第3話

 ソコをギュッて握るたびに、じゅ、じゅ、と滲み出る。お尻がピクピク震えて、この前みたいに走っていけない。一歩一歩、小さな歩幅で進むしかないのだ。膝を高く上げながら、それでも膀胱を刺激しないように。

「ひぅっ、」

じゅううう…

足を伝う一本の液体。お尻を思いっきり突き上げる。いやだ、いやだ。社会人にもなってお漏らしは絶対嫌だ。お腹に膝がつくくらいにじたばたして、ぎゅううう、とソコを握った。

(とまった…)

波が来ないうちに階段を何とか登る。目的の3階についたときにはもう、立っているのか立っていないのか分からないくらいに中腰で。いつ溢れてもおかしくないくらいに性器は湿っていた。

(トイレ、ついたぁ、はやくはやくはやくぅっ!!)

ぐしょぬれの手でありったけを込めて、青い人型マークのところまで走った。

「っあ、ッはぁっ…」

入り口、地面を踏む音が変わる。便器は鼻の先。

(やっと、おしっこできる…ぁ…)

ばちゃばちゃばちゃ…

脳が便器を認識した瞬間、フッとお腹が軽くなる。

「…え…あっ!!や、まだっ!」

何が起こったのか、自分でもよく分からなかった。ズボンが湿って、手があったかくて。

「あ、や、まって、おしっこ、やだ、」

慌ててちんこを取り出して、便器に向ける。しかるべき液体が、しかるべき場所へと収束する音。もうほとんど残っていなかったのか、ほんの数秒で止まってしまった。

(出ちゃった…あとちょっとだったのに…)

スーッとした解放感とは裏腹に、絶望感が胸を襲う。

「あ、そうじ、しないと…」

地面をみたら、あちこちに飛び散った失敗の跡。ツンと鼻が痛い。

びちゃびちゃに汚れた手を軽く流し、モップとホースを取り出し、水を撒いて擦る。頭が回らなくて、今の光景が夢のように思えてくる。

地面を綺麗にするのに時間はさほどかからない。道具を閉まった途端、見えてくる現実。おしっこまみれのズボン、靴下。アップリケのついたエプロンまでも濡れてしまっている。こんな格好で戻れる訳がない。

「っ‥っぐ…ヒグッ…」

トイレットペーパーで濡れた跡を拭う姿はどれだけ惨めなことだろう。どうしようもなく恥ずかしくて、情けなくて、涙が溢れる。

 漏らした、社会人にもなって。皆は我慢しているのに。俺だけ、出来なかった。

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