第55話 癖になるツンッとした刺激

 わたしのスリーローズ商会は海辺の別荘に居を構えた、最初は高級娼婦候補生に作法を教えていたのだけど、魔力が有ると分かってからは戦闘奴隷がその中心に、

 迷宮に行かない日は庭で剣術の音が響いている、木剣の音も耳に馴染む様になって来た今日この頃。


 今日の晩餐はご馳走よ、アイスドラゴン討伐の記念で、上等な肉と滅多に手に入らない食材をふんだんに使ったご馳走、娘達は部屋に漂う香ばしい香りで食欲スイッチが入り、おあずけの犬みたいな顔をしているわ。

「えー、それではアイスドラゴン討伐を記念して一席設けたいと思いこの場に集まって頂きました、今回の討伐成功は皆さん一人一人の力を合わせて成し遂げた物だとわたしは思っております、ですがただ大勢集まれば良いと言うわけでは……」



「ミヤビ様、話長いです~」

 カタリーナが不満顔で言う、良く見ると他のみんなも退屈そうな顔していたり、虚空を見ていたり、ウサギ獣人コンチータは長い耳をペタリと寝かせてウトウトしている、

「それじゃ乾杯!」

 カタリーナが強引に音頭を取ると、みんなも待ちかねた様にグラスを上げる、

『かんぱーいぃぃぃ』


 今の立場になって思った事、わたしは話が長すぎて教師向きではない、マンツーマンで風俗嬢を教育するくらいなら問題ないが、学校の先生には向いていないわね。

 そうそう風俗嬢への教育はエルネスタとアントーニアと言う2人に任せている、彼女達は高級店からわたしが“身請け”したの、経験者は教え方が全然違うのよ。


 風俗嬢の教育の場であり、戦闘奴隷の溜まり場でもあるわたしの別荘、どちらかと言うと間逆の立場、水と油みたいに反発しないかと心配していたけど、関係は良好よ、

 普段は剣や槍を振り回している戦闘奴隷達も、オフになれば綺麗な服を着てオシャレなアクセサリーを身につける、綺麗な風俗嬢のお姉さんは憧れの存在よね。




「ミヤビ様、お肉を切り分けてきました、よろしかったらどうぞ」

 20代前半くらいの女性がわたしの前に皿を置いてくれる、シンプルなメイド服なのに内から溢れる蠱惑的な感じが隠せない、

「ありがとう、あなたは確かシルヴィエね」

「はい、わたくしシルヴィエは只今教育を受けている最中でございます」


 わたしの食事はみんなと一緒にみんなと同じ物を食べるようにしているの、迷宮に潜れば、苦楽を共にする仲なんだしね、だけど商会主と言う立場もあるので、風俗嬢候補生をメイドとしてはべらしているの、

 時々実習の相手になったりもするけど、あくまでも商会主としての仕事としてよ。


「こちら薬味になります」

 シルヴィエはそう言って緑色の根っこと下ろし金を取り出す、

「あら、ワサビじゃない!」

「はい、こちら王都で流行しているワッサーヴィと言う薬味ですが、ご存じでしたか」

 そう言いながら彼女は下ろし金でワサビをすり下ろすの、たったそれだけだけど、真っ白な細い指が前後に動いているだけで違う行為を想像させてしまうの、

 力が入り過ぎたのか細い指が下ろし金に当たると、

“あっ!”小さい声を出した彼女は細い指を口に咥える、指を舐める動作を見ているだけなのにもはやベッドルームにいる様な錯覚になるわ。


 あざといと分かっているけど、その気にさせる手管を学んでいるだけの事はあるわね。


 ツーンとした鼻に抜ける香りとこんがり焼けたお肉のコラボ。

 わたしが湧きあがる食欲と性欲、ほんの少しのホームシックにとらわれている時、

 カタリーナが椅子の上に立って声をあげる、

「はーい、みんな聞いて~

今度は奴隷商会の買い取り遠征の仕事が入りました、メンバーを言いますよ、

 一般護衛、アリアネ、ヒセラ、ナオミ、マルチナ」

“オオォォォ”とどよめき、

「はい、まだありますよ、今回はお姫様も行きますよ、まずは侍女モレーナ、エリーカ、アニカそれとパトリッイア」

 まだ10代前半の子供っぽさが抜けない子達が侍女、これは定番ね、問題はお姫さまよ、

 みんなも目をキラキラさせて誰がお姫様になるかを待っているわ、


「お姫様はナーディアです」

「やったーっす」

 体格の良い彼女は大きな声で叫ぶが、一斉に周りから詰め寄られる、

「こんな丈夫なお姫様なんて見た事無いし」

「話が田舎丸出しじゃん」

「いいっす、お姫様はしゃべらないからいいっす!」

 姦しい少女達の騒ぎは収まるどころか、大きくなるばかりよ。

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