第64話 綺麗なお姉さん

「皆さま、お疲れ様です、馬車が用意してあります、さぁどうぞ」

 目を真っ赤にしたわたし達を出迎えてくれたのはベルナディタさんと言うお姉さん、

 歳の頃は20代前半か、もしかしたらもっと上かも、わたしの戦闘奴隷達も術のおかげで美人揃いだが、そんな彼女達もハッとする様な整ったお顔、

 サラサラした長い髪と、スレンダーながら出る所はしっかり出ているボディー、

 そして何より全身から溢れ出る“お仕えします”感が凄いのよ、ソープ嬢なら半年先まで予約が埋まりそうな子よ。


 彼女はフーゴさんの紹介なの、なんでも雑用に使ってください、なんて言っていたけど、こんな美人秘書を自由にできるなんてフーゴさんはかなりの立場のお方と見た。


 ▽


 ガイセ迷宮から馬車で30分ほどの場所に宿を取ったわたし達、最上階のワンフロアーを貸し切っているわよ。

「ミヤビ様、お身体を失礼致します」

 いつの間にかお湯が準備してあった、きっと生活魔法ね、

 わたしの身体は発育の悪い15歳、胸もお尻も芽吹き前、そんな身体を綺麗に拭ってくれるベルナディッタさん。

 お仕えされて気分が良いわねぇ、骨抜きにされそうよ。


「さぁ、ミヤビ様、腕を伸ばしてください」

 ベルナディッタさんが薄ムラサキ色のセーラー服を着せてくれる、迷宮ではボロボロになったわたしだけど、ノリの効いた服を着るだけで甦ったみたいよ、

 ふんわり甘い香りのベルナディッタさんがスカーフを結んでくれると、素敵な香り、クンカクンカしたくなっちゃいそう。


「ミヤビ様、ガイセの街ですけど、武器の携行は禁止です、冒険者なら手持ち資産と言う事で、多少のお目こぼしがありますけど、腰に吊るして良いのは肘の長さまでです」

「繁華街とかの治安は?」

「今の時間ならそれ程問題無いでしょう、ただ街の周辺部はスラムになっておりますから、広場を中心に楽しんでください」

「他に何かある、それともありふれた地方都市って感じ?」


「そうですねぇー、これは領内全般に言える事なのですが、ほとんどの平民は字が読めます」

「凄いじゃない、学校教育でもしているの?」

「はい、教育に熱心な土地柄も相まって識字率は高いですので書店も多いですよ」

 聞いた限りでは良い領主の様だ、そんな領主の膝元で麻薬密売とはおかしな話ね。

「分かったわ」



 ずいぶん長い時間迷宮に潜っていた様だけど、まだ午後の早い時間帯、戦闘奴隷の娘達が黙って部屋にいられる時間じゃないので外出を許可したわ、

 服装は制服着用の事、今でこそ美人さんや可愛らしい彼女達だけど、元は貧農の娘だった過去がある、

 ファッションセンスは壊滅的なの、更に娼婦の子達と一つ屋根の下で暮らしているから、オシャレの方向が傾きがち、

 なけなしのお小遣いで背中がパックリ開いた服を買って来てドヤ顔していた子もいたわよね。


 前の世界では制服の定番だったセーラーを制服にしたの、明るい紫色の制服なんてコスプレみたいだけど、意外に街中で目立っているわよ、

 胸のスカーフだけは自分で選んで良い、とオシャレの余地を残したから、娘達は変わった色のシルクがあれば飛び付くし、

 コッソリ胸当てを外したり、スカートを裾上げたりしている子もいるわよ、こちらの世界でもおんなじね。



 明るい紫色のセーラー服の集団が歩いて来れば注目を浴びるわよね、しかも美人揃い、

 街の所々にある円形広場サーカス、道が集まる場所だから自然と人も集まり店が繁盛して、屋台なんかもいっぱい、

「それじゃ、みんな鐘が鳴ったらこの場所に集合よ!」

『はーい!』

 と言う高い声が聞こえて散って行く薄ムラサキ。


 まだ幼い子は屋台の食べ物に興味津々、ちょっとお姉さんになるとオシャレなカフェに入って行く、背伸びをしたがる年頃ね。

 わたしはヒセラと一緒にオープンカフェに陣取る、ちなみにヒセラは胸のスカーフはしないで、シンプルなボウタイだけ、

 そんなボウタイを押し上げるのが立派な双丘、貧乳程胸元にボリュームのある飾りを好むのも共通ね。


 まだ幼い戦闘奴隷が大きなキャンディーを食べ歩き、ひざ下だったスカートがいつの間にかひざ上になっている

「モニカったらさっき串焼食べたばかりなのに、またあんな甘い物を食べて、晩御飯大丈夫かしら?」

「ミヤビ様、心配な気持ちは分かりますが彼女達を信じてあげてください」

「そりゃ、信じて無い訳じゃないけどね……」

 ヒセラは20代、小娘ばかりの戦闘奴隷の中ではわたしの実年齢に近くて話し易い子なの。


[それはどうかなぁ~ ]

 広場の反対のカフェにいるマルチナの声が聞こえて来た、わたしは魔法の力で身体能力を強化出来るの、聴力もよ、

 だけど単純に遠くの音まで聞こえるだけじゃダメなの、全然関係ない人の話声や、皿が割れた音、馬の蹄の音まで全てが耳に入ってきたら脳が処理出来ないわよね、

 耳に慣れた音だけを拾い上げて聴く能力が魔法の力よ。


[ほら、君達可愛いしさ、今ならお安いよ]

[えー、いくら?]

[本当は20だけど、カワイイからサービスしちゃう~]

 20って言うのは銅貨20枚の意味ね、前の基準で考えると2000円、子供の小遣いで何とかなる金額、それをサービスしちゃうと言う気前の良さ、


[ねぇ、変なお薬じゃないでしょうね?]

[違う違う、そんなやばい物使う訳ないじゃん、捕まっちゃうよ]

 マルチナと一緒にいるのはナオミ、そして男2人の四人のやり取りを延々と聴いていたけど、男達はなんとかして二人を外に出したいみたいね、

 残念ながらわたしの戦闘奴隷達はそんなに尻が軽くないの。


[お前ら、さっきからなんだよ、下手に出ていりゃいい気になりやがって!]

[あら、そうかしら、ゴメンなさいねぇ~]

 ナオミの人を小馬鹿にした物言い、先に手を出させるつもりね、このまま男二人を倒しても良いけど面倒はゴメンよね、

[[[衛兵隊が来た!]]]

 これもわたしの魔法能力の思念派、広場の人達全員の心に響いたわたしの声で、ビクリッと肩をすくめる、

 広場の反対側のカフェから二人の男がそそくさと逃げて行った。


 それにしても薬害は思っていた以上に深刻ね。

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