第12話 チャラ男社会問題を語る

 娼館主に手紙を送った数日後エステファニア様から返事が来たので会いに行く。

“しばらくお待ちください”

 と応接間に通されたが、出て来たのは男性、若いけどシュッとした感じで代理店の営業のイメージ、

「ミヤビ様、申し訳ございません、主人のエステファニアは会合が長引きまだ帰宅しておりません」

「あなたショーティーなの?」

「左様でございますよ、ミヤビ様」


 チャラ男でヒモのショーティーがしっかりした男に産まれ変わった、いやこれが本来の姿なのかも、

「ずいぶん印象が変わるわね」

「主人の望む姿を演じるのが奴隷の務めと考えておりますゆえ」

 ゴメン、あんたの事を誤解していたよ、プロの奴隷だったんだね。


「最初の売り込みの時はゴメンなさいね、ご主人様に叱られなかった?」

「ああ、デボラの事ですか、正直に言うと舐めていましたね、まさか指だけであんなに気持ち良くなれるとは」

「わたしの奴隷商会の性奴隷達には色々な手管を仕込んでおりますので、その方が女性の負担も少ないでしょ」

 接客業と言われる風俗だが肉体労働の側面もある、男性が早く天国に逝けば逝くほど、女性達の負担も小さくなるわよね。



「エステファニア様は会合って言っていたけど娼館の組合みたいな物なの?」

「はい、何でも今日は衛兵隊や街の代表まで呼んでの話し合いと言っていましたから、長引いているのかもしれませんね」

 わたしが見た範囲では娼館は問題無く動いている様に見えるが、もしかしたら治安とか景観で文句を言われているのかな、

 日本ではソープランドの新規出店はほぼ不可能な状態よ、地元の反対が大きすぎるの、風俗店が近所に出来たら嫌だって気持ちは分かるわ、

 ソープランド経営者が色々な理由で廃業したい時はあっという間に買い手が付き既存の店を居抜きで売るそうよ。



「やっぱりこの街では娼館は嫌われているのかしら?」

「それは無いと思いますよ、娼館は法によって守られておりますし」

「ねぇ、ショーティー、わたしそこら辺の法律とかは知らないの、教えてくれないかなぁ?」

「よろしいですよ、まずはこの国では売春は違法です」

「あら、この建物はなんなのかしら?」

 売春禁止の法律があるのに本番行為の出来るお店、日本のソープと同じよね。


「はい、そこがキモと言うべき事でして、基本は禁止ですけど、許可された地域の許可された業者のみが営業を出来るようになっているのですよ」

 管理売春と言う訳ね、どうせ法で規制しても無くなる物じゃないから、臭い物は一か所にまとめて蓋をしておけ、と言う発想ね、

「なるほど、行政も考えましたね」

「はい、ところがみんながみんなルールを守る訳ではないのですよ、食いつめた農民とかが街に流れ込んで下層地区で勝手に商売をしているのが問題になっていまして」

「それを取り締まるのね」


「いやいや、それがそんなに単純じゃないのですよ、大きな街で取り締まりを強化すると、女共は街道沿いの宿場町に移っていくのですよ、そこで女給として働くので、女給って分かりますよね」

「まあね」

 昔の日本の飯盛女みたいな物だろう、一階が食堂で二階が売春宿になっているのかな?


「宿場町だから多少はお目こぼしがあるのだけど、あんまり派手にやると地方の領主も取り締まりを強化します、そうなるとまた女共は街に流れ込んで来て、まぁその繰り返しなんですけどね」

「単純な取り締まりよりも、根本的な問題を解決しないとダメなんじゃない?」

「そうです、その通りです、まずは田舎から教会を無くさないとダメですね」

「この話の流れで教会が何の関係があるのかしら?」


「そうですねぇ、田舎に行くと教会が病院みたいな物なんですよ、今までだったら死んでいた赤ん坊が教会の治療で助かったりするのですよ、それはそれで良い事なんですけど、

 農民共は今まで通り赤ん坊はすぐ死ぬ前提でポンポン子供を作っては産んで、作っては産んで」

 ショーティーは両手を広げて爆発の仕草、


「乳児の死亡率が改善されたのが理由と言うわけね」

「そう言う事です、とは言え今更病院を取りあげる訳にもいかないですし、教育をしっかりするくらいしか……」




 良い機会だからこの国の宗教についても話しておこう、まずは神殿、魔力の有る無し、魔道を開く等をしてくれるのだけど、国が出来る前から有った宗教施設。

 もう一つは教会、正式には女神来光教会合所なんて長い名前らしいが、割と新しく数百年の歴史しか無く、最初は都市部を中心に布教していたけど、最近は農村部にも増えているそうだ、

 ショーティーの話通り病院やちょっとした学校の役割も果たしているそうだ。

 神殿と教会はケンカをしないのか?

特に問題はないそうよ、まぁ日本の神社とお寺みたいなものなのかな。


 ◇


「……お帰りなさいっす、ご主人様」

 さっきまで真面目な顔して社会問題について話あっていたショーティーが一瞬でチャラ男に戻った、さすがはプロだ。

「すまんなミヤビ、遅くなってしまった」

「いえ、大丈夫ですよ、ショーティー様に無聊を慰めてもらっておりましたから」

「自慢の奴隷だ、そうそうこれを先に渡しておくか、お前が仕入れたデボラは高級店に格上げになった、納めてくれ」


 エステファニア様は金貨の乗ったトレーをわたしに差し出す、

「あの、デボラはわたくし共の手を離れておりますよね、それなのにお金を頂くなんておかしいのでは?」


「ミヤビ様、これは業界の慣習の様なものです、売った娘が格上店に行ったり身請けされたりした場合は感謝の印を表すものでございます」

 オスヴァルトさんが業界のローカルルールを教えてくれたので金貨を納めさせてもらった、

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