第5話 男の悦び、女の苦行

 異世界に来てすぐに、騙されて人買いに売られたと思ったら天罰が落ちたのか、人買いは魔物の餌食に、その後わたしを助けてくれたのが奴隷商人のレオポルトだった、まだ17の子供だけど立派な大人だそうだ、

 わたしは彼の奴隷になる事を受け入れた。


 人買いから奴隷商人ではたいした違いが無いと思うかもしれないけど、実は大違い、主人は奴隷の衣食住の面倒を見る必要があるし、必要の無い暴力を加えてはならない、

 その代わり主人の命令は絶対だし、主人を害してはならない、首に嵌った銀色の首輪の力でそんな事が出来ない様になっている、

 とは言え能力の持った奴隷は重用されるし、時に奴隷が平民を使う、なんて場合もあるそうよ、

 これは奴隷と言う言葉のイメージが悪いわね、鎖で繋がれた哀れな労働者ではなく、雇用と被雇用の関係と言った方がいいかもしれない。

 こちらの世界で何の後ろ盾も無いわたしは奴隷の首輪を受け入れ、被雇用者となった、少なくとも衣食住の心配はいらないわ。


 そうそうわたしが買われたレオポルト奴隷商会の周りを説明しておこう、ここはデ・ダーロと言う海沿いに有る迷宮都市、街の真ん中に迷宮と言うファンタジーな物があり、そこから放射状に幹線道路が伸びている街なの、

 街は石畳のヨーロッパの街並みを想像してみて頂戴、車のエンジン音の代わりに蹄の音が聞こえて来るのよ、


 幹線道路沿いは一等地、その次が二等、三等となって格が落ちていくのだけど、商会は1.5等地とも言うべき場所に建っているわよ、

 ヨーロッパ風の建物は表から見ると四階建ての建物だけど、裏側にはパティオがあって、護衛のサン・ホセやロドリゲスが剣の稽古をしているわ、彼らはわたし達を助けてくれた頼りになる戦闘奴隷だそうよ。



 わたしは教養があるのを買われレオポルト奴隷商会の教育係に収まった。

 最初に任されたのはクリシュナとデボラと言う二人の娘とビアンカとあわせて三人を性奴隷に仕上げろ、と言われた、三人とも目を凝らすと胸元に黄色い球が浮いているから適正がありそうね。


「さぁ、三人ともまっすぐ背筋を伸ばして立ってみて」

 三人とも物凄い猫背、普段腰を曲げているだけの農民だったから仕方ないけど、そんな猫背娘ではお客の前に出せないわよ。


「ほらクリシュナもっと胸を張る」

 後ろに周って16歳の少女の肩甲骨を“グイッ”と引っ張ると音がしそうなくらい巨乳が揺れる、

 実はこの子の黄色い球が一番大きい、接客業として一番有望株なんだけど、なんと言うか教養が今一つ、

 頭が悪い訳ではないのだけど、生まれてこの方農夫しかしていなかったので、話題の引き出しが少ないのだ、

 逆にビアンカは姿勢は良いし知識も豊富、どうしてなのかは訊かない方が良いわよね。


 ソープ嬢は綺麗なお姉さんがお股を広げていれば務まるなんて易しい物じゃないのよ、相手をくつろがせて心地良い時間を過ごさせる話術の方が大切なのよ、

 お店の料金表を見てみて欲しい、格安店だと45分コースとかだけど、高級店では2時間や3時間も、

 もちろん3時間ずっと身体を重ねている訳じゃない、会話でもてなすのも大切なスキルなのよ。


 綺麗な姿勢と話術その次は顔ね、ここでも誤解がある様だけど風俗には美人が向いている、それは事実よ、

 だけど美人なら誰でも良いかと言うとそうじゃない、絶世の美人だけど能面みたいに無表情な女と、顔は及第点レベルだけどお客の前でニッコリと微笑んでいる娘、

 お店で人気になるのは間違いなく後者よ。


「はい、デボラ微笑んでみて」

 なんとか笑顔を作ろうと頑張っているけど、今一つ表情が硬いデボラ、

「ちょっと硬いかな、そんな表情ではお客さんはくつろげないわよ、そうねぇデボラは恋人いた?」

「いません」

 首がちぎれそうなくらいの勢いで左右に振るデボラ、


「だけど憧れている人とかいたわよね」

 わたしの言葉に顔を真っ赤にするデボラ、素直な子ね、

「はい、その憧れている人が目の前にいると思ってニッコリ微笑んでみましょう」



「教育は上手く進んでおりますかな?」

「これはオスヴァルトさん、今はお客の前に立つ最低限の仕草を身につけているところでございます」

「それで充分です、ミヤビさんには閨の作法など御存じないでしょうし」

 いやいや、何を言っているんだ、わたしは風俗のお姉さんだよ、


「閨の作法まで全て教え込みますよ、大丈夫任せてください」

「そうですか、何か必要な物は有りますかな?」

「子供向けの絵本を数冊と字と簡単な計算を教えたいので筆記用具を」

「よろしいです、準備致しましょう」


「ところでレオポルト様はどうなさっているのですか、首輪をした日から見かけておりませんが」

「坊ちゃまは研究に励んでおられます、本当はこの様な商いの道に進むよりも研究の道に進んだ方が相応しいお方ですし」

 レオポルト様の胸元に浮かんだのは紫色の球、学究の適正だったわね。


 あれれ、オスヴァルトさん“坊ちゃん”って呼んだよね、いつもはレオポルト様なのに、しかも主人に否定的ともとれる言葉、ダメじゃないけど執事としてはどうなんだ、

「あのー、オスヴァルト様も隷属の首輪をなされておりますよね」

「こちらに」

 ホライゾンカラーの隙間からプラチナカラーの首輪を見せる、

「その様な事を言ってよろしいのでしょうか?」

「構いませんよ、わたしはもともと坊ちゃまの奴隷ではありません、大旦那様つまり坊ちゃまの父上の奴隷なのです」


「それは存じませんでした」

「サン・ホセとロドリゲスも同じですよ」

 わたし達を助けてくれた二人の剣士もレオポルト様ではなく、その父親の奴隷だった訳だ、

「父上から、早く一人前になれと、圧力をかけられている上に婚約者までおりますから大変でしょう」

「婚約者?」


 いささかしゃべり過ぎたと思ったのだろう、オスヴァルトさんは黙って部屋を後にした。

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