第7話 閃剣のフォビア


「ッ!!??」


(見えなかった!?)


奴がスキルを発動したと認識した瞬間には、俺の左腕は空中に放り投げられていた。そのまま追撃が来るかと思い、即座に防御の体制に入るが、フォビアは一度後ろに退く。


「ハ!やるじゃねえか!首を切り落とすつもりだったんだけどなぁ!」


そう叫ぶフォビアの顔は、紛れもなく戦闘狂のそれだった。


しかしいくらなんでも早すぎる。並列思考に思考加速、動体視力強化まで発動した俺が捉えることが出来ないというのは異常だ。間違いなく何かしらのスキルを使っている。


「一発耐えた褒美に教えてやるよ!俺の二つ名は《閃剣》!【ユニークスキル】閃剣から取られた二つ名で、王国13番目のAランクだ!」


「ハッ、そんなAランク様が大商会に金で雇われて国家転覆企んでんのか?」


「ほぉ?よく分かってんじゃねえか。俺はただ金で雇われただけの傭兵だからな、あのクソデブの目的なぞ知ったこっちゃないが、雇われた以上として仕事は熟す。それが傭兵ってもんだろ?」


ユニークスキル、初めて聞いた単語だ。響き的に普通のスキルの上位互換っぽいな、それに閃剣。未知のスキル故にあの速さは閃剣とかいうスキルのせいか。


(対応しろ、2回目で対処出来なきゃ死ぬ。)


全身の神経を研ぎ澄ます、意識がクリアになって集中の闇へと深く深く沈んでいく。まるで、世界と同化しているようだ。


「【閃剣】!!!!」


「戦技―――流龍剣!!」


再び放たれる超高速の剣撃、さっきは何も出来ずに斬られたが、今回は《見える》。


上段から繰り出された振り下ろしを、受け流しに特化した剣聖術戦技、流龍剣で完全に受け流して奴の剣を地面に突き刺してめり込ませる。


「模倣戦技――――火轟炎剣!!」


「甘えな!!!!」


僅かに生まれた隙に、容赦なく爆炎を纏った剣を振り抜く。それはリリィが開発した火剣術の中でも範囲を狭める代わりに威力だけを追い求めた破壊特化の剣技である。


しかし、そんな爆炎の振り抜きは奴の高速移動によって避けられる。恐らくアレは縮地の進化スキルだろうか?


「ふうッ、ふぅッ、、、」


左腕の喪失感と激痛が、俺の意識を侵食しようとする。だが、そんなのを気にしていたら速攻で死ぬ。ここは我慢だ。


(だが、何かを掴みかけた。もう一回、もう一回だけ閃剣を防げれば辿り着ける気がする。)


今の閃剣を防いだ眼、これは今まで俺のものでは絶対に無かった。今この瞬間に、俺は成長したのだ。


「戦技―――八咫剣林!!」


放たれるのは、ほぼ同時の8連撃。それは準Aランクモンスター《トライア》を葬り去った強力なスキルだが、フォビアはそれを長剣で全て受けきり、即座に反撃してくる。


「戦技――――迅雷剣ッ!」


八咫剣林を放った後に生まれるほんの少しの隙に、閃剣よりは遅いがそれでもありえないほどのスピードの3連撃が放たれる。もはや本能で剣を構えて防御したが、それでも脇腹を深く切り裂かれる。でもな、それが狙いだ。


「《ファイアボム》!!」


「うおっ!?」


俺の脇腹を切り裂いた奴は、俺の懐にいる。故に自爆覚悟で爆発魔法を発動する。


結果は直撃。俺の脇腹の傷は悪化したが奴の上半身は神言な大火傷に見舞われ、左目は潰れたようだった。


「へぇ、自傷覚悟か。ガキのくせに肝が座ってんな。」


「そりゃどうも!!」


俺から距離を取ったフォビアに対して、俺は即座にもう一度突進する。


そこから始まったのは、血で血を洗う激戦。左腕が無い以上俺が圧倒的に不利だがそこはなんとなヒットアンドアウェイでどうにかしている。


(クソッ!強すぎる!!)


5分が経過したときには、すでに勝負がついたようなものだった。俺は左腕欠損に加えて大量出血、対するフォビアは先程食らわしたファイアボム以外大した傷を負っていない。それこそかすり傷程度しか。


まさに怪物、Bランクなどとは格が違う正真正銘の化け物。だが、俺は奴に勝たなくてはならない。


「ハハ、これがAランクかよ、、、」


俺は強くなったつもりだった、それこそ異世界転生して、スキルツリーとかいうチートもあって。これからの人生で最強を目指すなんて息を巻いて。少し浮かれていたのではないだろうか。


でも、今俺の目の前に居るコイツは俺より遥かに強い。未知のユニークスキルに別格すぎる剣術とスピード、ハッキリ言って、現状の俺に勝てる相手では無かった。


――――――――それでも。


勝ちたい、追い付きたい、追い越したい。この怪物のような男をさらに速いスピードで追い越してさらに強くなりたい。それこそが俺の生きる目的だから。


「ふぅぅぅ、、、」


「ハッ!最後の一撃ってか!いいぜ!乗ってやる!」


息を深く吐いて、自分の世界に入る。すでにフォビアの声は聞こえない。


(もっと、もっと、もっと!もっと深く集中しろ!奴を殺すこと以外の全てを放棄しろ!)


無我の境地、深層心理。そう呼ばれる類の極限状態に這入った時、俺の心はとてもクリアになったような気がした。今なら、どんな攻撃も躱せるような自身が全身を支配する。


呼吸さえ忘れるほどの極限集中状態、魔力は漲り殺意は光り輝く。


「死ね!《閃剣》ッ!!!!」


再三放たれる最速の一撃、それは雷など軽く置いていくスピードで俺の頭をかち割らんと振り下ろされる。





―――――――――その時。





(あれ、なんだか、、、遅い、、、それに赤い、、、)


先程まで眼で追うことすら不可能だった奴の斬撃が、異常なほど遅く見えた。そして、奴の剣からは赤い軌道線のような物が出ており、それを辿って剣は振り下ろされていく。


その時、俺の眼は赤く、焔色の時計のように光り輝く。これだけ遅いのなら、余裕で対処可能だ。


「戦技―――――剣聖撃」


ありえないほど冷徹で、死を宣告するかのような呟きと同時に放たれる剣聖の一撃。それは最速の一撃を滑るように受け流し、そのままフォビアの右腕を肩から切断する。


「なっ!?」


「戦技―――――円舞剣輪」


長剣を握っていた右手を切断され、武器を失ったフォビアに向けてさらにスキルを発動。360度全方位に斬撃を放つ円舞剣輪は、容赦なくフォビアの肉体をバラ切りにする。


「ぐはぁっ!?、、、」


絶叫を上げることすら許されないフォビアは、醜いうめき声を上げると同時に即死する。その瞬間、俺の脳内にアナウンスが響き渡った。


【魔眼の開眼を確認しました。ユニークスキル《天理眼》を取得しました。】


称号開眼者を取得しました。】


そんなアナウンスが頭に響き渡るのと同時に、焔色に光る瞳は解除される。その瞬間、俺の全身に激痛が起きる。


「ぐあっ、、、魔力、切れか、、、」


突如現れる猛烈な吐き気と倦怠感、受けている致命傷に近い傷も相まって俺の意識は急速に現世から離れていくのだった。



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