第6話 フォールヒッツ奴隷商会


「なるほど、分かったぞ。」


最初のコカトリス襲撃から1週間、1週間でなんと10体以上のBランクがタイラントの第一エリアに出現した。これはもう黒だなと思って1週間調査してみた。


Bランクが主に出現する第三エリア《禁断の沼地》に、何時間も張り込んで何かしら異変がないかを探ってみたところ、やはりリリィの勘は当たっていたみたいだ。


(あの太った男が、モンスターテイマーか。それに連れているのはBランクモンスター《ゴレイネ》、ゴリラのようなモンスターでかなり強力なモンスターだ。)


そんでもってそのゴレイネを使って、沼地のBランクモンスターをテイムする。そんな感じで戦力を増やして第一エリアに放っていたのか。でも、一体なぜだ?


(仕方ない、魔力をたくさん使うけどこればっかりは探らなきゃな。)


俺は500メートルほど、奴等から離れてスキルを発動する。


「《魔片付着(マーキング)》。」


取得スキルポイント30のスキル、自分の魔力を付着させた相手の位置をいつでも知ることの出来るスキルを使い、ゴレイネに魔力を付着させる。


(最初のコカトリス出現から1週間、これだけ時間が経っていれば数十匹とBランクをテイム出来るだろうし、これは不味いかもしれないな。)


俺はマーキングを付着させて、速攻で沼地から退散する。ここは魔力や気配を全力で絶たないとすぐにモンスターに見つかって戦闘を余儀なくされるからな。戦闘して奴等に見つかったらたまったんもじゃない。





◆◆◆◆◆◆◆◆





「てことだから、リリィ。今夜襲撃を仕掛けるぞ。」


「へぇ、結構面白そうじゃん。第二エリアもそろそろ飽きてきたし丁度良いね。」


沼地から1時間ほど掛けて村に帰還してすぐにリリィに伝える。現在時刻は15時、日が沈んで暗くなったらマーキングして突き止めた奴らのアジトに向かう。


(魔法も地水火風氷の五属性全てを、上級まで習得することができたし戦力的には充分だ。それに模倣(イミテート)の火剣術も大分扱えるようになった。)


リリィの火剣術の特徴として、ありえないほどの高火力と広範囲というのが挙げられる。そもそも超高熱、それも数千℃単位の熱量を持った炎を剣に付与して振るう時点で、とんでもない威力なのだが、普通に半径30メートルぐらいまで斬撃が届くので範囲もおかしい。まぁ、それを完璧に制御するリリィの技量があってこそだけどな。


「とりあえず、何日も張り込んでたから疲れた。襲撃まで寝る。」


そう言い残して、数時間の仮眠を取るために家に向かうのだった。






◆◆◆◆◆◆





日が沈み、タイラントに夜が訪れた20時。二人の戦士が牙を研ぐ。


「リリィ、そろそろ時間だ。」


「オッケー、それじゃ行こ。」


リリィと俺は、Cランクモンスターを売りまくって得た大金で買った軽防具を身に着けている。実はこれ、衝撃と斬撃を緩和する効果付きの魔道具だからかなり高価な代物だ。


そして剣も、魔法発動の補助と切れ味両方が最高クラスのミスリル製の長剣である。刃渡りは80センチほどで、身長が160ほどの俺には少し大きいがこれぐらいが丁度良い。


「走るよリリィ。」


そんな言葉と共に、一気に走り出す俺とリリィ。その速度は軽く時速200キロは出ているであろう速度で森中を駆けていく。


現在のレベルは60、ステータスは幸運と俊敏以外オールA、俊敏がSで幸運がB。これに加えて各種ステータス超強化スキルでもう二段階ほど上昇するため実数値は俊敏がSSS、その他SS、幸運がAとなる。


現在の目標は地水火風氷の魔法スキルを進化させること。今のスキルレベルは大体6ぐらいでまだまだかかるが、他の強力なスキルのレベル上げも出来るので気長にやろうと思う。


(第二エリアの中腹まで来た、見た感じやはりモンスターの数が少ないな。これは100匹くらいあいつテイムしたんじゃないのか?)


それは本来ならありえないことだ。テイムスキルというのはテイム数に限界が存在し、どんな高名なテイマーでも20体が限度。なのにあの商人らしき男がこれだけテイムしてるのは異常としか言えない。それこそ、実現には国宝級の魔道具を使わないと。


そんなこんなで、出会うモンスター全てを尽く無視して走り続ける。これでも転生してから7年間、毎日基礎練から模擬戦まで12時間以上やってきてるからな。体力には自信がある。


「リリィ、そろそろ第三エリアだ。ペース上げるぞ。」


「了解。」


第三エリアに入ると、第二エリアとは比べ物にならないほど強いモンスターが比喩ではなくうじゃうじゃいる。故に時速200キロ程度だと追いつかれるので400キロまでスピードを上げる。


