルツリーでは習得できなかった。だから既存の魔法スキルの上位スキルなんだろう。


「リリィ、行くよ。」


「もちろん。」


俺とリリィも、ミスリル製の長剣を引き抜く。魔力を練り上げ、各種強化スキルを全て発動する。ふふふ、レベル91の力を見せてやろう。


「試験、開始!!!!!」


「《エレメンタルフォートレス》!!」


「《天炎剣》!!」


ディアベルの試験開始の合図がなった瞬間、俺は地水火風の四属性を混合させた魔法、エレメンタル魔法を発動する。多重エネルギーによって形作られた砦がディアベルを押し潰す。


さらに追い打ちをかけるように、リリィは上空に浮かび上がって天炎剣をディアベルに振り落とす。するとあらゆる物を焼き尽くす天炎が砲撃となってディアベルに放たれる。


「流石ギルドマスターってところかな。」


「そりゃどうも、でも少し見くびっていた。」


これだけの超威力の攻撃を受けたディアベルは、服に少しの汚れをつけるだけで帰ってきた。その右手には、相変わらず不気味な魔力を放つ日本刀が握られている。


「次はこちらから行こう、《短距離転移》」


「《天理眼》!!」


全身に悪寒が走るのを感じた俺は、即座に天理眼を発動する。次の瞬間、赤い軌道線が俺の真後ろから首に目掛けて奔る。


「ぐおおおお!!!!!」


「ほう?これを止めるか?」


(あっぶねえな!!!)


赤い軌道線を視認した瞬間、俺は本能で振り返って長剣で防御する。すると、そこにはあまりにも冷徹な視線をこちらに向け、日本刀、いや、魔刀を振り抜いたディアベルの姿があった。


「だが、甘い。」


「なっ!?」


ギリギリのところで防御していた俺のミスリル剣から、魔力が消え去る。いや、あの魔刀に吸い取られたのだ。


魔力を失ったミスリル剣は、あまりにも容易く魔刀によって押し込まれて俺の首が切断される。と、思ったその時。


「《天炎突》!!!」


リリィの天炎を纏った突きがディアベルの心臓目掛けて放たれる。だが、それはディアベルの短距離テレポートによって容易に回避される。それはまるで、こちらの動きを完全に読んでいるかのような迅速さだ。


「リリィ、あの刀に触れるな。魔力を吸い取られる。」


「分かった。」


「《短距離転移》」


再び行われる転移、天理眼を発動している以上不意打ちで俺達を殺すことは不可能。それはディアベルも分かっているからこそ、奴は大胆な行動に出た。


「なっ!?」


ディアベルは転移すると同時に、こちらに向けて魔刀を投擲してくる。その速さは馬鹿げており、あの筋肉が見せかけじゃないことを証明する。


ギリギリで心臓目掛けて飛んできた魔刀を回避すると、そこには避けられた魔刀を掴んで上段に構えるディアベルの姿があった。


「《次元斬》」


「ぐぅぅっ!!??」


回避は不可能、故に防御しか選択肢が残されていない。だが、咄嗟にミスリル剣を構えた俺の抵抗は奴の攻撃によって無意味に終わる。


上段から振り下ろされる魔刀は、オレンジ色の光を纏っており、ミスリル剣と触れた瞬間ミスリル剣を木っ端微塵に破壊して、俺の左肩から腹部までを深く切り裂く。それは致命傷になりうる一撃だった。


「《グレーターヒール》!!」


俺は攻撃を喰らった瞬間、全力で後方に飛んで回避しながら治療魔法を発動する。あって良かった治療魔法というべきか、たった数秒で完治とまでは行かなくとも傷自体は塞がってしまった。


(転移による瞬間移動に加えて、あの防御が意味を為さない謎の攻撃スキル。そしてあの魔力を吸い取る刀、マジでアホみたいな強さしてんな。)


「リリィ!!アレの準備をする!10秒稼いでくれ!」


「了解!」


俺は破壊されたミスリル剣を名残惜しく見つめながらも、大地魔法と烈氷魔法を応用して代理の長剣を作り上げる。そして、《詠唱》を開始する。


『喰らいし想望、果てなき明星。我が欲するのは永遠の闇。』


言葉を紡ぎ、魔力を長剣に慎重に注ぎ込む。俺が5年間で鍛え上げた超高技術の見せ所だな。


「させるとでも?《短距離てんi》」


「《天炎連剣撃》!!」


詠唱を開始する俺を危険に思ったディアベルは、お得意の転移魔法を発動しようとするも俺より遥かに近距離戦が強いリリィの8連撃によって妨害される。


だが、そんな8連撃を魔刀で受けたのか、リリィのミスリル剣にもヒビが入る。


『明けない夜、止まない雨。なりや、なりや。ならば我が祝福を!!』


二節詠唱、三節詠唱よりかは威力が落ちるがそれでもとてつもなく高威力な魔法を発動するトリガーをセットし終わった。


「《短距離転移》!」


リリィの猛攻撃の中、詠唱を完了した俺を殺すべく短距離転移で俺の真後ろに転移するディアベル。本来ならば、ここから防御不可の斬撃が飛んできてゲームセットなのだが、もう詠唱は終わっている。


「《次元斬》!!」


「《闇喰閃剣》!!」


後ろに振り返った俺の前から放たれるのは、下段から振り抜かれる防御不可の斬撃。しかし、それに対してこちらは、攻撃不可の一撃を放つ。


「なっ!?」


「初見殺し対戦ありがとうございましたァ!」


俺が作り上げた代理の長剣は、どこまでも深い闇を纏ってディアベルの魔刀とぶつかる。それは、魔刀が持つ運動エネルギーの全てを喰らい尽くし、動きを完全に停止させる。


ほんの一瞬、ほんの一瞬だが奴の動きが完全に停止したこの一瞬で、俺は奴の首を切断する。


(触れた物の運動エネルギーを完全に0にする暗黒魔法カオススラングと、フォビアのスキル閃剣を、《魔剣術》の1stハイブリッドで組み合わせたスキル。触れた物の運動エネルギーを喰らい尽くす閃光の剣戟を繰り出す初見殺しの極地みたいな技だ。)


「てか、殺しちゃったんだけど?」


「安心しろ、この部屋では死なん。」


「わおびっくりしたぁ!!??」


首を切断したのにも関わらず、何故か普通に喋るディアベルに驚きを隠せない。え、キモぉ。


「この部屋にはかの伝説とも言える大賢者、《ポーリュプス》が掛けた死者蘇生の魔法がある。死んでから5秒以内なら蘇生可能だ。」


「だから完全に殺す気だったのね、、、」


「まぁそれはともかく、お前たちの試験結果を言い渡そう。」


首と肉体が繋がり、普通に立って喋るディアベルはそんな重大な切り出しを始めた。


「冒険者カイラと冒険者リリィ、君たち二人をこのSSSランク冒険者ディアベルの名の下に、《Sランク》を認定する。」


「「いよっしゃぁ!!!!」」


最高ランクのXではないにしろ、それでもかなりの高評価を受けて普通に嬉しい。てか、SSSランクってあんた、数百年に一度の大英雄並なんですけど?ちなみに、勇者と魔王、さっき出てきた大賢者はXランクだそう。


「8割方手加減していたとは言え、一度殺されたからな。そしてまだ手札もあっただろうことから君たちはSランクに相応しいと判断した。これからは、同じ冒険者としてよろしく頼むぞ。」


「「はいっ!」」


ギルドマスターのくせに冒険者をやっていることにも驚きだが、そんなことはどうでもいいだろう。取り敢えず、これで階級選定試験は終わったのだった。





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