第61話 悪い人は見た目じゃ分からない
買い取りも終わり次の村に向けて歩みを進める馬車隊、わたしはレオポルド商会からご招待の身分、お世話係のオルガさんと取りとめの無い話をしている。
ちょっと気になる事を訊いてみよう、
「ねぇ、オルガさん、コカフィーナってご存知?」
それまでリラックスしていた美人さんの顔がキュッと締まった、
「御禁制の品ですね、最近流行り出しているそうです」
「ダ・デーロではあんまり聞かないわよね」
「わたくし、仕事で王都の方面まで行く事があるのですが、結構問題になっておりますよ」
美人さんが隙のあるため息をつく、
「前回わたしが王都に行った時には衛兵隊の一斉摘発があったそうで、大勢の売人が捕まって、夕方には城門の前に並んでいましたわ」
大事なところを端折ったけど、詳しく言うと摘発された売人は裁判も無しに有罪で打ち首、城門の前に晒し首、
こちらの世界の平民には司法なんて言葉適用されないのよ。
「それで王都は落ちついたのね」
首を左右に振るオルガさん、
「そんな対処療法ではいつまで経っても終わりません、別の売人が現れるだけです」
確かにね、供給元を絶たない薬物汚染は無くならないわ、
「元を絶てば良いのにね」
「ある程度の目星はついているのですけど、なかなか難しいそうですよ」
「どこが元なの?」
オルガさんは地図を広げて説明してくれる、
「王都の薬害は深刻ですが、その周りの領地でも害は広がっております、
王都の隣のエーベリン、ローラント、ボーゲン、テーベ…」
「見事に一直線ね」
「はい、街道沿いに広がっています、そしてスヴェン、スエーニョ、ビスカス、わたし達が通った道ですよね」
王都から伸びるポニエンテ街道とビスカス方面から伸びるメディオ街道、二つの街道の交点はと言うと、
「ガイセね!」
「ガイスト領の領都ガイセが中心です、ですがこの程度の事なら誰でも考え付きますよね」
地方自治と言う言葉、前世ではボンヤリとしたイメージしか無かったけどこちらの世界に来てすっかり認識が変わったわ、
領主と言うのは県知事か政令市の市長くらいの立場かな?前の世界との違いは選挙で選ばれた訳ではない。
領主も最初は部族のまとめ役くらいだったのだけど、次第に傘下の部族を増やして、領地をまとめる役になったの、もちろん剣と弓を使ってよ。
そんな領主は王国に帰順したけど、
“税を納めて有事には兵を出すけど、それ以外は俺達のやり方でやらせて貰うぜ!”
みたいな風潮を想像してみてね。
県知事は偉いけどそれだけよね、領主は自前の軍隊を持っていて、領内の法律を決める事が出来るし、裁判官でもあるの、大きな領地だと自前の領内紙幣を発行していたりするのよ。
「ガイセがコカフィーナの販売拠点だとしても領主が絡んでいたら厄介ですね」
ドラマや映画みたいに黒いサングラスをした分かり易い悪の組織がいるわけではない、表向きはごく普通の商人や市民の振りをして、裏で悪事に手を染める、
それくらい頭の回る連中なら権力者にも取り入っているだろうし、悪い人を捕まえるのは一筋縄ではいかないのよ。
「証拠も無いですし、領主を捌けるのは王様だけですよ」
そうなのだ、この世界はピラミッド、形だけでも平等で身分の差は無い、と言う前の世界とは違うのよ。
「まさか、王様に直訴は出来ないしねぇー」
「ミヤビ様はダールマイアー伯爵と懇意の仲と伺っております、訊ねてみたらいかがでしょうか?順調に行けば明日には着きますよね」
「そうね、ルーブレヒトさんには娼館街の事も聞きたいし、その時に話題に出してみようかしら」
普通の人がダールマイアー伯爵と呼ぶところを、ルーブレヒトと言うファーストネームで呼んだわたしよ。
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