第56話 されるがまま

 運動部の合宿所みたいな食堂を後にしたわたし、カーペット敷きの廊下を進んでいると、斜め後ろの視界には入るけど、目ざわりではない絶妙な位置と距離にシルヴィエがついて来ている、

 そんな彼女がスッとわたしの前に来て流れる様な動作でドアを開ける、前から見ると普通のメイド服なのに、背中がパックリと開いていて薄暗い場所でほんのり白く光っているみたいよ。


 部屋で待っていたのは薄着の女性、今夜の実習相手ね、

「お帰りなさいませ、お嬢様、わたくし今宵お世話を致します、フラウライナでございます」

「そうなの」

 わたしは無造作にソファに座ると彼女にも対面に座る様合図する。


 一段低い椅子に座った彼女、風俗嬢は常に男の目線よりも下にいないとダメよ、男って何でも征服しないと気が済まないの、バカだから。

「おや、お嬢様、今宵はワッサーヴィを召しあがられましたね、心地良い香りが漂って来ますよ」

「そうなの、フラウライナは鼻が良いわね」

「ありがとうございます、今宵はもっといろいろな香りを嗅いでみたいですね」

 ワッサーヴィと言うかワサビの香りが残る訳ない、厨房で献立を調べて話の取っ掛かりを探して来たのね、

 こちらも乗ってあげよう。


「ねぇ、フラウライナ、あなたにとってワッサーヴィって何かしら?」

「そうですねぇー、 わたくしの目指す物でございましょうか」

「あら、あなたあんなにツーンとした物になりたいの?」

「はい、一度口にしたら忘れられない女と呼ばれてみたいものですわね」

 ニッコリ微笑む卵形の優しい顔、目鼻が整っているけど、術は使って無く天然物だそうよ、

 薄着を押し上げる物も天然な訳だ、今夜の枕は柔らかそうね。



「……それでね、水が綺麗なだけじゃダメなの、日差しも大切なのよ」

「お嬢様は博識でございますね、ワッサーヴィを知らない者の方が多いと言うのに、栽培方法までご存じだとは」

「まあね、知識はいくらあっても荷物にはならないでしょ」

 フラウライナは話を引き出すのが上手ね、気がつけばワサビの作り方を熱心に話していたわたし、前の世界のテレビで見ただけの話なんだけど、

 風俗嬢は話が上手と言うよりも、相手の話を引き出すのが上手な事の方が大切よ。


「今夜は、たくさん話をしたわね」

 翻訳すると“背中を流せ”なんだけど、高級店ではハッキリ言ってくれるお客さんは少ないのよ、遠回しな要望を聞きとる必要があるわ。


“実習場”に案内されたわたしはされるがままよ、吐息がかかる位の距離で優しく身体を洗われたら、抱っこされてネコ足のバスタブに浸かる、

 その後はお楽しみのマットね、エアーマットの上でのマッサージは高級店の定番メニューになったの、

 マットプレーは高級娼婦の必須教科よ、バレーナの皮で出来たマットが売れる度にわたしの商会にもお金が落ちるし、

“あれ、わたし異世界の風俗王みたいになっていない?”


 昨日までは18歳の身体だったのに、15歳の未熟な身体に戻ったわたし、優しいお姉さんと、いたいけな少年が絡み合うみたいで背徳的な夜だったわよ。

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