第71話 怒りの拳はどこに?
気球を使って貴族の森に降り立ったわたし達、結構な規模の畑があった、これで踏み込む為の証拠は出来たわね、
だが、ニコレシアはそんなわたしを鼻で笑う、
「ニコレシア様、今朝収穫したばかりの根を持って来ました」
パスパと言う農夫が作物を持ってくるが、桶の中には緑色した根菜、
“これってワサビじゃない!”
「ミヤビには説明が必要だな、これはワッサーヴィと言う作物で、すりおろすと良い薬味になるぞ」
「知っています、鼻に抜ける香りは癖になりますね」
「なんだ、知っていたのか、それでは強硬偵察をしても見まがう事は無かったな、なんとも残念な事だ」
いったいどういう事なの? わざと自分が麻薬密売の中心にいる様な言動、捕まる事を待っていた様な、だがこれでニコレシアを捕まえても、ワサビを栽培していただけでは王宮は赤っ恥。
「ミヤビとやら、そなたフーゴの下で働いておるが、彼の正体は知っているか?」
わたしは黙って首を左右に振る、
「あの男は国王の遊び相手でな、あー、遊びと言うのは男同士のアレだ」
「それくらい分かります」
「まぁ、よい、所詮フーゴは日陰の存在、証拠を集めて確定したら王子が出て来るはずだった」
「麻薬取り締まりの実績を積ませる為にですか?」
「ミヤビ、そなた話が早くて助かる、しっかりお膳立てして悪の権化を逮捕しに来たらワッサーヴィ畑で、王子の面目丸潰れ、そんな絵を描いておったのだが、
やれやれ世の中思った通りに事は運ばない物よ」
王子のメンツを潰す為にわざとワッサーヴィ畑を作っていた、自分の尊厳を踏みにじった相手に意趣返し、
だが、ここ数年でコカフィーナが急速に広まった事の答えにはなっていない、
ニコレシアは復讐劇でわたしを煙に巻くつもりなの? 相手のペースに乗せられてはダメよ。
「ニコレシア様、立派なワッサーヴィの畑でございます、さらに寡婦達にも職を与える貴族の鏡の様な行いでございますが、
ここ数年の間にコカフィーナが流行したのはガイスト領とは無関係なのでしょうか?」
「もちろんだ、今王都で流行っているコカフィーナは全てボイボニア国から入って来た物だ、彼の国の王子謹製のお品であるぞ」
ボイボニアは南の方の国だけど、そんなに大きな国ではなかったわ、
「わたしはこう見えても、王子の“花嫁候補”にまでなった女だ、ボイボニアの王子にも可愛がって貰った物だ」
急に遠い目をしたニコレシアは桶の中から取れたてワッサーヴィを取り出した。
「王子はお猿さんでな、毎晩気絶するまで攻められたものだ、
ある晩王子の部屋に呼ばれると、王子と留学中のボイボニアの王子が待っていのだ、あの晩の嵐は凄かったものだ」
二人の王子に輪姦されたわけだ、
ニコレシアはワッサーヴィを弄ぶと、朝露の滴がポタリと落ちる。
「ボイボニアの王子カッセルは、こんな性欲処理の道具が気に入ったようで、昵懇の中になった、
まぁ、彼の留学が終わった時点で関係も終わったがな」
「そんな旧知の仲に麻薬の密輸を勧めたのですか?」
「そんな事はせんぞ、ミヤビよ、コカフィーナを売るにはどうしたら良いと思うか?
まさか薬局に卸す訳にもいかんだろう」
「販路は地下ですね」
「その通り、裏社会の者をカッセル王子に紹介しただけだ」
ニコレシアは抜け目の無い相手だと思ったがその通りだ、彼女を罪に問うのは難しいだろう、何より証拠がない、
きっと最初の販路はポニエンテ街道とメディオ街道沿いにしろ、と指示をしたのだろう。
「ああ、そう言えば物を売るにはメディオ街道かポニエンテ街道が良いかもしれんなぁ、と独り言を言った気がするが、誰かが聞いていたかな?」
“やっぱり”
「ニコレシア様、今後はいかがなさいますか?
栽培農業で地域振興でしょうか?」
「ミヤビよ、そなたも言うな、
わたしをここまで動かしていたのは怒りと復讐だ、だが怒りを維持するのは意外に大変でな、
そこで、そなたに相談があるのだが……」
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