第3話 馬に例えるのはどうなの?

 人買いに買われたと思ったら魔物に襲われているわたしたち、わたし達を閉じ込めておく鉄格子のおかげで命拾いをしたとは皮肉だ、

 それでもジャバーリと言う魔物はわたし達を襲おうと順番にタックルをしてくる、


 もう最後かも、そう思っていたら彼らがやって来た、長い刀を持った二人の剣士、日本刀みたいな反った刀じゃなくてまっすぐな刃先が魔物を次々と倒していく、

 イノシシもどきが剣士に向けて突進するが、剣士は真正面から受ける構え、そう思ったら直前でヒラリと身をかわし首元に一閃、

 闘牛士ってこんな感じなのかしらね、見た事ないけど、

 今まで馬車を囲んでいた魔物達も新たな脅威に向けて殺到するが、何と言うか格が違うのだ、凶悪な魔物を羽虫でも振り払うかの様に切り倒していく剣士2人。

 いや~、もう映画みたいな戦いだったわよ、


「ここよ!開けて」

 ビアンカが鉄格子を掴んで叫ぶが、男は下がれと手で合図、刀を振り下ろすと、

“ガッキッー”と音がして忌わしくも頼りになった扉が開く、


「大丈夫か?」

 いぶし銀の鎧を着た剣士、顔つきは西洋系っぽくて、ヨーロッパの騎士を想像してみてちょうだい、

 あれ?この人胸が赤く光ってない?確か適正は……

「ありがとう、命拾いしたわ、騙されて人買いに売られ難儀をしていたの」

「ふむ、そうか、人買いは違法な連中だが、あれでは衛兵に差し出せんな」

 男が剣で指示した先にはスプラッタな人間の死体、その場で吐いてしまったわよ。


「大丈夫ですか?」

 見苦しく吐いているわたしに声をかけて来た男性、物腰からしてさっきの剣士じゃないわね、

「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」

「ふむ、お困りのようですな、こちらをお使いください」

 顔を上げると洗面器くらいの大きさの水の塊が宙に浮いている、いやいや魔法ってこんな事も出来るの、

 横から水をすくうと言う体験をしたわたしにハンカチを差し出す男の人、こちらの世界に来て初めてまともな服を着ている人に会ったわ、

 仕立ての良いスーツに真っ白なシャツ、顔つきはアジア系ではないけど、欧米系?それともアラブ系?良く分からないけど、イケメンのおじさん略してイケおじ、お客だったら大歓迎のタイプよ。

 歳は40後半と言ったところかな、髪の毛は紫だけど今更驚かないわよ、

 胸元にはオレンジ色の球が浮かんで見えて来た、


「ハンカチありがとうございました、わたくしミヤビと申します、無法な人買いに連れ去られ難儀をしていたところを剣士様に助けて頂きました」

 そう言うと綺麗なお辞儀をする、

「なかなか、育ちの良いお方に見受けられます、わたくしオスヴァルトと申す者、さるお方の執事を任されております」

「執事のお方でしたか、オスヴァルトさんとお呼びしてよろしいでしょうか?」

「かまいませんよ、この先いかがなされますか、もしよろしければ近郷の街までお送りしますが」


 わたし達三人はオスヴァルトさん達の馬車に乗せてもらう事になったのだけど、わたしだけ、

「ミヤビさん、わたくし御者を任されておりますが、道中退屈です、話し相手になってもらえませんか」

 そう言う訳でわたしだけ御者台に乗る事に。


 ◇


「……そう言う訳で土砂降りの雨で近づくノブナガの気配に気がつかず、イマガワはあっという間に首を取られたそうです」

「なるほど、奇襲は戦の常道ですが、そんなに見事に決まるとはたいしたものですな、しまもたった2000で25000の大軍を襲うとは」

「単純に12倍以上の差がありますからね」

「あっ、左様ですな、しかしミヤビ殿は学がありますね」

「一応最高学府にまで進みましたから、あいにく卒業はしておりませんが、15年近く学校に行っていた事になります」


「……ところで変わった装いをしていらっしゃいます、どちらの仕立屋に注文されたのでしょうか」

「ああ、これはそれ程でもありません、部屋には溢れるほど服と靴がありましたよ」

「……」


「それよりオスヴァルトさん、魔法の事を教えて頂けませんか、先程の水の球わたくし初めて見ました、凄いですね」

「おやおや、あれは基本の生活魔法と呼ばれるレベルですよ」

「この国では誰でも魔法が使えるのですか?」

「全員ではないですね」

「左様でございますか、やはり魔法は覚えるのが難しいのですね」


 うーん、と唸ってしまったオスヴァルトさん、もしかして魔法の事は聞いてはいけなかったの、それとも余りに基本だからどこから教えて良いのか分からないのかな、

「ミヤビ殿は魔法についてどの程度ご存知かな?」

 わたしは首を左右に振る、

「まず大切なのは身体の中に魔力の塊があるかどうかです、もし神殿に行って魔力があると判断されたら、魔道を開く事をしてもらいます、

 魔道と言うのはそうですね、魔力の通り道とでもいいましょうか」


「なるほど、それで魔法が使えるようになるのですね」

「いえ、それだけでは魔力を垂れ流すだけです、そこから細かい魔力操作を習います」

「へぇー、今二頭の馬が馬車をひいていますよね、オスヴァルトさん」

「左様ですね」

「馬の心臓が魔力の塊で、血管が魔道、そして走り方を教えて初めて馬になる様なものでしょうか」

「的確な例えですね、その認識でよろしいかと」

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