第57話 乗る人、乗られる人
スリーローズ商会はレオポルド奴隷商会の護衛任務を受けた、それとは別に“お姫様護衛”の秘密ミッションもあるのだが、それでも全ての戦闘奴隷が参加する訳ではないの、
半分は居残り組よ、彼女達には“迷宮の上層階で腕を磨け”と指示をしておいたわ。
10歳くらいの戦闘適正の有りそうな子を買い取って来て修練を積ませ、ある程度の技量になったと思ったら奴隷身分を解き独立させているの、だけどみんながみんな独り立ちで成功する訳ではない、
戦闘能力は充分あるのだけど、荷物持ち奴隷を上手く使いこなせなかったり、収入支出の計算が出来ずに破たんした子、中には一人暮らしは寂しいから、なんて理由で出戻って来た子もいた、
彼女達出戻り組の身分は平民のままにしてあるから、わたしがいなくても迷宮に潜れるのよ。
ちなみにカタリーナは自立に充分な貯金が貯まっているのに
“ミヤビ様が心配ですからお側にいます”
なんて優しい事を言ってくれる子よ。
ダ・デーロの街から四方に伸びる街道、馬車が余裕ですれ違い出来るくらい広い石畳みの道は常に綺麗に整備されているわ、
そんな道をのどかに進むレオポルド奴隷商会一行の馬車、今回はダールマイアー領まで足を伸ばすから、あちらで売る為のメイドや娼婦を乗せている、
綺麗なお姉さんを売りさばいたら、農村を廻り田舎娘を買い取って来るのが奴隷商会の遠征よ。
わたし達スリーローズ商会の典雅な馬車は車列の最後をカタカタと進んで行く、
中にはちょっと体格の良いお姫様が乗っているわ、慣れないスカートを穿いて大変じゃないかしら?
わたしは騎乗して馬車に付かず離れずの距離を歩いている、こちらの世界に来てから覚えた乗馬、
馬任せで歩かなくて良いから楽だね、なんて言われるけど、乗馬って意外に疲れるのよ。
アリアネ達護衛も全員が騎乗して奴隷商会の車列を守っているの、馬を目の前にすると徒歩の人はそれだけで恐怖感を感じるので、威圧効果抜群なのよ、護衛の任務は隊商を守ること、戦う事じゃないからね、相手に攻撃を諦めさせる事がわたし達の仕事だと思ってちょうだいね。
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ダ・デーロは大きな街よ、その周辺の治安は守られているから野盗なんてお目にかかれないけど、街道を数日進むと気を許せない場所になってきたわ、
いよいよお姫様の出番ね、
宿場町ビスカス、街道が交差する街なので往来は盛んで、宿屋もたくさんある街、そこで一番繁盛している宿屋を選んで、部屋に荷物を運びこんだら1階の食堂で夕食、
縦型のグリルに肉を置きゆっくり回転させながら調理して、シェフが切り落とし皿に盛り付ける、転生前にも見たことある料理ね、シュラスコだったかしらケバブ?
焼きたて肉の香りとぬるいエールの匂いが食堂を満たし、胸元を強調したディアンドルみたいな服を着た女給さんが忙しそうに皿を運んでいる、
もう少し経つと彼女達は違う仕事で忙しくなるの、皿洗いじゃないわよ、念の為。
夕食の後周りの客に見えるように地図を広げて明日の予定を打ち合わせ、
「……こちらとしては一刻も早く王都に着きたいのです、カリーナの森を抜ける道で良いではないですか」
「まてまて、アリアネ殿よ、あんな辺鄙な道を行って野盗に出くわしたらどうするつもりかな?」
「その為に護衛がいるのでしょう」
レオポルド商会の“本物”の護衛ロドリゲスとスリーローズ商会のアリアネが意見を戦わしている、
「もう良いです!」
周りのみんなに聞こえるように交渉決裂を宣言したアリアネはドスッドスッと足音を立てて階段を登っていく、
食堂のみんなが注目したのもほんのわずかな間、今まで通りガヤガヤした雰囲気が戻って来たビスカスの宿屋、
眉間にシワを寄せてエールを傾けているロドリゲスの元に女給が近づいて来た、豊満な胸を戦闘奴隷の前に差し出す、
宿場町での交渉はずいぶん直接的ね。
“あー、心配だな、ロドリゲスは女の色香に弱いから、ポロッと喋ったらどうしましょう?”
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