第8話 死にたくない
「くっ、、、化け物ですね、、、」
「ハハ!オジサン、Bランクじゃ何体いても意味ないよ?」
戦闘開始から10分が経ったその時、総勢80体居たBランクのモンスターは全て死体となり転がり、残った黒蛇だけがリリィと戦闘を繰り広げていた。
『キシャアァァァ!!!!』
「そろそろ飽きたよ、君も。」
沼地に大量に生えている木々の影から、10メートルほどの巨大な蛇が飛び出て、リリィに噛みつこうとする。しかしリリィは、ミスリル製の長剣を一振り黒蛇に振るうだけで、黒蛇は20メートル近く吹き飛ばされる。
「嘘でしょう、影に潜む怪物である黒蛇が赤子のように、、、」
フォールヒッツ奴隷商会長ドランは、フォビアと共にテイムした黒蛇が赤子のように扱われる現実を見て、感嘆をもらす。
天才。リリィににはその言葉しか似合わない、そう思えるほどに彼女は才覚を持っていた。
『キシャアァァァ!!!!』
「戦技―――炎蜂星剣」
黒蛇は時速にしたら600キロは越える速度で、猛毒の瘴気を放つ。それは喰らったらリリィでもただでは済まない劇毒だが、喰らうはずがない。
放たれた瘴気に対抗するかのように、リリィは剣を振り下ろす。すると、凄まじい熱量を持った炎砲が瘴気を掻き消しながら進み、黒蛇を焼き焦がす。
「まだまだ行くよ!」
リリィは走り出した。地面を蹴り抜いて黒蛇に一直線に向かい、その必殺とも呼べる剣を振るう。だが、そこで起きたのは爆発だった。
「ぐっ!!」
黒蛇の首に向かって剣を振り落とすと、リリィの背中に大爆発が起きる。それは意識外からの攻撃でリリィも少なくないダメージを喰らう。
「へぇ、、、そんなことも出来るんだ。」
「面白いだろう?テイムしたモンスターに自死を強制させることで生命力を代償にした大爆発や超強化を施すことが出来るんだ。こんなふうに!!」
ドランが地面に両手をつくと再度魔法陣が展開され、Aランクモンスター《赤竜》が出現する。だがその見た目は赤い鱗ではなく、黒みがかった不気味な色をしていた。
「生命力を対価に、Aランクモンスターである赤竜を超強化した。持って数分ってところだがそれだけあれば充分だ。」
「ちょっと、面白くなってきたね。」
眼の前の全長15メートルはあろうかという巨竜の威圧感は、黒蛇の比ではなかった。それはそれは、リリィをゾクゾクさせるほどの威圧感だ。
(カイラの方は終わったっぽいし、カイラを巻き込むことはない。ならどれだけ暴れても文句無いよね。)
「《青炎鎧袖》」
リリィがそう呟くと、彼女の全身を青い炎鎧が包み込む。その効果は全身体能力超強化、炎との親和性アップによる攻撃力上昇と炎攻撃耐性、ファイアブレスを放つ赤竜のメタ能力である。
「戦技――――王炎之連剣!!」
『グオオオオォッ!!!!』
凄まじい速度で赤竜の懐まで侵入したリリィは、一瞬で5回の炎斬撃を放ち赤竜の肉体に浅くない切り傷を与える。だが、その代償は中々に重たかった。
炎の斬撃を放つのとほぼ同時、赤竜の凶悪な爪がリリィの背中を切り裂く。すんでのところで回避しようとするも、それは傷を少し浅くするだけに留まる。
『キシャアァァァ!!!』
畳み掛けるように黒蛇が瘴気を放つ、リリィは傷を確認する暇も無く回避行動を余儀なくされその激痛に意識を取られる。
『グオオオオ!!!!』
瞬間、放たれるドラゴンブレス。赤竜の巨大な口に魔力が集約されていき1000度を越える極炎砲が放たれる。
「戦技―――――轟炎斬砲!!」
もう回避は不可能、迎撃するしか無いという所まで追い詰められたリリィはスキルを発動して炎砲を放つ。
ぶつかり合う炎と炎、しかし均衡はすぐに敗れ去る。
「ぐぅぅぅ!!!???」
赤竜はファイアブレスのスペシャリスト、その得意分野で挑んだ時点で敗北は決定しているようなものである。均衡していたぶつかり合いはすぐさま壊れ、1000度を越える極炎砲がリリィを襲う。
