第72話 バレー部のお姉さん(第三部最終話)
フーゴには、
“ガイスト領においてコカフィーナに関する物は見つからず”
そんなメモを残しダ・デーロの街に帰って来たわたし達、
ニコレシアの首には銀色の首輪が嵌っている、
そんな彼女と二人でレオポルド商会の地下に降りて行く、今まではレオポルド様にお任せだった術だが、今回はわたしが直接やってみる事に、魔法陣の意味なんて絶対理解出来ないでしょうけど、魔力を流すだけなら問題無いはずよね。
「いいわ、ニコレシア、服を全部脱いで」
20代の熟れた身体、ボリュームのあるバストに、キュッとした腰つき、お尻周りはプリプリして今が旬の娘よ、
そんな食べごろ果物みたいな彼女が全裸になる、
「ああ、指輪も外してね」
服は躊躇なく脱いだのに、指輪はなかなか外れない、
「どうしたの、指輪が抜けなくなっちゃった?」
「いえ、これは準王族の指輪なので」
実質性奴隷と言っても王子の花嫁候補だった彼女にはしかるべき身分が必要だったのだろう、
「嫌ならやめておく?」
「いえ、色々考える事があっただけです」
そう言うと無造作に指輪を投げて寄こした彼女、
「好きに使ってください」
「質屋にでも持って行こうかしらね」
身分の裏付けとなる高貴な指輪らしいが、ずいぶん軽く感じる。
スッキリした表情で魔法陣の真ん中に立ったニコレシア、
“王子の夜の相手を務めるだけあって美人さんよね、アゴのラインがシュッとして貴族的だから、少し広くしてみようかしら、釣り目は頂けないわね、10代の頃は知的な外見だったけど、今はきつい顔。
鼻は庶民的な感じにしてみましょうね、背はわたしより少し低いくらいだけど、思い切って大きく、
あーっと、胸は控えめにして、高身長のアスリートタイプが良いわね、お尻はもう少し……
頭の中には県立高校のバレー部員をイメージしたの、魔法陣に魔力を流し込むと、キラキラ光るのにずっと見ていられる不思議な光りが無くなると、そこにはわたしより頭一つ半は大きい、スラリとした田舎少女、
良く見ると顔の造りは悪くないのだが、野暮ったさが拭えない地方の子。
「ミヤビ様、大丈夫ですか?」
「ああ、ニコレシア、ちょっと、そこの薬を取って」
「はい、どーぞ、ご主人様」
わたしは涙目になりながらもゴックンと苦い物を飲み干す。
「すいませんね、私の身体強化の為に魔力を使って頂いて」
「あっ、えっとー、ニコレシアはどうしてここに来たのか覚えている?」
「身体強化でしょ、ミヤビ様の奴隷になったのだから、これから迷宮で活躍しますよ、わたしは」
スラリと細い腕を曲げて力コブの仕草をする、
それにしても術を受けて美容整形しても、自分は昔からこの姿だった、と思い込むのは貴族様でも同じなんだ。
「その話なんだけどね、別に無理に迷宮に入らなくても、治癒魔法で治療の仕事とかでもいいのよ、荒事はきついわよ」
「ミヤビ様、もう、何度も言ったでしょ、あのまま貴族の森で畑を耕すだけの生活なんてしたくないし、金持ちの妾はもっと嫌、たとえ奴隷でも冒険者として生きて行くのは魅力的じゃない、私はもう死んだの、新しく生まれ変わったのよ」
「それなら良いけどね、復讐はもう終わりなの?」
さっきまで部活帰りの中学生みたいな口ぶりだった彼女だが、急に大人の口調になる、
「疲れるのよ、ずっと人を恨み続けるのは」
虚空を見るお姉さんはボソリとつぶやく、
「もう、どうでも良いか」
帰り際には地下室の低い天井に頭をぶつけたニコレシア、まだ伸びた身長が理解出来ていない様ね。
▽▽
一見普通の鹿に見える魔物、良く見ると脚が8本もついている、そんな色物みたいな魔物の群れがわたし達の目の前に広がっている、
「ファイヤー!」
ボンッ、ボンッ、ボンッと小気味よい音がして握り拳くらいの炎の塊が飛んで行く、
わたしの商会の新戦力魔法使いのニコレシア改めニンファ、外見を変えたと言っても本名で堂々と活動は出来ないわよ、上手く言えないけどニコレシアを昔から知っている人が見たら面影を感じてしまうのよ、
一旦エステファニア様の娼館に行って“元娼婦”を身請けした、と言う架空の過去をでっち上げた経緯があるわ。
「行くわよ!」
短槍を構えた戦闘奴隷達が8本足の鹿魔物に向かって突撃して大乱戦、
「ニンファ、凄いじゃない!」
「まだです、奥にいます」
そう言うと彼女が飛ばした炎は放物線を描き後ろから来た鹿魔物を倒す、
わたしの炎魔法は太い一本の炎の帯が伸びて行くだけなのにニンファのそれはボールを投げる様に、それも絶妙なコントロールで、
“器用ねぇ~”
なんて感心しているわたし、
「治癒魔法をお願いします!」
パトリッツアが狐耳の少女を連れて来る、良く見ると脇腹が嫌な色に染まっている、
わたしの治癒魔法を見届けるとパトリッツアは俊足で戦闘地帯に戻って行った、
彼女も最初の頃はグズだったのに、成長したわ、あと数年でわたしの元を巣立っていくのね。
▽▽
「……どうしよう、わたし今日は二回も怪我しちゃった」
「フェンケ、仕方ないよ、もう34階層だよ」
「だけど、怪我しているのはいつもわたしだよ、ミヤビ様はそのうち怒ってわたしを放り出すよ」
「ミヤビ様はそんなことしないって」
「ねえ、パティ最近動きが良くなったよね、戦いの時も集中出来ているし、どうすればそうなるの?」
「あのね、みんなには内緒だけど集中力を高めるお薬があるの……」
第三部 完
最後までお読みいただきありがとうございました。
底辺職の風俗嬢は異世界に行って本気を出す アイディンボー @miguel92
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます