第62話 一緒に夕食した後は…
「これはようこそミヤビ殿、長旅お疲れではありませんかな?
こちらを自宅と思って寛いでくだされ、夕食は山海珍味を取り揃えた食事でございますぞ……」
娼館街のいきさつを考えると無理も無いとはいえ、一地方を治める領主が、奴隷上がりの商人に接する態度ではない、
この領主は本物かな、前職では色々な立場の人と会う機会があったけど、政治家とか、企業の経営者は意外にも腰の低い人が多かった、
嬢に尊大な態度をとるのはもっと下の立場の人達だったわね。
「そうそう、ダールマイアーさん、途中でこんな物を拾いまして、わたくし初めて見ますの、何だかご存知ですか」
銀色の筒を丁寧に差し出すわたしだが、領主の頬に一瞬だがシワが寄った、
「はて、なんでございましょうなぁ、しばらくお借り出来ますか、夕方までには調べておきましょう」
この話題は晩さん会の後で、と遠回しに言ったダールマイアーさん。
▽▽▽▽
贅を尽くした晩さん会、クローシュが開けられると、香草の香りと子鴨の姿焼、豪華な部屋は食をそそる香りと、カトラリーの音、そして上品な笑い声で満たされる。
料理が豪華になればなるほど、神経をすり減らし、味を堪能できないなんて皮肉よね。
「……いやー、娼館街の成功は喜ばしい限りです、どうですかミヤビ殿こちらに居を移して指揮を執られてみては」
「わたくしの様な奴隷上がりに経営など過ぎたものですわ、時折果報を聞かせてもらうだけで充分ですの」
「それと配当金もですね」
2人で品よく笑うけど、目が笑っていないわよ。
「ところでミヤビ嬢、紹介したいお方が居られるのですが食後によろしいでしょうか?」
「まぁ、どなたでしょう、多くの方と友誼を結ぶ事が出来るのが旅のだいご味と言いますね、楽しみですわ」
頭を使って考えよう、わたしに紹介したいけど、晩さん会には呼ばれていない立場の人、
身分を公に出来ない人ね、誰なんだろう?
▽
晩さん会で神経を使ったけど、これからが本番なのかな、いったい誰を紹介してくれるのかしら?
通された部屋に待っていたのは20代、もっと上? 年齢が良く分からないタイプの男性、むくつけとは無縁の中性的な雰囲気、子供の頃はすごい美少年だったはずよ。
そこはかとなく感じる育ちの良さ、姿勢も良いので平民ではない、貴族か教育を受けた金持ちね、地味な服を着ているけど、むりやり平民の服を着た貴族って感じで違和感が拭えないの。
「ミヤビ殿、こちらフーゴと言う者です」
ちょっと名前だけ? お仕事は、家は、そもそもフーゴなんて雑な名前偽名っぽいし、
「始めまして、わたくしダ・デーロから来ましたミヤビと言うしがない冒険者でございます、今宵はフーゴさんと巡りあう事が出来、嬉しい限りでございます」
「ミヤビさんですね、まだ若いのに優れた冒険者だと聞き及んでおります」
わたし達は伯爵の勧めでソファに座る、
「ところでこの銀色の筒はどちらで?」
コトリとわたしの前に筒を置くフーゴさん、
「カリーナの森で若者が落として行きましたの、持ち主には届けられそうもありりませんけどね」
カリーナの森が寂れた場所はみんな知っている、そこで若者を中心とする盗賊に遭ったが返り討にしたと遠回しに言ったわたし。
「これはコカフィーナと言う薬を吸う為の道具です、嘆かわしい事ですが若者を中心に流行っている薬でして、最近は王都に入り込んできております」
「どう言ったお薬ですの?」
「ある植物の根を乾燥させて加工した物です、数年前からジワジワと広がり始め苦慮しているところでございます」
フーゴさんは“薬物に苦慮している”って言ったわよね、これはお薬を取り締まる側の人間と言う意味ね。
「左様でございますか」
急に目つきが変わったフーゴさん、
「ミヤビさん、あなたは信用出来るお方だと伺っております、こちらも巧言令色を排し、虚心坦懐お話しを致しましょう」
わたしは黙って頷くだけ。
「内容が内容ですので、詳細は申せませんが、わたくし王都から派遣された者でございます、
この様な物を取り締まる為にね」
そう言いながらテーブルに置かれた銀色の筒を軽く持ち上げる。
「ならばわたくしも本音を言わせてもらいましょう、
薬物の元を絶つならガイスト領に行くべきではありませんか?」
「そこまでご存知なら話が早いです、ミヤビさんは氷竜を倒す程の冒険者でいらっしゃる、ガイスト領の迷宮に潜り名をはせて頂きたい」
「今回の問題とのつながりが見えませんが」
「名を知られた冒険者ともなれば領主の目にも止まるでしょう、それだけで結構です、お願い出来ますね」
出た、お貴族様お得意の“お願い”平民にとっては命令よ、
わたし達冒険者は貴族の代行で魔物を倒している様なもの、優れた業績を残せば貴族とて無下にできない、
ダ・デーロの街ではわたしは名士の集まりに呼ばれるからね。
だけどフーゴさんの目的は何なのよ?
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