第58話 リアル騎乗位

 旅の日の朝は早い、まだ日が昇る前に起きて馬小屋に行き、愛馬を連れだす、そうそう、こう言った長旅では2頭の馬を交代で乗るのが普通よ、今日はオーラフの番でペーターはお休みよ、

 二頭の馬の口にハミをつけ、馬房から連れ出す、最初にするのが身体を撫でる事、馬の感覚は人間と同じ、人間が暑いと思う時は馬も暑いし、寒いと思う時には馬もやっぱり寒いから体調に気をつけるのが大切よ。


 今日騎乗するオーラフの背中にまずは厚めの布を引いてあげる、鞍を直接乗せたら馬だって痛いわよ、その上に鞍を乗せてベルトで固定するのだけど、締め付け過ぎると馬が苦しいし、緩いと鞍がズレてしまうから加減が難しいわね、

 そうそう馬の鞍、馬術競技や競馬の馬なんかはシンプルな鞍だけど、西部劇なんかに出て来る鞍は出っ張りがあるわよね、

 あれはホーンと言って、本来は投げ縄なんかをかける場所らしいの、だけどわたしみたいな背の低い人には違う意味で便利な物よ。


 ハミを噛ませて手綱をセットして鞍を乗せたらいよいよ騎乗、左足をアブミに乗せるのだけど、わたしの腰よりも高い位置に有るアブミ、Y字バランスレベルの柔軟性が必要よ、

 そこからジャンプする様に乗るのだけど、ホーンを掴むと乗り易いわよ。



 わたしの身長は1メートル60くらいだったわ、レオポルド様の術で若返った時に縮んだかもしれないけどね、

 そんなわたしが2M以上の高さから周りを見下ろすこの優越感、身長って大事よね。


「これは、もう出立ですか」

 レオポルド商会の護衛ロドリゲスが足元から声をかけて来た、

「ええ、ペーターをお願い出来ますか?」

「よろしいですよ、わたし達の出立はまだ先ですしね」

「ロドリゲスさん、昨夜は忙しかったんじゃないのですか?」

「ええ、しつこくて、なかなか離してくれませんでしたよ」

 一見男女の睦言の様だけど、女給がわたし達の行き先をしつこく訊いて来た、と言う意味よ。



 ▼▽▼▽



 転生前に住んでいた日本、県や市の境界線はキッチリ引かれていたし、戸籍もしっかりしていて、誰がどこの県の何と言う町に住んでいるのかはしっかり分かっていたわよね、


 だけどこちらの世界の領地の境界は曖昧、もちろんこの河が境とか、この尾根のこちら側が我が領土、なんて境界がしっかりした領地もあるけど、どこの領主が治めているのか? 良く分からない土地と言う物もあるのよ。


 わたし達が足を進めているカリーナの森がまさにそれ、この森を治めている領主はいないわ、これって税金を納めなくて良いって意味だけど、誰も守ってくれない、と言う意味でもあるの、

 森に住まう恐ろしい魔物とか、もっと恐ろしい野盗とか……




 カリーナの森を走る優雅な馬車、御者まで若い女性で“襲ってください”って言っている様なものね、

 いかにも女騎士です、と言う出で立ちのわたしとアリアネが騎馬で先を行く、

 魔法を覚えたわたしは探知魔法で周囲を探索、探知魔法をどうやって説明したら良いのかしら、自分を中心に魔法の波を放つの、同心円状に広がった波は人間や動物がいると、それに反応して光るの、

 そうね~、レーダーよレーダー、使った事無いけどね。


 待ち伏せしている相手を探すには便利この上ない魔法だけど、欠点があって相手が魔法を使えると、かなり遠くからわたしの存在がばれてしまうの、

 イメージとしては暗闇の中を大きな懐中電灯で照らしている様なものかしら、

 カリーナの森にはそんな魔法使いはいないと思うけど大丈夫かな?



“おっと”左斜め前に一人いるわね、急いで移動して行ったわ、二人いるわね、

 朝靄の中出発してやっと日が射して来た早い時間帯から手を出すとは、せっかちね~ 嫌われるわよ。


 わたし達を襲ってくるかと思ったらやり過ごした、後ろから攻撃して来るつもりなのかしら、

 おっ、前にはもっと大勢いるわね、そこのカーブの先ね、わたしはハンドサインで合図する。


 御者は了解の合図を指で送って来た、いよいよね、予想通りカーブを曲がった先には丸太が横たわっていて、その後ろには野盗とおぼしき人達、

「おっと、お前らここから先は通せねぇぜ」

 野盗にしてはやけに小奇麗な男、これは麓の宿場町から来たと言う意味よ、

「無礼な、こちらはやんごとなきお方であるぞ、さっさと道を開けんか!」

 わたしが馬上から叫ぶが、野盗一行はニヤニヤ笑っているだけ、世間知らずの小娘だと思っているみたいね、半分は当たりだけど。


 最初に降りたのは御者、

「無理です、相手は大勢です、降伏しましょう、命だけは助けてもらえるかもしれません」

「ギャハハハァ、そうだぞ、御者の姉ちゃんの言うとおりだ」

「そうだ、こっちに来いよ、いっぱい可愛がってやるぜ」


 2人の御者は恐る恐る野盗の方に歩いていく、気が付け馬車の扉が開きメイド達もそれに従って歩いていく。

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