第66話 献上品はいかが?

 最悪の昆虫を倒したわたし達、転移陣を使って地上に戻ると、ギルドの係員ではなく、ギルド長自らがお出迎えしてくれていた、

「わずか二日で10階層まで到達されるとはさすがでございます、ダ・デーロで名をはせた冒険者だけの事はありますね」

「ギルド長自らのお出迎え痛み入ります、彼女達を褒めてください」

 わたしは戦闘奴隷達を指し示すと、彼女達もドヤ顔になる。


「ダ・デーロの冒険者の皆さま、我が領主が一度会ってみたいと仰られております、いかがでしょうか?」

 いかがでしょう、なんて訊いているけど絶対に断れないわよね、

「領主様にお目通りがかなうのならこんなに栄誉な事はございませんわ……」

 結局五日後に領主と会う事になったわたし達。



 ▽▽



 その後数日はちょっと足を伸ばしてガイセ郊外の保養地みたいな場所で過ごしたわたし達、

 湖の見えるコテージでのんびりしたり、ボートに乗ったり、あとは本を読んだり、識字率の高い領地だけあって、本の種類も多いので、退屈しないわよ。


 迷宮はどうしたかって? 11階層からはハエの魔物が出るそうよ、そんな物と戦える訳ないじゃない。

 フーゴさんの話では領主と会えば良いと言う話だから目的は果たした様なものね。



 ▽▽



 貴族にも種類があって、戦ってこそ真の貴族と言う脳筋戦闘系タイプがいるかと思えば、領地経営は組織力とばかりに官僚機構のトップと言った感じのタイプ、

 仰々しい儀式で歴史と伝統をひけらかすタイプ、儀式など時間の無駄と言い切り、ひたすら実務に徹するタイプ。


 トリスタン子爵は官僚タイプで儀式など気にしないタイプらしい、気が楽かと言えばそうでもない、官僚は自らの損得に敏感な面がある。



 領主との面会はわたしとベルナディッタさんの二人が行く事になったのだけど、今日のベルナディッタさんはすっぽりマントを被っている、


 領主様と謁見と聞いたので謁見の間みたいなところに通されるかと思いきや実務派の彼との面会場は執務室だった、

 豪華なカーペットの引かれた部屋、一番奥は執務机、手前にはフカフカの応接セット、大企業の社長室を想像してみてね、行った事無いけど。


 秘書とおぼしき人に促され応接セットに通されたわたし、

「コーヒーでよろしいかな?」

「はい、お願い致します」

「自己紹介をしてなかったな、わたしはガイスト領の領主、トリスタン・ヴォン・ガイストと申す者、君主から子爵の位を賜っておりますよ、さぁ」

 貴族らしからぬ砕けた物言いで、わたしに自己紹介を促す領主、

「わたくしミヤビと申します、ダ・デーロの街で冒険者をしておりますが、縁あって御領に参り迷宮に日参させてもらっており、

 本日はこの様な場を設けて頂き光栄でございます」

「うむ、たった二回の探索で10階層まで辿り着いたと聞いておる、まことダ・デーロの冒険者は素晴らしいものよ」



 官僚領主は40後半くらいかしら、見ただけで抜け目の無い人だと分かるわよ、そんな彼には贈り物ね、

「トリスタン子爵様とお呼びしてよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

 ニッコリと人当たりの良い感じを演じているけど本音は見せないタイプね。

「それではトリスタン子爵様とお近づきになれた証に進物をどうぞ」


 ピッタリなタイミングでマントを取ったベルナディッタさん、

 サラサラの髪をアップにして真っ白なうなじを晒している、それだけでも放送禁止コードにかかりそうなセクシーな彼女だが、

 身にまとっているのはシルクのマーメイドワンピース、オフショルダーで真っ白な肩を晒し、良く見ると薄絹一枚で白磁の身体が透けて見える、

 片足を前に出す、いわゆるモデル立ちすると、スリットからツルツルの脚がのぞく、


 彼女がニッコリと微笑むと、今まで本音を見せなかった官僚子爵様の頬が緩む、

「これは、なかなかの……」

「自慢の戦闘奴隷ですの、トリスタン子爵様の護衛にお使いいただければ幸いですわ」

「うむ、いやミヤビ殿よ、よくぞここまで、それがしも答えねばならぬな」


 トリスタン子爵からは最上級の反物を抱えきれない程頂いたわ、こう言った時には目上の者がより高価な物を返すのが礼儀よ、貴族は見栄の世界ね。


 その後トリスタン子爵は献上品のベルナディッタが気になり上の空、たいした話もなく帰る事になった、

“さぁ、やっとダ・デーロね”

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