第4話 わたしを奴隷にしてください
異世界に来た、と言っても毎日田舎道を馬車で進むだけ、田舎と言っても日本の田舎みたいにガードレールは無いし、道路脇の看板も見当たらない、緩やかな丘陵地帯を縫うように伸びる石畳の道。
わたしは三日間御者台の横に座り、オスヴァルトさんの話し相手を務めた、実際にはわたしの情報収集の面が大きかったのだけどね、
色々な事が分かって来たけど、貴族とか上流階級の人達ほど魔力が大きいそうで、一般の庶民では殆ど使えなかったり、使えても生活魔法程度だそうだ、
だけど生活魔法でも凄いよ、道具も無いのに水を出したり、風を起こしたり、暗闇を照らしたり出来るんだよ。
「……そうそうミヤビ殿、生活魔法とはいえ長い時間使うと魔力を消耗してしまいますよ、そうならない為に魔道具を使うのですよ」
魔法に魔道具?ファンタジー過ぎて頭が処理落ち寸前よ、
「魔道具とは何の事なのでしょう、教えて頂けませんか?」
「魔石と言う物がありまして、まぁ魔力の詰まった物の事なのですが、それを特定の回路を描いた魔道具にセットすると、周りを明るく照らしたり、火を起こしたりできのです」
魔力が電気だとすれば魔石はバッテリーね、そりゃこの世界で電気が無いはずよね、必要無いんだし。
「ところでミヤビ殿、わたし達は午後にはダ・デーロ街の商会に帰ります、その後はいかが致しますか、あなたほど聡明な方でしたらどこに行っても一角な存在になれるとは思いますが」
「正直に申し上げると、この国の事が良く分かりません、身の振りで迷っている所なのです」
「我々のレオポルト奴隷商会の奴隷になるのはいかがでしょうか? 奴隷は人買いで買われた者と違い、衣食住が保証されておりますよ、
ちなみにビアンカ嬢とカタリーナ嬢は奴隷なる事を受け入れましたよ」
イケおじオスヴァルトさん、ここ数日一緒にいてすっかり打ち解けた気持ちになっているけど、ここで彼の言葉を信用するのはどうなの? だって奴隷よ、ド・レ・イ
「もう少し時間を頂けませんか?」
「はい、良いですよ、ご自身の将来の事ですからね、しっかり考えてください、どんな結果になろうともわたくしオスヴァルトはあなたの選択を応援いたしますよ」
◇◇
奴隷商人が執務室で気だるげに背もたれに体重をかけている、商人とは言ってもまだ10代後半であどけなさが残る顔立ちだが、こちらの基準では立派な成人、
「……それではカタリーナ、お前の親は何をしていたのかな?」
「おっとうもおっかぁも行商人でした」
四角い顎で大きな鼻のいかにも田舎の少女が答える、
奴隷商人は額に力を集めて短く言う、
「!!違うな、カタリーナ、お前に親はメイドだ!!」
「はい、わたしの親はメイドでした」
「母親の顔を思い出せるか?」
10歳の少女の頭の中には日焼けした女性の姿が浮かんで来たが、同時に激しい頭痛に襲われる、
「よく、思い出せません」
「!!母親はお前を産んですぐに死んでしまった!!」
「はい、わたしの親はすぐに死んでしまいました」
「カタリーナ、下がって良いぞ」
少女は部屋を後にする。
「隷属スキルとはたいしたものですな、レオポルト様」
「ああ言う小さい子はすぐに効くから楽だよ、どこに売れば良いかな?」
「顔がアレでしたので、下働きの使用人くらいしか思い浮かびませんな、もっともレオポルト様の“術”を使えば好事家に売れるかもしれませんが」
執事の言葉に躊躇する主人、
「しばらくは様子見しておこう、あと残っているのはミヤビと言う女だけだな」
「はい、レオポルト様、あのミヤビと言う娘は貴族の生まれで間違いありません」
「だとしたら隷属スキルが効かないかもしれないな」
奴隷契約にかかわらず、相手に自分の意思を押し付ける事が出来る隷属スキル、奴隷達の過去を清算出来るので便利な能力、
だが誰にでも効く物ではなく、自分よりも身分が下の者にしか通用しない。
「あの者頭が切れます、商会で取り込んでおくべき人材だと思いますが」
「その様に勧めたのか?」
「いえ、聡明な者には下手な説得は逆効果になりますゆえ」
◇
結局決断をズルズルと先延ばししていたわたしはレオポルト奴隷商会にまで来てしまった、
そこで初めて商会主に会ったのだけど、まだ10代の子供だったのでビックリよ、
「始めましてミヤビと申します」
「うむ、それがしの名はレオポルト」
尊大な態度を取ろうとしているのだけど、お姉さんの目には高校生が大人ぶっている様にしか見えないの、
とは言え結論を出さないとね、
「レオポルト様、わたくしミヤビを奴隷にしていただけませんか?」
「うむ、わかった」
奴隷契約は数分で終わったわよ、あっけないわね。
◇
「……そうね、学校には15年程通っていたわよ」
「そうか、ミヤビとやら、親の顔を思い出せるか?」
「ここ数年は顔を合わしていないけど、覚えてはいるわよ」
「!!母親はお前を産んですぐに死んでしまった!!」
「ちょっと、君はわたしの話覚えてないの? 親はまだ生きているわよ」
「そうだったな、ボクは奴隷商人でお前はボクの首輪を受け入れた、どこに売られても文句は無いな」
「文句は無いけど、希望は有るわ」
「なんだ?」
「わたしは娼館に行きたいの」
誰もが嫌がる娼館に行きたがる女奴隷、小さい主人は執事に助けを求める、
「そうか、オスヴァルト、この娘は娼館に行きたがっているのだが、どうかな?」
「難しいでしょうな、歳は二十歳をとっくに過ぎておりますし、
教養があるから貴族の侍女辺りがよろしいかと思いますが、売り込みに行って売れる物でもありません、引き合いが来るまではお館で教育係でも任せたらいかがでしょうか」
「うむ、そう言う事だ」
これは屈辱ね、お店では若手ナンバーワンとか期待の新人、なんて呼ばれていたのに年増扱いなんて、あんまりじゃない。
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