20秒ほど経ったときには、土煙も晴れてその現実が明らかになる。
「はぁ、はぁ、、、あっついね、、、」
全身大火傷、果てしなくグロい見た目に変わり果てたリリィは激痛に悶え苦しみながらそう呟く。だが、そこにはほとんど力は残っていなかった。
(あぁ、これ、負ける。もう力が入らない。)
リリィは自覚してしまった、もう剣を握る力が全然入っていないことに。もう立っているのもやっとだということに。
「ほほう?最後は潔く死ぬってわけですか。」
「うん、負ける。そんなのわかり切ってるから。」
リリィは冷たく、そう言い放つ。ドランはその顔を惚惚の表情に変えてそう呟く、もうこの瞬間リリィの負けは誰が見ても確定してしまった。
「赤竜、やれ。」
『グオオオオ!!!!!』
赤竜の口内に再び魔力が集約されていく。それは死のカウントダウンであり、リリィはゆっくりと目をつむり始めた。だが、その時リリィの視界にはある者が映った。
(カイラ、、、)
その瞬間、リリィの脳内で展開されるこれまでの人生。馬鹿みたいに修行ばっかりして、馬鹿みたいにモンスターを殺す以外にしてこなかった人生を再確認して、リリィはくだらなかったと一蹴する。
(でも案外、悪くなかったなぁ。)
こんな血みどろな人生に色を付けてくれた、大好きな親友がいたから。他の誰もが化け物と罵った私を、本気で追い越そうと努力する親友がいたから。
その時、リリィは思い出す。いつか必ず自分を超えると粋がってみせた男の姿を。自分よりも弱いくせに絶対に諦めなかった馬鹿者のことを。
(これが、死にたくないってことなのかな?)
「私が死んだら、そんな日々も終わり。私が死んだら、もうカイラと会うことも喋ることも出来なくなる。」
口に出して驚いてしまった、それはなんて、悲しいことなんだろうと。その時、リリィの顔に笑顔が戻る。
「絶対に死なない、来なよ。打ち砕いてやる。」
その笑顔は、幼き日の純粋に戦闘を楽しんでいた頃のリリィのものだった。この時、この場所で彼女は自分の原点を取り戻した。
「赤竜!撃て!!」
『グオオオオオオオオッ!!!!!!』
放たれるドラゴンブレス、熱気だけで沼地の水は干上がり、木々は溶解する。だが、リリィだけはその目を輝かせ、突如脳内に浮かんだ言葉と術を行使する。
「《天炎之衣(ヘルデスコート)》!!!」
リリィの全身を、黄金に輝く炎の衣が覆う。それは1000度を越えるドラゴンブレスを悠々と受け流しリリィを無傷に抑える。
「《天炎剣》!!!」
『グギャアァァァ!!!???』
ドラゴンブレスが収まる瞬間、リリィは既に赤竜の上空に浮かび上がっていた。そして、天炎を纏いし炎剣で赤竜の首を切り落とす。
「なっ!?」
「悪いね、死にたくなくなったんだ!!」
ドラゴンブレスを防がれたことに驚愕するドランの懐に、一瞬で忍び込んだリリィは炎剣を閃かせる。
「ぐはぁっ!?」
振り抜かれる天炎剣、それは戦闘力皆無のドランの首を容赦なく切断して燃やし尽くす。リリィの顔は、とてもスッキリしていた。
(天炎、いきなり頭に浮かんだから焦ったけど、使えて良かった。)
ユニークスキル《天炎》、あらゆる物を燃やし尽くす地獄の炎にもなれば、あらゆる物を守り抜く護天の炎にもなる、まさに《天の炎》。土壇場にてユニークスキルを覚醒させたリリィは、やはり天才なのだと誰もが認めるであろう。
「ハハッ、、、取り敢えず、もう限界だ、、、」
リリィ史上初の、限界。大量出血と大火傷に加え魔力切れで、もう意識は限界だった。
だがこの場にて、フォールヒッツ奴隷商会の商会長ドラン・フォールヒッツと、Aランクの傭兵フォビアは死んだ。余談ではあるが、カイラが目覚めるのはこれから2時間が経った後である。
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