第3話 焦土の使者

リアンの旅立ちの翌朝、イシュカルドの空は特に冷たく、灰色の雲が低く垂れ込めていた。街の外れにある小さな市場では、霜に覆われた野菜や乾燥肉が売られていたが、売り手も買い手も皆、厳しい寒さに身をすくめていた。リアンは母親との別れを終え、市場を通り抜けながら、旅の準備を確認していた。彼の心は重く、しかし決意に満ちていた。


突然、街の端から馬のずんずんという重い足音が聞こえてきた。市場の人々が恐怖と好奇心に引きつられるようにその方向を見つめた。リアンの目も、来訪者に釘付けになった。


赤い鎧をまとい、炎の紋章を掲げる使者が、威厳のある黒馬に乗って街の中心へと進んできた。彼の目は、燃える炎のように激しく、リアンと市民たちを睨みつけていた。使者はイシュカルドの広場に馬を止め、声を高らかに響かせた。


「私はファイアハートの使者、ゴラム。我が国は今、イシュカルドに対し警告を発する。我々の領土に対する侵攻は、永遠の灼熱による報復を招くだろう。」


市場の空気は凍り付き、リアンの心臓は重く沈んだ。彼は使者の言葉に隠された緊張と怒りを感じ取った。このままでは、氷と炎の間の長年にわたる争いが再び激化することは避けられない。


リアンは静かに使者の方へと歩み寄り、彼の燃えるような視線に直接目を向けた。市場の人々は息をのみ、次の瞬間を待ち受けた。


「使者よ、私はリアン。イシュカルドとファイアハート、両国の血を引く者だ。君の言葉は理解した。しかし、真の敵は互いではない。私は凍火の結晶を求める旅に出る。それが、この長い争いに終止符を打つ鍵となるだろう。」


ゴラムの表情に一瞬の驚きが浮かんだが、すぐに厳しい顔つきに戻った。彼はリアンをじっと見つめ、何かを計るように頷いた。


「リアン、君の旅が両国の運命を変えることを願う。しかし覚えておくがいい、ファイアハートは決して弱くはない。我々は自らの国を守るためなら、どんな犠牲も厭わない。」


使者はその言葉を残し、馬を転じてイシュカルドの地を後にした。リアンは彼の背中を見送りながら、自分の運命がこれからどんな試練をもたらすのかを思いめぐらせた。彼の旅は、ただの冒険ではなく、全ての人々の未来を左右する使命だった。

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