ちなみに今回の事件、俺はまぁまぁ美味しいイベントだと思っている。だって普通に第三エリアに入ると大量のモンスターにフルボッコにされるが、今回のように支配されているモンスターならば支配者の腕次第で強さが決まる。故に普通に強いBランクモンスターを楽に他医療に狩れるチャンスなわけだ。


「リリィ、着いたぞ。」


「へぇ、、、結構大きいね。」


第三エリアを時速400キロで走り続けて約15分ほどで目的地に到着した。今俺とリリィの目の前にあるのは高さ10メートル、横幅20メートルはありそうな洞窟である。そして、奥は暗闇に遮られて見ることが出来ない。


(マーキングが示すのはこの洞窟だ、それにこの入口でビンビン感じる膨大な気配。ここがアジトで間違いないだろう。)


「リリィ、準備は良いか?」


「もちろん。」


「そんじゃ、突撃!!!」


俺の号令と共に、瞬間的にではあるが先程までよりも速い速度で洞窟に突入する。そして、盛大に挨拶をかましてやる。


「《ファイアードラグーン》!!!」


「戦技―――轟炎閃剣!!!」


俺はミスリル剣を前にかざして上級火魔法、ファイアードラグーンを発動する。その瞬間洞窟内に半径20メートルほどの巨大な炎の渦が出現し、そのまま豪速で洞窟を削りながら前に飛んでいく。


そんな中、リリィはファイアードラグーンよりさらに速いスピードで洞窟の奥まで入り、視界全体が炎に染まるほどの炎を展開する。速すぎて少し見えなかったが、恐らくあの炎の先には切り刻まれた砦のようなものがあるはず。脆い防衛線だなぁ。


「敵襲!!敵襲!!」


「お前らぁ!!行くぞぉ!!」


俺達がわざわざしてやった挨拶に怒りをあらわにした、いかにも盗賊ですって監事の見た目のやつらが砦からボンボン出てきやがる。だがそのどれもがCランク程度だ。


「《シルフィードエアリアル》!!」


ざっと50人は出てきたであろう砦に向けて、俺は上級風魔法シルフィードエアリアルを発動する。


シルフィードエアリアルは、風を刃に変換して、その風で竜巻を起こす魔法。故に砦に向かって放たれたシルフィードエアリアルは盗賊らしき奴等を粉微塵に切り刻む。


「おいおい!!手下ばっか寄越してねえで早く出てこいよ!!」


「そうだそうだ〜!雑魚ばっか斬ってもつまんないぞ〜!」


一瞬にして数十人が殺されたからか、とても静かな洞窟内に俺等の声が響き渡る。そしてその5秒後、二人の男が出てくる。


「ハハハ!!本当にガキじゃねえか!!」


「油断するなよフォビア、こいつ等はコカトリスを葬っている。」


「その程度で俺が負けるとでも?」


二人の男のうち、一人は醜く太った商人らしき男、モンスターをテイムしていたやつだな。もう一人は筋骨隆々で2メートルほどの体躯と、妖しく光る長剣を持つ男。特にこっちはヤバい。コカトリスなんかとは比べ物にならないほどの圧だ。


「まずは自己紹介から。私はフォールヒッツ奴隷商会の商会長ドランと申します。」


「俺はフォビア!デルタ王国からAランクを受けた傭兵だ!」


フォールヒッツ奴隷商会の商会長に、魔族との戦争で多数の戦績を残した大傭兵。彼らがタッグを組んで俺達の前に立っている。


だが、そんなことはどうでもいい。今1番大事なのは、フォビアが《Aランク》なことだ。


(AランクはBやCとは格が違う。たった一人で国の最高戦力にすらなり得る化け物、いや、本ものの化け物はSランクなのだが、それでもこの王国にはAランクは8人しかいない正真正銘の強者だ。)


「リリィはあの商人の相手を、俺があの傭兵の相手をする。」


「良いの?アイツ強いよ?」


「当然、むしろ楽しくなってきたところだ。」


俺の口角は自然と上がっていた。当たり前だろう?こちとらこれだけ強くなったのに未だに自分より格上と戦ったことがないんだ。そりゃ楽しくもなる。


「ハッ!ぶっ殺してやるよ!」


「私もこれだけ戦力を集めたのですから、叩き潰してあげましょう。お嬢さん。」


商会長ドランは両手を地面につくと、魔法陣が展開されてそこから総勢80体のBランクモンスターと、Aランクモンスター《黒蛇》が出現する。


「ふぅん?少しは楽しめそうだね。」


「斬り殺してやるよ、オッサン。」


こちらも気合十分、魔力も温存してきたポーションを使って全快だ。


「戦技――――閃剣ッ!!!!」


フォビアと名乗ったオッサンが、スキルを発動した瞬間俺の左腕は切り落とされていた。


「ッ!!??」


血で血を洗う激戦が、幕を開けた。



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