第63話 やっぱり魔物は怖い
ガイスト領にあるガイセ迷宮、そう言えばダ・デーロ以外の迷宮に行くのは初めてね、
受付でお金を払って不思議なバングルを嵌めて、簡単な説明を受けたけど5階層毎にボスがいて、転移陣があるのも同じで、ホームに帰ったつもりで気楽に暴れましょう。
「ミヤビ様、最初の獲物です」
「あんなノロい獲物はわたしの弓で」
「ちょっとモレーナ、わたしが倒すのよ」
戦闘奴隷達は相変わらずだけど、わたしは恐怖で足がすくんで動けない、でっかいイモムシよ、大型犬くらいのイモムシがノソノソと動いて来たら悲鳴も出ないって、
小学生の頃裏庭の木を這っていたイモムシを見たのがトラウマになっている。
戦闘奴隷達は特に気にする様子も無く虫を倒し、魔石を取り出して大喜びしている。
「みんな次の魔物が来たらわたしに教えなさい」
「ハイ、ミヤビ様」
言い終わると同時に、それは現れた。
「さっそくです」
「ファイヤー!」
わたしの手の平からオレンジ色の炎の帯が現れ一瞬でイモムシを消し炭に、
「あっ! この先に2体います」
「ファイヤー!」
「ファイヤー!」
▽
「ファイヤー!」
「ファイヤー!」
「ファイヤー!」
「ミヤビ様、大丈夫ですか?」
「お薬!」
「はい、こちらに!」
マルチナが間髪入れず、握るにちょうど良い太さの瓶を差し出す、
いつもなら苦くて飲むのに躊躇するドロリとした液体をゴックンするわたし、
出て来るイモムシは全て焼き払ったわよ、戦闘奴隷達は出番がなくて不満顔だけど、仕方ないじゃない少しでも早く消し去りたいの、
気がつけば5階層まで降りていて、ボス部屋の前。
“スー、ハッー”と深呼吸をしているわたし、今まで他の魔物を見ていないからボス部屋もイモムシでしょうね、安心して一瞬で消し炭にしてあげるから。
重い石の扉がズズズッと閉ると、いつの間にか目の前に牛みたいなサイズの緑のイモムシ、
「燃えなさい、極大ファイヤー!」
サイズが大きいから炎もいつもより倍増ししてあげたわ、ボス部屋の温度が数度上がった、
溶鉱炉みたいな炎の中からは全く無傷のイモムシが現れ駆け足くらいの速さでこちらに向かって来る、
“シュカシュカシュカ”気味の悪い音を立てて突進してくる緑色の幼虫もどき、
「逃げるっす!」
フラフラになったわたしをナーディアが担ぐ、
「エリーカ、パトリッツア、モレーナ、散開して弓で攻撃、
魔法が効かない相手よ、サイドから短槍で!」
アリアネが戦闘の指揮を執っているのが分かる。
「ミヤビ様、お薬です」
口に咥えるのにはほんの少し太いサイズの円柱の瓶を無理やりわたしの口に押し込むマルチナ、
わたしは涙目になってゴックン飲み干す。
「なんなのよ、アレは!」
「物理攻撃しか受け付けない魔物でしょうか? 大丈夫ですアリアネがしっかり削っています」
離れた場所から見ていると、イモムシの攻撃は駆け足くらいの速度で直線的に進み、壁にぶつかるとノソノソと方向変換、
あんなのに轢かれたらとんでもないけど、戦闘奴隷達なら余裕でかわせる、
ボスにしてはしょぼいわねぇ。
アリアネ達もコツを覚えて来たのか攻撃が的確だ、これなら勝てる、そう思った時がフラッグよ、注意してね。
愚直な突進を繰り返していただけのイモムシの頭からオレンジ色の角が二本生えた、
ニュッとした感じのそれが伸びると目元が痒くなってきた、
「ちょっと、何これ」
「痒いでーす」
「かいちゃダメよ!」
前の世界では花粉症に悩まされていたわたしだが、花粉症なんて目じゃない、強烈な目のかゆみと鼻水、
“トウガラシをすり込まれたみたいよ”
「ミヤビ様、治癒魔法をっす」
鼻の頭を真っ赤にしたナーディアの言葉で我に帰る、
「キュア!」
槍を持った戦闘奴隷達に癒しの魔法、真っ赤だった鼻の頭が元の色に、
「これで戦えます!」
あなた達、洟は拭きなさいね。
「キュア!」
「キュア!」
「キュア!」
涙と鼻水で顔を真っ赤にした戦闘奴隷達に癒しの魔法をかけまくる、彼女達が勝ちどきの声をあげるまでそれは続いた。
「ミヤビ様、帰りの切符をお願いします」
そうだった、まだこれが待っていたんだ、大嫌いなイモムシの腹に手を突っ込んで魔核を探す、ゲットした途端に虫の死骸はサラサラと無くなり石の扉が重厚な音を立てて開く。
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