第69話 証拠固め
「いかがですかな、当商会の魔剣の威力は」
「さすがはヘリオス商会だけありますね、これなら魔法を使えない者でも後れをとる事はないでしょう」
ガイセの街から少し離れた荒れ地で魔剣を振っているわたし、
魔剣と言ってもランクがあり、剣にまとった魔力で切れ味をサポートする程度の物から、一振りしただけで10M位の炎が出て来る物まで、
もちろん炎が出る様な魔剣はお高いけど、人命を考えたら金貨をケチる場合じゃないわよね。
もっとも戦闘奴隷達は新型のアーマーに夢中、統計学に基づいたもっとも適切に軽量化された鎧だそうよ、
「ミヤビ様、これ買いましょう、絶対に活躍しますよ!」
普段おねだりなんてしないカタリーナがフンフン鼻息を鳴らしながら新型の鎧を勧めてくる、
「買うなら全員分よ、それから鎧の色も揃えたらどうかしら?」
「はい、分かりました!」
わたしから言質を取れた少女達は流行の服を選ぶかの様に鎧のデザインに夢中になっているけど、統計学に基づいた、鎧ってなんなのかしらね。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべた、わたしの前にヘリオス商会の営業がやって来る、
「失礼致します、ミヤビ様、わたくし当商会で魔剣営業を担当しております、ヒューゴと申します」
わたしの前に麻薬捜査担当のフーゴさんがやって来て雑な偽名を使う、
「まぁ、ヒューゴさんですか、魔剣の事でお聞きしたい事がありますけどよろしいでしょうか?」
わたし達は少し離れた岡の上に移動すると、向こうから話を切り出して来た、
「ミヤビ様の協力のおかげで製造場所が特定出来ました」
「わたし達やっと海の見える街に帰れるのですね」
「実はまだ問題がありまして、お知恵を借りたいのですが」
「わたしの様な小娘は教えを請う事はあっても、教える側にはなれませんわ」
わたしの否定の言葉を無視してフーゴさんは話を続ける、
「コカフィーナの畑はガイスト領主の貴族の森にあります」
「確定ですか?」
「はい」
「ならばもう終わったも同然でしょう、はやく踏み込んで縛りあげてください」
「それが出来ないから困っているのですよ」
「話が読めませんが?」
「貴族の森の中でコカフィーナを栽培しているのを誰も見ていません、単なる情報では貴族に対して捜査はできないのでね、
そこでミヤビ殿に協力をしてほしいのですが」
ベルナディッタさんを領主の館に送り込めば任務が終わりだと思っていたのに、フーゴさんはわたし達を引き止めていたのは貴族の森に強行偵察と言う荒事を任せたかったからなのね、
しょせん冒険者は捨て駒な訳だ。
「わたしの責任で貴族の森の中に何があるか見て来ましょう、ですが教えて頂きたい事があります」
「何に関してかな?」
「今回の件ニコレシアさんは関わっておられるのでしょうか?」
フーゴさんの表情が強張った、
「その話はどの程度知っておられるのかな?」
「街の噂程度には」
ガイセ郊外の保養地はわたし達の息抜きの場だったのだが、湖の反対側にある瀟洒な邸宅にトリスタン子爵の娘がいると言う事は早い段階で耳に入って来た、
そして王宮参内の話も当然の様に聞こえて来る、単純にお薬をばら撒いている元凶を倒せば良いのか?
それは人としてどうなんだ、たおやかな花を踏みにじられ復讐の権化となった彼女、
王子は王太子となりやがて国王となるのに、ニコレシアは稀代の悪女として名を残す。
だからと言って薬物密売を正当化は出来ないし。
「心苦しいですが、ニコレシア嬢は今回の件の首謀者です」
「わたしが貴族の森の中を確認するまでは容疑者ですよね」
「それはもちろんそうですが」
「貴族の森の確認ですが、時間がかかります、ですが必ず任務は遂行いたします、つきましては条件を付けて頂きたい」
「わたしに出来る範囲で」
「ニコレシアさんの名誉はわたしに任せてもらえませんか」
ここは中世的価値観の異世界、名誉を守ると言う言葉は、
“見苦しくない死にかた”と言う意味よ。
●●フーゴ●●
わたしはフーゴ、大公家の庶子に産まれた貴族の末席、まだ年若の頃から王の遊び相手を務めていた、
この場合の遊びとはいわゆる男同士のアレだ、ある意味王と一番親密な間柄とも言える、この歳になるとお呼ばれされる事は無くなったが、こうした汚れ仕事を任される事がある。
今回の情報収集は充分だ、後はミヤビを使って確定証拠を集めて来れば終わり、王子が捜査責任者として乗り込んで来るだけなのに、
ミヤビはここに来て時間が欲しいと言いだした、
使い易い娘だと思っていたが生意気だ、こちらは早く結果を出したいと言うのに。
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