第60話 田舎娘を買い叩く
奴隷商会の買い取り担当ユーリア様の前に並んだ田舎娘達、全員が10代前半か一桁、この年代の子達が一番素直に言う事を聞くので扱いやすいそうだ、
売り買いの対象にされる子供達、常識の違いにはもう慣れたわ。
わたしは目を凝らし適正を見抜くと、耳元で囁く、
「……一番左の背の高い女性とその隣、それと後ろの列にいる大きな鼻の娘がよろしいでしょう、きっと良い娼婦になりますよ、
それから右端のたれ目の小さな女の子はメイドに向いていそうですよ」
「ミヤビ様、他はいかがですか?」
「この中ではそれだけです、それと後ろの肩の曲がった娘はわたしが交渉したいのですがよろしいですか?」
「わかりました」
わたしが“護衛”と言う形で奴隷商会の買い取りに同道したのは適正を見る力を買われてよ、
とは言えわたしの力を借りないと買い取りが出来ない、なんて噂が立つとレオポルド商会もやりにくいでしょうから、わたしは黒子に徹しているけどね。
田舎の村でも戦士向きの子が見つかる事がある、そんな子はわたしが直に交渉してスリーローズ商会に引き入れるわよ、
11歳の娘コッキー、手も顔も日焼けと垢で真っ黒、髪の毛はボサボサ、幼い頃から力仕事をさせられてきたので肩がおかしな形をしている、
農村では普通に見かける子だけど、胸に大きな紅紫の球、戦闘系の赤と事務系の青が混ざった色ね、
事務の適正がありながらも農村に産まれたばかりにろくに字も教えてもらえず泥だらけになって畑を耕す日々、自分の可能性を試せないなんて皮肉よね、
是非ともうちに来てもらいましょう。
「さて、コッキーさん、馬車の中でお話ししましょ」
泥で汚れた娘を馬車に促す、
▽
「ミヤビ様、ハーブティーでよろしいですか?」
レオポルド商会所属の美人侍女オルガさんがわたしに訊いて来る、
「ええ、お願いね」
左手で銀色のトレーを持ち、その上にカップを二客乗せ、右手で洗浄魔法と加温魔法、ポットを乗せたら茶葉を入れ、お湯を入れて蒸らし、
心地良い香りが車内に立ちこめてきたわね、
「こちらの子にはお砂糖を入れましょうね」
気がつけばトレーの上にシュガーポットが乗っていた、ねぇ、それって手品?
角砂糖を一つ落としカップに手をかざすオルガさん、ハーブティーが洗濯機みたいに回り出した、
「こちらになります」
狭い車内で火も使わないでお茶を入れる、
単純な魔力の量ならばわたしの方が遥かに多いけど、オルガさんの生活魔法の方が便利よね。
コッキーは渡されたカップを持ってこちらを見ている、
「ミヤビ様、まずは先に飲んでくださいませ」
おっと、忘れていた、まずはわたしが飲まないと格下の人達は手を付けられないのだね、
わたしに習いカップを口にするコッキー、高級なハーブとお砂糖の味は農民の子をほころばせた、
あら、顔自体はそんなに悪くないわね、磨けば光るわよ。
「コッキーさん、お茶は美味しいかな?」
「ごんなに甘い物はずめてです」
「ダ・デーロにはもっと美味しい物がたくさんあるわよ、
さて、コッキーさん、わたしの商会で剣士になる気はありませんか?」
“ほえ?”と間抜けな表情のコッキー、
「わだす剣も槍も握った事ねぇだ」
「それは教えるから心配しないで」
コッキーの買い取りはあっさり決まった、後はご両親と価格交渉するだけ、
村長の家でコッキーの親と顔をあわせ値段を決める、10歳かそこらの子を値踏みして親と金額交渉、前の世界の常識とはとっくに決別したわ。
「……それではこちらが硬貨になります、お確かめください」
指紋まで泥が入り込んでいる指で銀貨を数えるコッキーの父親、
「ありますだ」
「わかりました、コッキーさんはダ・デーロにて奴隷契約を結ぶ事になります、買い主として決して不自由な思いはさせませんからご安心を」
「それは、ミヤビ様を信じていまず、だども子供を売らないとならねぇ自分が情けねぇ、あんな奴の事信じなげれば……」
ああ、詐欺に遭ったのね、
「どの様な事が起きたのでしょう?聞かせてもらえませんか」
コッキーの父親の話によると開墾した土地を買って畑を広げようとして契約したのだが、買い取った土地を耕すと悪い空気が出て来て、とても畑にはならない、家に借金だけが残った状態だそうだ、
悪い空気ってなんなのかしら、気になるわね。
「……それで畑から出て来る悪い空気は何なのでしょう、もしかして火が点いたりしませんか?」
「火はつかねぇけど、その空気吸うと声が変になるだぁ」
「その畑、案内してもらえませんか?」
コッキーの父親から使いものにならない荒れ地を買い取ったわたし、
“この金があれば娘を買い戻せるかも”
そんな事を言いだした父親だけど、ゴメンね商売の世界では契約が大切なの。
畑から出て来た悪い空気はきっとヘリウムね、詰め込んでダ・デーロで売り込みましょうか、
“アヒルみたいな声になるパーティーグッズはいかがでしょう?”
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