第5話 タイラントの異変


「いやぁ、楽しかった〜。」


収穫祭の翌日、大人たちが二日酔いに苦しめられている時俺とリリィはいつものように訓練をしていた。1日剣を振らなければ鈍る、それを知っているからだ。


(魔法は地水火風と氷、今の各種魔法スキルのスキルレベルが1だから初級までしか使えないけど、レベルが上がれば中級、上級まで扱えるようになるのかな。)


魔法には階級がある。下から順に初級、中級、上級、聖級、王級、神級の6段階で聖級以上の魔法を使える者は国家戦力にさえなると言われる強力な魔法だ。


恐らく、聖級以上はスキルを進化させなければ使えない。これまでの経験上スキルを一つ進化させるには2ヶ月はかかるからメッチャ時間かかるな。やっぱり剣聖術は一回置いておいて魔法に専念したほうが良いか。


「リリィ、そろそろ森に行こうか。」


「分かった、カイラは今日魔法に専念するんでしょ?魔力回復薬持ってかなくていいの?」


「あれ高いからな〜、使うならもっと大事の時にとっておきたいんだよね。」


「ん、了解。」


俺達は第二エリアのモンスターを隣の大きなヴィルヘルムで換金したお金で買ったミスリル製の長剣を背中に担いで、森の中へと入っていく。


森への入口、村の防護柵を超えてタイラントに踏み入れた瞬間、今まで感じたことのない寒気に全身が覆われる。


「なんだこれ、、、気味が悪い、、、」


全身の神経が踊るように跳ね、本能が全力で警告を鳴らしている。まさに異常事態、これまで起きたことのない事態に俺とリリィは動けずに居た。それを、タイラントが見逃すわけがない。


『クエエエッ!!!』


「うぐっ!?」


森の奥、前方から射出された黒い光線が俺に向かってくる。脊髄反射で左手を差し出してガードしたが、その代償は大きかった。


「石化、、、まさかっ!?」


『クエエエエッ!!』


草むらから時速100キロを越える速度で飛び出し、リリィへと突進してくるダチョウとフクロウの融合体のようなモンスター。それは、本来この場所にいるはずがないモンスターだった。


「コカトリス!」


『クエエエ!!!!』


コカトリス、全長2メートルほどでダチョウとフクロウが融合したような見た目をしており、そのランクはB。受けたものを石に変える石化光線を放つのが特徴であり、物理攻撃も強力。こいつは本来なら第二エリアの最奥か、第三エリアにしか出現しないはず。


(こいつ単体だけなら問題はない!だがコカトリスがここにいるということはタイラントに何かしらの異変が起きているということ!あまり時間を掛けすぎると不味いかもしれない!)


「戦技――――迅雷連剣!!」


「戦技――――焔蜂爆剣!!」


『クエエエ!!!』


自らを雷と化し、超高スピードで敵を切り裂く迅雷連剣でコカトリスの首を切断しようとするが、空中に飛ばれ避けられる。しかしそれを予測していたリリィは先に空中に浮かび上がっており、コカトリスを叩き落とすかのように火剣をコカトリスの背中に叩きこむ。


「《土球連弾(ストーンバレット)》!!」


『クエエエッ!?』


豪速で地上に落ちてくるコカトリスの胴体に、土属性の初級魔法であるストーンバレットを發動する。すると4個の岩の弾丸がコカトリスの胴体を貫くように飛び出した。


「《アイスバインド》!!」


瞬間、落下するコカトリスの全身を氷が縛り上げ空中で固定する。そして、その上空には我等がリリィがいるのだ。


「戦技―――火突!!」


『クエエエエエエッ!!!!???』


空中を蹴って、時速200キロ迫ろう速度でコカトリスに突っ込むリリィ。


放たれる炎剣の突きは、氷の縄によって固定されたコカトリスの頭を貫く。それを喰らったコカトリスは激しい叫び声を上げ、突きによって破壊された氷と一緒に地面に落ちる。


「討伐完了っと、しかしなんでコカトリスがここに?」


「しかも、額に紫色の宝石がある。これは確かモンスターテイマーの従属契約の証だよ。」


「ってことは、これは人為的に行われたってことか。こりゃ、ちょっと調べる必要がありそうだな。」


コカトリスの額には、妖しく光る紫色の宝石がついていた。それはリリィ曰くモンスターを操るモンスターテイマーが従属契約した証だと言う。つまりこれは誰かがこの村にコカトリスを仕向けたってことか。


「とりあえず、村の周囲にコカトリスみたいな契約されているモンスターが居ないか探そう。村民が死んでからじゃ遅いからな。」


「分かった、じゃあ私は西から回るね。」


「俺は東からだな。」


現在地は村の北門をすぐ出た側、こんな村の近くでコカトリスレベルのモンスターが何体もいたら普通に村壊滅するから警戒しなければ。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「クックック、高ランクのモンスターもこれで50体を超えた。」


「そりゃ良かった、で?俺の出番はいつ来るんだ?」


「もうそろそろさ、最近タイラントを動き回ってるガキ共がコカトリスを殺した。これで犯人が人間だって分かったはずだからな。」


タイラントのとある場所、とても大きな洞穴でそんな会話を交わす二人の男。一人は醜く太った商人のような男で、一人は筋骨隆々の2メートル近い体躯と一本の黄金の剣を持っている。


「一つ言っておくが、私自身の戦闘力は皆無だ。契約したモンスターも補助に出せるのは出せて20、お前に懸かっているからな?」


「任せておけよ、誰に言ってると思ってる?」


「フッ、《閃剣》のフォビア。王国有数の大傭兵、期待しているぞ。」


タイラントを蝕む闇は、ひっそりと動き始めるのだった。

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